ひきこもぐりん

まつぼっくり

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暗くてあったかい場所

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「ジズ…ここ、座ってください。」

 僕はビシリと言い放つ。ちょっ、いま口拭かないでってば…

「はい、何でしょう?」

 向かい合って座って、頬杖ついてにっこにこ。

「僕は真剣。」

「ふふ。すみません、好きな子が目の前にいるのは幸せだなって。それに最近は意志疎通も順調ですし、頑張り屋なリューに感謝しかありません。」

「…なんかさいきん甘々じゃない?」

「以前からですけど、まぁ、この本たちに書いてあるR18の意味をシャルに聞いたからですかね?それに、成人してます!と同人誌?に一言添えてあるのは読者たちへの配慮だとシャルとアイが言っておりました。」

「………えぇ、」

「それでも、いつまででも待ちますからね?」

「なんなのもお。」

「貴方のつがいですよ。」

 今度は真顔。いつでも優しい笑顔の攻めの急な真剣な顔…ぎゃっぷ…むりぃ。なにこの攻め…

「ジズ、僕のこと好き…なん、だよね?」

 言葉にするとちょっと照れてしまってもじもじとしてしまう。ビシッと決めたいのに。ジズはきょとんと僅かに首を傾ける。…えー、可愛いんだけど。

「かなりストレートに伝えているつもりでしたが、まだ足りませんか?」

「…足りてます。」

「では、何がリューを不安にさせていますか?」

 えええ、だって、だってさぁ。

「ジズ、僕のことすきって言うけど、かえってもいいって言うもの。」

「…なるほど。」

 なるほどって何さ。

「ほら、そんなにかわいい口をして。キスしてしまいますよ?」

 思わず下唇を僅かに突き出してしまい、すぐにジズのガチムチたちよりは細めだけど、かたくてささくれだった指が唇に触れる。

「…しないじゃん。」

「しても良いならします。」

 間髪いれずにそう答える。でも、ジズはきっとしない。キスしたいと言いながらほっぺをすりすりしたり、鼻キスしかしない。

「…しないもん。」

「もんとか言わないでくれます?ただでさえ可愛いのに。」

 いつもの鼻キスきた。
 そう思ったのに…ふに、と唇に触れたのは…?…え?

「キスする時は瞳を閉じないで見てる派ですか?」

 私も余すところなく見ていたいです、とにっこり。

「し、しししないって…言った!」

「すると言いましたよ?」

「うぁ、ええ、えええ…な、なんかまたお顔近づいてきてない?」

 だめですだめです。やだ、もー、ちゅってしないで。

「も、また…だめって言ったのに。」

「ふふ。そういうのは声に出さないとだめですよ。」

 とりあえず話しましょうかと抱き上げられてソファーへ移動。膝の上に乗せられて、翼ハグして、ほっぺすりすり。


「…まず、残念ながら今のところリューが帰れる見込みはありません。王立図書館なら何か手掛かりがあるのでは、と上の兄に頼みましたが転移者が帰れた話は出てきませんでした。」

「……」

「あぁ、そんなに泣かないでください。貴方の涙に胸が締め付けられます。」

 キザな台詞も様になりますね!じゃなくて、そうじゃなくて。

「…ジズは僕が帰っても、いいの?」

 ううう、と涙を止めようとしてもボタボタと溢れ出す。好きだ、可愛い、と言ったってジズは僕を帰そうとするんだ。

「何ですか、その可愛い涙の理由は。」

「え?ん、んむうっ、」

 先ほどの触れるだけのキスとは違い、唇で唇を食んで、思わず開いた隙間に熱い舌が捩じ込まれた。

「んっ、んん、ジズ、…ジズ。」

 翼ハグして真っ暗な中、ぎゅうって抱き締められて、触れあってるところが全部熱い。

「リューは勘違いをしていますね。」

「んあ、ふ、なにが。」

 何がだよう、まったくもう。

「リューが自国へ帰りたいと願って、帰れる術があるなら全力で探しますし、今も諦めてはいません。今は祖父と古語で書かれている文献の解析を進めています。…関係ないかもしれませんが。」

「…帰れるなら帰れってことじゃん。」

 ちゅーしたのに。ちゅーして好きになって捨てられるのか!…嫌なんだけど。ハッピーエンド至上主義なんだけど。

「帰れるなら住み慣れたところへ帰った方がリューの為になると思います。貴方は心の準備などする暇もなく、いきなりこちらへ来てしまいましたしね?」

 ……ハッピーエンド至上主義なんですけど…いやだ。

「ちゃんと最後まで聞いてくださいね?ほら、涙を拭いて。」

 拭いてと言いながらほっぺに添えた親指で涙を拭って、ちゅーして、ぺろりと舐めとるのはなしだと思います。

「何度も言いますが、リューは勘違いをしています。リューを元の世界へ戻してあげたいと願っていますが、ひとりで帰そうとは思っていません。」

 んん?

「私も行きます。」

「…はぁ?」

 いや、なんで。え…本当になんで?

「出逢ってしまったのに離せるわけないじゃないですか。」

 愛おしい番に。
 暗闇の中耳元で伝えられるその言葉に心臓がどくりと音をたてた。そうだ…そうなのだ…出逢ってしまったんだよ。

「お別れも言えなかったでしょう?だから望みは薄いですが、戻れるなら戻りましょうね。そうなったときの為にこちらから急に居なくなっても良いようにはしておきます。」

「…そんなの、だめだよ。ジズにも家族はいるでしょう?」

「そりゃあいますが、兄弟も多いですし、3番目以降はほぼ用無しです。それで団長と一緒に辺境にいますが、誰にも文句など言われません。」

 でも、だって、もにょもにょと言葉に詰まる。

「ジズの翼は僕のとこだと目立っちゃうよ。獣性は残ってるけど、習性や本能とかで、獣人さんはいないもの。」

「あぁ、翼はもぎ取れるから大丈夫です。」

「やだなにそれ大丈夫じゃないい…こわ…こわい。もぎ取るとかこわい。やめて、いたいよ。」

「そんなに泣かないでください。わかりました。きちんとした手法で処理しますから。」

「うう…うん、あの、ジズの翼安心するから…そのままでいて。」

 ジズの翼ハグも暖かい暗闇も…すき。

「では、その時が来たら考えましょうか。今は、沢山飛んだり抱き締めたりさせてください。」

「……うん。」

「もう一度キスしても?」

「それはだめ。」

 落ち着こう。そろそろ落ち着こう。

「ふふふ、ダメですか。じゃあ落ち着くようにこのまま横になって抱き締めても?」

 それは良いよ、と返事するように抱きつく腕にきゅっと力を込めた。






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