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なるほど…異世界転移
しおりを挟む「えぇー、僕こんな毛むくじゃらな野蛮そうな国へ行くのイヤ。何か臭そうだし、犬は嫌いなんだよ。」
「……私は犬ではなく狼ですが。」
「同じだよ!ってか犬より怖いじゃないか!食べられそうで怖いし!」
「………」
「エリオーラの国の使者よ、神子はこのように怖がっておられる。お帰りを。」
「っでは!私共の国は見殺しにすると?エリオーラの次は此方が襲われます。」
「その時は僕が守るもーん!」
「……貴方に頼んだことが間違いであった。失礼させて頂く。」
「あはは!本当に怖い顔!獣じゃん!尻尾を巻いて逃げるってことわざ通り!うける!」
「あのー、この胸糞悪い映像は何ですか?」
「え?いやぁ…君、このわんこ君のところで神子やらない?」
「僕は子ども食堂で働いていただけなんですけど。」
今日は月に一度のカレーの日だった。野菜とお肉たっぷりの、ひと月の中で一番の人気メニュー。満席になるのは嬉しい事ではないけれど、お腹を空かせた親子や、夕食時に親がいない子どもたちの笑顔の為に前日からコトコト煮込んで、やっぱり盛況で、100円玉握りしめて食べに来てくれた子たちにデザートに林檎を剥いてて……
「そう!そこに居眠り運転していた車が突っ込んできたでしょう?良く間に合ったねぇ。あの一番小さい子がひとり犠牲になる予定だったんだけど、火事場の馬鹿力ってやつ?良く守れたね。」
「っ!優希!優希は無事ですか!?」
今年一年生になったけど、4歳の時からうちの常連だった。母親はシングルマザーで、うちで優希に食事をさせる事で出来る事が増えたって喜んでて…優希も母親を助ける素直な良い子で。
「うん、無事無事!君のお陰でね?まぁ、その代わりに君が死んじゃったけど。」
「…え?」
「もー、予定に無いことだったから大変だったんだよ?それで、こっちの世界なら飛ばせるからさ、ついでにどう?獣が二足歩行してるタイプの獣人の国で神子やらない?あ!動物大丈夫?」
「や…あえ?死んだの?僕、死んだの?死んだならばぁちゃんのところ行きたいんですけど…」
大好きだった親代わりのばぁちゃん。生前子ども食堂をやっていたのは彼女だった。子供は好きだし、動物も大好きだ。一応子ども食堂だし、アレルギー持ちの子もいるかもしれないから、飼ってはいなかったけど。でも、そういう問題じゃない。死んだのは良い。優希が助かったなら、良い。だからばぁちゃんに会いたい。
「だからね、予定になかったんだよ。ちびっこのために空けてた枠に君は入らないし、お祖母様に会いたいならこっちで神子やってからでも良いかな?ほら、王族なのに尻尾丸まってるし可哀想でしょう?」
「だからあの胸糞悪い映像は何なんですか?」
「あの狼の国はね、魔獣がバンバン出るんだよ。最近被害者も多いし、それで隣国の神子に結界を自国にも張って欲しいってお願いに行ったら呆気なく断られたみたいだねぇ。まぁ、しょうがないけど、エリオーラは豊かな国だから神子が現れるまで経済支援はかなりしてたんだけどねぇ。だからお願いに行ったんだろうけど。はぁ、神子が我儘に育ちすぎた。で、良い?」
「えっと、断ることは?」
「出来ると思う?と言いたいけど、無理強いはしないよ。ここで枠が空くまで待ってても良い。」
え?いいの?
「ただ、エリオーラはその魔獣のせいで孤児が沢山いるね。元々獣人は愛情深い種族だから片親だと働くこともままならなくてお腹を空かせている子もいっぱいだねぇ。あ、今なら減らない食料ボックスもつけてあげる。」
何だそれ。
「……断れないじゃん。」
「やったね!あー、助かる!ありがとう!人もある程度はいるし、迫害とかもないから安心してね?でも危険が全く無いわけでもないから油断はしないように!獣人とつがいになれば一生愛して貰えるからがんばれがんばれ!あと、言葉と読み書きオッケーにして~あぁっ、結界!攻撃魔法苦手そうだし結界特化にしとくね!それ以外は普通だけど全属性使えるようにして、わわっ、やばい!時間ないな。よし、じゃあ行くから!飛ばすから…!またねぇ!」
「え?今?えぇっ!どうやるの!結界って!」
「……フィーリング?」
くっそぉぉ!と心の中で悪態をつくうちに身体がぎゅうっとなって、ぐるぐる回って…
「今見せた映像は少し前のだから、今はもっと深刻化してるから頼んだよ~!」
「わぁぁぁぁぁ…!」
ドシンと落ちたところは…どこ?
え、まってまってやばくない?コレやばくない?音で何か…とても…気持ち悪い生物が向かって来てる。こ、こわい。怖すぎる。けけけけけ結界…!結界張らなきゃ!あーもうっ!フィーリングって何!?出来ないんだけど!
今のこの状況にパニックになって、結界なんて張れるわけない。もう駄目だ。死ぬ。もふもふちゃんの為に子ども食堂をしたかったけど、死ぬ。諦めて瞳を閉じる事も出来ずにただ呆然と眼の前の生物を見つめた。
来るはずの衝動は来ない。それもその筈、眼の前では獣…じゃない。獣人…あの人だ。あの、断られていた人。
「……大丈夫か?どうしてこんなところに人が?」
獣人と言ってもラノベなんかでよく見るタイプの獣人じゃない。もふもふの、顔も牙も耳も尻尾も狼だ。手はモフモフだけど五本指で鋭い爪…足は、ゴツい靴を履いているから、本物の獣とは違う。ジッと観察するように見てしまったからか、ぺしょりと耳が伏せられる。え…?かわ。
「俺が怖いか?食ったりはしないぞ。」
その言葉に慌てて首を何度もブンブンと振る。
「やめろ。人は脆いんだから、首が取れてしまう。」
真面目な声で諭されて、思わずふはっと笑みが溢れる。
「取れないっ…!流石に…ふふっ、首は取れない!」
「……そうなのか?」
「っぶは!あの、助けてくれてありがとうございました。死ぬところでした。」
まだ疑っているのか、マジマジと首に視線がある。可愛いなぁ。もふもふだし。
「いや、ここは立ち入り禁止だろう?何故こんなところにいた?」
本当に何でこんなところに飛ばした?
「…気がついたらここにいて。」
ぺしょりとした耳と、顰めた顔を見て、盛大に勘違いされたと悟った。
「違くて!いや、違くないけど…!話せば長くなるんですけど!もふもふちゃんのために子ども食堂やりに来ました!あと結界!まだできないけど!」
……結界師目指しながら飲食店の経営をしたい人だと思われた。
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