7 / 30
7 ふかふか白パンと魚のスープ
しおりを挟むそっと指を乗せればぽこりと沈み、指を離せばふわりと戻る。
面白い…もう一度やってみようかと指を伸ばせば感じる視線に顔を上げた。
先生の顔になってるタカギとニコニコ顔のライオネルさん、そして真顔だけど良く見るとちょっぴり口角が上がっているクレイグ。
タカギの顔を見て、手をそっと膝の上に戻した。
「タカギ。」
クレイグがタカギを呼ぶとハァッと大袈裟にため息。
「ハイハイ。スミレ、俺たちと食事する時は好きに食べな?」
「え、怒らない?」
「ん。畏まった場でのマナーは追々勉強しよう。でもその前にスミレは沢山の事を見て、触れて覚えないとな?」
本で教えられる知識は教えたけど、基本的な事がな~。物と名前を一致させないと。
呟くタカギを横目で見ながらふかふかのパンを手に取る。
いつも食べていた固いパンは外はバリバリ中はみっちり。この白いふかふかパンは半分に割ってみれば外はふんわり中もふんわりだ。皆が見守る中、大きく口を開けて頬張れば何とも優しい甘さが広がる。
ふわふわで柔らかくてしっとり。直ぐに食べきってしまって、もうひとつと手を伸ばせばそっとクレイグがその手を取る。
「他の物も食べてみて、まだ食べられそうならもう一度パンを食べたらどうだ?」
言われてみればそうだ。あとひとつパンを食べたら他は入らないだろう。暫くは食事の時に料理長さんが立ち会うと言っていて、今も壁際でメモを片手にメイドさんと共に此方をみている。
無言で頷くとスープを勧められる。スープが好きと言ったことを覚えてくれていて嬉しい。
スプーンで掬うとトロリとしていて、青菜と根菜と白い何かが浮いている。口に運び、舌に乗った瞬間驚いた。
噛まなくてもほろりと野菜が解れ、優しい塩味で歯触りが良くて・・・
「タカギ!この白いのはなあに?」
「見た目は真っ青で身は白身の魚。海の生き物の本に乗ってたやつ。」
「おさかなかぁ。魚って食べると美味しいんだねぇ。」
そう言うと皆が不思議そうな顔をし、クレイグが言いにくそうに口を開く。
「魚を食べるのは初めてか?肉は?」
「うん。初めて。魚美味しいね?肉も、たぶんないと思う。」
料理長さんが此方を見たまま固まっている…
「スミレは普段何を食べていたんだ?」
いつも?そんなの決まってる。
「パンとスープだよ。」
「ずっと?」
「ん。小さい時からパンとスープ。」
「…タカギ。」
クレイグはまたもタカギを呼ぶ。
「俺がスミレに会えるのは14時~17時までで、身体チェックあり。一回焼き菓子を持ち込んでから更に厳しくなってたまにこっそり飴玉とか持ち込むのが限界だったけど…食事に立ち会った事ないから気づかなかった。一日三食、パンとスープ?」
「一日一食か二食がパンとスープ。」
あ、みんなちょっとホッとした顔になった。良かった。
「日に一度パンとスープだったら残りの二食は何を食べていたんだ?」
ん?なんだか会話が噛み合ってない。
「それ以外はないよ?」
「は?」
「んっと、食事がパンとスープだから一日に一回か二回食べたら終わりだよ?二回だと、丁度良いんだけど食事が一回の時は夜中にお腹空いちゃうの。」
あんまり動いてないのにねぇ?と恥ずかしくてえへへと笑って誤魔化す。
あれ?料理長さん泣いてる…?
声をかけようかと思ったけど今までニコニコと笑顔を浮かべていたライオネルさんに話しかけられて意識をそちらに戻す。
「じゃあスミレ君は肉の塊とか固いものは止めといた方がいいね?急に食べるとお腹痛くなっちゃうから徐々に食べられるもの増やしていこうね。二人もわかった?これから好きなものを食べさせてあげようね?」
あ、ライオネルさんタカギの頭を寄せてちゅってしてる。
にまにま見ていたら頬を赤く染めたタカギと目があった。慌てるタカギ、可愛い。そう言うとクレイグに引き寄せられる。
「これから色々なものを食おうな。」
そう言って頬を撫でられるからつい嬉しくなって目尻が下がった。ふわふわとした空気を遮るようにタカギから声がかかる。
「そういえばスミレ今いくつになったかわかってる?ちゃんと教えたカレンダーつけてた?」
わぁ、困った。
「19歳くらいだよね?たぶん…」
「たぶん?カレンダーは?」
「途中でインクなくなっちゃって、補充してもらえなかったの。しばらく壁に印つけてたんだけどそれもやめちゃった。ごめんなさい。」
しょんぼり。しょんぼり。せっかくタカギに教えてもらえたのに途中でやめちゃった。
「もー、ちゃんと合ってるから落ち込むな。今十九歳でもうすぐ二十歳。」
「ハタチ?」
不思議な響き。
「俺の居たところの二十歳の事。二十歳で成人だったから特別な年なんだよ。」
お祝いしようなー?と間延びしたタカギの声を聞きながらやたらとほっぺやら頭やら撫でてくるクレイグの大きな手に自分の手を重ねた。
「ここでの成人もハタチなの?」
「この国では何歳から成人という決まりはない。」
じゃあどこから成人になるのか、その疑問はライオネルさんが答えてくれる。
「獣人は早熟なのと晩熟と個大差があるから、最初の発情期が来たら一人前という扱いだね。孕ませる事も身籠る事も出来るようになるし、大体発情期が来そうになると家を出て独り立ちするんだよ。でもまぁ、15,6歳が多いかな。」
「発情期…」
「わかりやすく言うと、発情期が来たら性交したいでしょう?でも家族がいたらヤりにくいし、声とか出せないし、激しく動けないし。防音の魔法もあるけど気持ち的にね、思い切りヤりたいが為に家を出るの。そうすると周りがあの子も大きくなったわね~ってなって、成人となる。かな?」
「食事中に生々しいわっ!」
スパンっ!と小気味良い音を響かせてタカギがライオネルさんの頭を叩く。
「えっと、じゃあ、ライオネルさんは成人してるよね…?お家出て独り暮らしなの?」
タカギに叩かれたところをさすりながらも嬉しそうに笑っているライオネルさん。
「いいえ。今はユーシと一緒に王宮の一室に住んでいますよ。」
ね?とタカギに向ける顔は色っぽい。
「そっかあ。ライオネルさんとタカギは大きい声出して激しく動けるんだね!良かったねタカギ!」
ヤりたい放題良かったね!って言っただけなのにタカギが真っ赤になってぷるぷる震えている。
ライオネルさんは「あはは!」と爽やかに笑っていて、クレイグは人の事だと恥ずかしいとかないんだな?と真顔。
わ、やばい。これ怒られる奴だと身構えると案の定雷が落とされた。
「もう、お前はもう、クレイグに成人させて貰ってこいや!」
「あ、狼さんのクレイグにはね、沢山ぺろぺろされていっぱい声出したよ?」
「羞 恥 心 を 覚 え て こ い」
15
お気に入りに追加
1,231
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
あまく、とろけて、開くオメガ
藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。
北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。
ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。
出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。
優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。
勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ──
はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。
秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。
要らないオメガは従者を望む
雪紫
BL
伯爵家次男、オメガのリオ・アイリーンは発情期の度に従者であるシルヴェスター・ダニングに抱かれている。
アルファの従者×オメガの主の話。
他サイトでも掲載しています。
聖獣王~アダムは甘い果実~
南方まいこ
BL
日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。
アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。
竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。
※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞奨励賞、読んでくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる