9 / 18
お兄さんは一緒にねんねしないらしい
しおりを挟む鼻と鼻をくっつけて、ぎゅっとシュロの背中に回した手が彼のしっぽに触れる。
「逆立ってる?」
「…ヒカルが近いからな。」
「昨日もぎゅうしたよ?」
「鼻が触れたからな。」
鼻はだめなの?散々僕にフンフンしておいて?僕のジト目に気づいたのか頭にしっぽが乗る。
「しっぽでさわさわすれば良いと思ってるでしょう?…もー、しっぽ良いなぁ。」
「ははっ!尻尾などあってもなくても関係ないと思っていたがヒカルがこれ程気に入ってくれているのなら、尾を持って生まれてきた事に感謝しよう。」
「胸のフカフカに埋もれるのも至福…」
「いつでも埋まってくれ。」
いつでも…フカフカな毛並みに頬をつけて目を閉じる。胸だから心臓の音が力強くドクドクと聞こえてそれも凄く落ち着く。
ぐるるる…とお腹の音に思わず噴き出した。
「朝ごはんにしよう?」
「あぁ。」
手を差し出せばそっと握ってくれる。
いつの間にか探検を終えたチッチも寝室へと戻ってきていて、皆で団子のようにくっついてリビングへ向かった。
「シュロは今日はお仕事行くよね?時間大丈夫?」
食後のコーヒーを出しながら疑問に思い問いかける。
「いや、異世界からの使者の保護を第一優先にするようにと御達しがあった。指示は出しに行くが。」
「そうなの?え、大丈夫?挨拶とか…する?」
正直、結界が張れなければただの子ども食堂の店主だから…ってか使者とか信じてくれているのだろうか。
「あー…」
耳がぺしょり。僕に隠し事出来ないの不便過ぎない?
「ヒカルは急な事で驚きを隠せておらずいきなり連れて行く事は出来ないと…すまない、勝手に。」
あぁ、しっぽも椅子の下へと入っていく。
「僕は良いけど、シュロは怒られない?食堂は開けちゃって大丈夫?」
取り乱してたら食堂出来ないよね…
「通信機を使い陛下と兄上には説明してある。獣人を怖がることもなければ、孤児たちの事を考え行動してくれているとも。感謝していた。予算も割くと言って貰えたから欲しいものは遠慮なく言ってくれ。」
「そうなの?とりあえず食堂の事怒られなくて良かったぁ。じゃあ何でわざわざ他の人に嘘を?」
「……暫くは俺の目の届くところに居てほしい。気丈に振る舞っていても昨日の今日だろう?」
運命だと告げたら逃がすな捕まえろと助言を貰ったと。あああ、塞がっていく耳かわいい。
「僕も離れるのは淋しいから嬉しいよ。でもお仕事優先してね。」
「あぁ。立場上どうしても有事の時は出なければいけない。だから暫くは良いだろう。」
しっぽも耳もぱたぱたしだすものだから、ついつい笑みが溢れる。
「ヒカルは何をしていてもどんな表情でも可愛いが、笑顔は一際可愛いな。」
「わかるー!おにーちゃんかわいい!」
「何それ。褒めても何にも出ないよ?」
シュロのカップにコーヒーのおかわり、チッチのコップにはミルクのおかわりを注ぎ入れると可愛い可愛い連呼され、また笑ってしまった。
その後客間を整える為に掃除をし、皆でお買い物。チッチ曰く偶になら良いが3歳のお兄さんとして毎日一緒に眠るのはちょっと…との事。そんな事ある?遠慮して…と思ったらそんなものらしい。10歳くらいまで祖母と寝ていた僕としてはとても複雑であるし、シュロとチッチと毎日寝たいと告げた時のチッチの生暖かい表情は忘れられない。
「おにーちゃんはヒトだから…ひとりでねんねしないほうがいいよ!だんちょーさんといっしょならあんしんだね!だいじょうぶだよぉ!」
そう励まされた。チッチは3歳にして母親と寝ていなかったらしい。獣人の成長ははやいと言うけど、本当にその通りで驚く。
「あ、シュロ。ここの塗料屋さんみても良い?」
「勿論。何をするんだ?」
「せっかくこの国の言葉がわかるし、黒板?白板?作って文字と簡単な計算とか教えられたらなって。子ども食堂では勉強もみてたんだよね。」
素人だけど小学生くらいまでなら教えてあげられる。孤児の識字率は低いと教えてもらってから考えていたけれど、紙は高価そうだし白い板を使って炭で書けばいけるかな…?
「無理強いはしないし、やりたい子だけ…どうかな?」
「孤児院では生きる術をメインに教えているから文字を覚えられる子は僅かだったな。素晴らしい事だが、ヒカルの負担が増えないか?」
「大丈夫だよ。夕方から夜にかけてだから昼間は休めるもの。本当は朝食も作りたいけど…とりあえず簡単なお弁当とかは渡せたら嬉しいなぁ。」
ぴくぴくぱたぱた。ふふ、チッチもひげがピクピク。
「昼もか。それは子どもたち以外にも売れそうだな?楽しみだ。」
「チッチもー!チッチもおてつだい!するね!」
「うん。お手伝いしてくれたら嬉しい。でも朝は寝ていても良いよ。チッチはまだ寝ることと食べることがお仕事の年齢だよ。」
ハイッと手をあげての発言が可愛らしい。
「そうしたらね!チッチもおべんきょうしたいな!」
「うん。じゃあ少しずつお勉強しようね。」
「わぁい!」
幼いのに働いている子達も読み書きが出来れば仕事の幅が広がるかもしれない。本来なら学校へ通っている年頃なのに。
自分が置かれていた環境がいかに恵まれていたかを思い知る。
「今日の夕食はハンバーグにするね!」
「はんばーぐってなぁに?」
「細かいお肉を混ぜて丸めて焼いてソースをかけたお料理…かな?」
「おにく!よくわからないけどおにくすきだよ!」
「俺も肉が好きだ。」
ぱったぱったと大きく揺れる二本のしっぽ。
「あー、癒やされる…」
22
お気に入りに追加
1,109
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ひきこもぐりん
まつぼっくり
BL
地下の部屋に引きこもっているあほかわいい腐男子のもぐらくんが異世界に部屋ごと転移しました。
え、つがい?
うーん…この設定は好きなんだよなぁ。
自分にふりかかるとは…壁になって眺めていたい。
副隊長(綺麗な烏の獣人)×もぐらくん(暗いとこと地下が好き)
他サイトにも掲載中
18話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる