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あつあつグラタン
しおりを挟む食材ボックス……あ、これか。見た目は大きな保管庫。何故シュロの持ち家にあるのかはわからない。神様すごい。
「こんなもの無かったと思うが、神とは素晴らしいな。」
複雑そうな顔。だよね…わかる。こんなに凄いことが出来るのに魔獣はやっつけてくれないのかって思うよね。僕が結界を張れたら良いんだけど。
僕の視線に気が付いたのか、しっぽでぽんぽん。……いいなぁ、しっぽ。
じゃがいも、玉ねぎ、ベーコン。食材をどんどん出してシュロに渡せば途端に消える。
「なんで!?」
「これは…ヒカルにしか扱えない食材なんだろう。」
最悪このまま食材配りたかった…神様のいじわる…自分でキッチンに出して、腕まくり。
「申し訳ないが手伝えそうもないな…少し出てくるからここから出ないでくれるか?」
「ううん、こっちこそごめんなさい。シュロの気持ちが嬉しい。」
視線も気になるしひとりの外出はまだ怖いからここにいると約束。
「鍵をかけていっても…?」
「いいよ。かけてくれた方が安心!」
耳がぴこりと動いてしっぽがパタパタ。
「ふふっ、しっぽ!」
僕の右手に絡んできゅっとして、顔をこしょこしょ。
「こんなに自由自在なの凄いね。」
「感情がだだ漏れで恥ずかしいな。これでも外交の場ではぴくりとも動かないのだが。」
真面目な顔のシュロが可愛くて、格好良い。外へ出る彼を見送りにドアまで着いていけば……毛玉?え、毛玉が窓の外にはりついている?苦笑いしているシュロが片手でベリっと毛玉を剥がす。
「おい、どうした?」
「あんね!おかしゃんがね、ごはんさがしにいったの。チッチはね、おるすばんなの!」
毛玉じゃない…もふもふ…白と茶色のもふもふ…この子は何…誰…何のもふもふなの…?
「いつ行った?どこに?」
「チッチ、にかいひとりでねんねしたよ!」
「そうか。腹減ってるか?何か食いに行くか。」
「チッチここがいいな、おにーちゃん見てたいな。」
「ヒカル、こいつの母親は冒険者だ。父親は魔獣にやられていない。」
「…え。じゃあ…」
「まだこいつが幼いから遠出はしないと言っていたが…ここらの奴に少し話を聞いて、詰所にも寄ってくる。…ほら、行くぞ。」
「チッチおにーちゃん見てたいなぁ。」
「シュロ、僕もこの子と一緒にいたい。えっと、チッチって呼んでも良い?一緒にごはん作ろうか。」
「いいよぉ!ありがとうおにーちゃん!」
ふぅ、とひとつ息を吐いてチッチの頭をぐりぐり。僕にはしっぽでぽんぽん。
「ヒカルは柔いからな、爪を出すなよ?」
「はい!つめはださない!」
「ヒカル、こいつは山猫の獣人だからな、今は爪を仕舞っているが気をつけろ。」
なんと…もふもふちゃん、いや、チッチは猫ちゃんなのか。かわいい…可愛過ぎる…
シュロを見送って、しゃがんでチッチと向き合う。
「チッチ、あのね、1回だけぎゅってしても良い?それでもふもふってさせて…」
「ぎゅうすきだよ!」
ぎゅうして、わしゃわしゃぽふぽふ。
チッチも震える手でしがみついてくれる。こんなに小さな子が二晩もひとりで過ごして平気な筈がない。暫く抱っこして、二人して目が赤くなっているのに気がついて笑った。
うん、笑顔が出たら次はごはん!チッチには玉ねぎを剥いてもらう事にした。
「そんでね、おかしゃんはとっても強くてね、でもおかしゃんよりもっともっとおとしゃんの方が強かったんだってぇ。」
「そっかぁ。じゃあチッチも強くなるね?」
「えへへ、そうかなぁ。」
もふもふのお手々で一生懸命に皮むきをする姿に悶える。
「むけたよぉ。」
「はい、ありがとう。じゃあちょっと待っててね?」
「はい!待ちます!」
椅子の上にちょこりと座って礼儀正しいチッチはぬいぐるみにしか見えない。オレンジジュースを保管庫から出してコップに注いで差し出せばゴクゴクと喉を鳴らす。
炒めた具材にホワイトソースを絡めてチーズをかけて焼くだけの簡単グラタン。オーブンは、ボタンがひとつ。
「チッチ、ごめんね、このオーブンの使い方わかる?」
「そのぼたんにね、魔力ながすんだよ。」
出た魔力…出来るかな…あれ火力とかは…?
「これくらいあつくて、これくらい焼くよぉって心の中で言いながらながすの。」
「えぇっ、難しい!チッチは物知りさんだね。凄いね。」
凄いと言えば嬉しそうに足をぴこぴこさせるもふもふチッチ。もちろん耳もピーンとしているし、しっぽはうねうね動いてる。
「おかしゃんがね、いつでもひとりでいきていけるようにってね、教えてくれるの。おそうじとかも。お料理はね、まだ包丁もてないからこうやって皮むきとかなの。」
「そっかそっか。チッチ偉いなぁ。偉くて強くて良い子だね。」
もふもふと両手でわしゃわしゃ。だめだ、こんなに可愛いもふもふちゃんが近くにいたら全然作業が進まない。
「困っちゃうなぁ。」
「おにーちゃん、こまってるの?だいじょうぶ?あれぇ、でもにこにこだねぇ。」
「うん、チッチが可愛くてにこにこしちゃうの。」
「それはこまっちゃうね!」
「あー、もうー、可愛いよぉ。」
オーブンは二度目で上手く出来たから、焼いている間に思う存分もふもふさせて貰った。
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