さみしい声の狼さん

まつぼっくり

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7 ふかふか白パンと魚のスープ

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 そっと指を乗せればぽこりと沈み、指を離せばふわりと戻る。
 面白い…もう一度やってみようかと指を伸ばせば感じる視線に顔を上げた。
 先生の顔になってるタカギとニコニコ顔のライオネルさん、そして真顔だけど良く見るとちょっぴり口角が上がっているクレイグ。
 タカギの顔を見て、手をそっと膝の上に戻した。
「タカギ。」

 クレイグがタカギを呼ぶとハァッと大袈裟にため息。

「ハイハイ。スミレ、俺たちと食事する時は好きに食べな?」

「え、怒らない?」

「ん。畏まった場でのマナーは追々勉強しよう。でもその前にスミレは沢山の事を見て、触れて覚えないとな?」

 本で教えられる知識は教えたけど、基本的な事がな~。物と名前を一致させないと。
 呟くタカギを横目で見ながらふかふかのパンを手に取る。
 いつも食べていた固いパンは外はバリバリ中はみっちり。この白いふかふかパンは半分に割ってみれば外はふんわり中もふんわりだ。皆が見守る中、大きく口を開けて頬張れば何とも優しい甘さが広がる。
 ふわふわで柔らかくてしっとり。直ぐに食べきってしまって、もうひとつと手を伸ばせばそっとクレイグがその手を取る。

「他の物も食べてみて、まだ食べられそうならもう一度パンを食べたらどうだ?」

 言われてみればそうだ。あとひとつパンを食べたら他は入らないだろう。暫くは食事の時に料理長さんが立ち会うと言っていて、今も壁際でメモを片手にメイドさんと共に此方をみている。
 無言で頷くとスープを勧められる。スープが好きと言ったことを覚えてくれていて嬉しい。
 スプーンで掬うとトロリとしていて、青菜と根菜と白い何かが浮いている。口に運び、舌に乗った瞬間驚いた。
 噛まなくてもほろりと野菜が解れ、優しい塩味で歯触りが良くて・・・

「タカギ!この白いのはなあに?」

「見た目は真っ青で身は白身の魚。海の生き物の本に乗ってたやつ。」

「おさかなかぁ。魚って食べると美味しいんだねぇ。」

 そう言うと皆が不思議そうな顔をし、クレイグが言いにくそうに口を開く。

「魚を食べるのは初めてか?肉は?」

「うん。初めて。魚美味しいね?肉も、たぶんないと思う。」

 料理長さんが此方を見たまま固まっている…

「スミレは普段何を食べていたんだ?」

 いつも?そんなの決まってる。

「パンとスープだよ。」

「ずっと?」

「ん。小さい時からパンとスープ。」

「…タカギ。」

 クレイグはまたもタカギを呼ぶ。

「俺がスミレに会えるのは14時~17時までで、身体チェックあり。一回焼き菓子を持ち込んでから更に厳しくなってたまにこっそり飴玉とか持ち込むのが限界だったけど…食事に立ち会った事ないから気づかなかった。一日三食、パンとスープ?」

「一日一食か二食がパンとスープ。」

 あ、みんなちょっとホッとした顔になった。良かった。

「日に一度パンとスープだったら残りの二食は何を食べていたんだ?」

 ん?なんだか会話が噛み合ってない。

「それ以外はないよ?」

「は?」

「んっと、食事がパンとスープだから一日に一回か二回食べたら終わりだよ?二回だと、丁度良いんだけど食事が一回の時は夜中にお腹空いちゃうの。」

 あんまり動いてないのにねぇ?と恥ずかしくてえへへと笑って誤魔化す。
 あれ?料理長さん泣いてる…?
 声をかけようかと思ったけど今までニコニコと笑顔を浮かべていたライオネルさんに話しかけられて意識をそちらに戻す。

「じゃあスミレ君は肉の塊とか固いものは止めといた方がいいね?急に食べるとお腹痛くなっちゃうから徐々に食べられるもの増やしていこうね。二人もわかった?これから好きなものを食べさせてあげようね?」

 あ、ライオネルさんタカギの頭を寄せてちゅってしてる。
 にまにま見ていたら頬を赤く染めたタカギと目があった。慌てるタカギ、可愛い。そう言うとクレイグに引き寄せられる。

「これから色々なものを食おうな。」

 そう言って頬を撫でられるからつい嬉しくなって目尻が下がった。ふわふわとした空気を遮るようにタカギから声がかかる。 

「そういえばスミレ今いくつになったかわかってる?ちゃんと教えたカレンダーつけてた?」

 わぁ、困った。

「19歳くらいだよね?たぶん…」

「たぶん?カレンダーは?」

「途中でインクなくなっちゃって、補充してもらえなかったの。しばらく壁に印つけてたんだけどそれもやめちゃった。ごめんなさい。」 

 しょんぼり。しょんぼり。せっかくタカギに教えてもらえたのに途中でやめちゃった。

「もー、ちゃんと合ってるから落ち込むな。今十九歳でもうすぐ二十歳。」

「ハタチ?」

 不思議な響き。

「俺の居たところの二十歳の事。二十歳で成人だったから特別な年なんだよ。」

 お祝いしようなー?と間延びしたタカギの声を聞きながらやたらとほっぺやら頭やら撫でてくるクレイグの大きな手に自分の手を重ねた。

「ここでの成人もハタチなの?」

「この国では何歳から成人という決まりはない。」

 じゃあどこから成人になるのか、その疑問はライオネルさんが答えてくれる。

「獣人は早熟なのと晩熟と個大差があるから、最初の発情期が来たら一人前という扱いだね。孕ませる事も身籠る事も出来るようになるし、大体発情期が来そうになると家を出て独り立ちするんだよ。でもまぁ、15,6歳が多いかな。」

「発情期…」

「わかりやすく言うと、発情期が来たら性交したいでしょう?でも家族がいたらヤりにくいし、声とか出せないし、激しく動けないし。防音の魔法もあるけど気持ち的にね、思い切りヤりたいが為に家を出るの。そうすると周りがあの子も大きくなったわね~ってなって、成人となる。かな?」

「食事中に生々しいわっ!」

 スパンっ!と小気味良い音を響かせてタカギがライオネルさんの頭を叩く。

「えっと、じゃあ、ライオネルさんは成人してるよね…?お家出て独り暮らしなの?」

 タカギに叩かれたところをさすりながらも嬉しそうに笑っているライオネルさん。

「いいえ。今はユーシと一緒に王宮の一室に住んでいますよ。」

 ね?とタカギに向ける顔は色っぽい。

「そっかあ。ライオネルさんとタカギは大きい声出して激しく動けるんだね!良かったねタカギ!」

 ヤりたい放題良かったね!って言っただけなのにタカギが真っ赤になってぷるぷる震えている。
 ライオネルさんは「あはは!」と爽やかに笑っていて、クレイグは人の事だと恥ずかしいとかないんだな?と真顔。

 わ、やばい。これ怒られる奴だと身構えると案の定雷が落とされた。

「もう、お前はもう、クレイグに成人させて貰ってこいや!」

「あ、狼さんのクレイグにはね、沢山ぺろぺろされていっぱい声出したよ?」

「羞 恥 心 を 覚 え て こ い」

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