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初めてのデートに行きましょう

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 いつもコウヤのとこに泊まると起きたら痛いくらいに抱き締められているのに、今朝はそれがない。
 ベッドにコウヤの姿がないどころか部屋にもいない。今日は水族館行くって言ったんだけど、用事でも出来たのか…?

「ふぁ。ねむ…」

 まぁいいか。とりあえずもっかい寝よう。暖かい上掛けを体に巻き治して、もう一度寝る体制に入ると同時に扉が開いた。

「アイキ起きた?あぁ、また寝ないで。起きて?」

 薄目を開けると今日もキマっているコウヤ。

「…本日も、、きらきら、ですね…ねる。」

「ふふ。ありがとう。ね、起きて。起きないならキスするよ?キスしたら俺止まれないよ?寝る前にアイキのお尻に軟膏塗ったんだけど、それに可愛い反応するもんだから俺ずっと我慢してるの。思い出しただけで直ぐ勃起するよ?そしたらさ、一回で止まれないから三か」
「はい、起きた起きた起きた!起きたから大丈夫!!」

 えぇ~と口では言いながらも顔はにこにこ、そんなに水族館が嬉しいのか、と用意するために起き上がる。

「はい、これアイキのね。必要なもの詰めといた。」
「え、」

 渡されたのは最近良く使う少し大きめなボディーバッグ。
 大きめと言っても、普段その辺に遊びに行く時に使うようなもので泊まりになるなら小さすぎる。
 中を開けばスマホとミニタオル、ティッシュに財布。日帰りか。
 前に土曜日はデートして日曜日まで泊まり掛けって言ってたから泊まりだと思ってた。
 別に淋しくはない。全力でない。昨日変態は調子に乗りすぎてヤリすぎであるし、水族館なら沢山歩くだろうからエッチする気力も体力もない。ふむ。この変態気が利くな、とコウヤに向かって親指をたてた。

「今日の服も持ってきといた。これでいい?」

 黒のストレートのパンツにカーキのオーバーTシャツ。それに黒のバケットハット。

「靴はマーチン?オールスター?電車乗るし沢山歩くだろうからサンダルはやめとこうね。」

「ん、マーチンはいてく。ありがと。」

 着替えながら答えると最近では慣れ親しんだねっとりとした視線を感じた。ストーカーされてる人って本当に可哀想だと思う。ストーカー爆発しろ!

「…なに。見すぎ。」
「アイキ細い。それスキニーでしょう?アイキがはくとストレートになるねぇ。しっかり食べてるのは知ってるけど心配になるよ。でも、その腰の細さは凄くエロいんだよね。あ、ちょっと勃ってきた。」 
「ストーカー爆発しろ!」

 まとわりついてくるコウヤに「今日はデート!」って声を荒げたら、途端に嬉しそうにしちゃって、リュック背負って部屋を出る前におでこにフレンチキス。

 なんだか、甘い。









「コウヤさん、これは何ですかね?」

「デートのしおりだよ。」

「…なんかこれ、分を刻んでるんだけど。」

「アイキとの初デートだもん。一秒も無駄には出来ないよ。」

「…泊まるホテルが書いてあるのは百歩譲って目をつぶってやる。で、夜の予定も分を刻んでるんだけど、日曜日の昼まで。何この体位の指定。そして何回ヤらせるわけ?」

「初めての家以外でのお泊まりだもん。一秒も無駄には出来ないよ。でもまぁ、夜の方は臨機応変でいこうね?」



「変態に磨きがかかってるな。」

「ふふ。褒められたからにはもっと頑張らなきゃ。期待してて?」

「褒めてねーわ!くそ!」

 しかも泊まりかよ!くそ!
 夜は寝てやる!

「ってか、泊まりの用意してきてないけど。」

 手を差しのべられて、素直にコウヤの手に自分の手を重ねた。
 うーん、手を繋ぐのに抵抗がなくなってきてしまった。

「アイキの着替えも俺のと一緒に圧縮して持ってきてるよ。明日はベージュのハーフパンツにボーダーTシャツね?アメニティはホテルの使えばいいよね?一泊だし。」
「え、荷物ごめん。俺リュック持つからコウヤこっち持ちなよ。」
「ありがとう。じゃあ疲れたら交代ね?」

 これはリュック回ってこないパターンだな。しゃあない。帰りは持とう。それよりも、

「デートってより旅行になってるのにドン引きです…」
「初旅行も楽しみだな。旅行ってからには3泊くらいしたいよね?離島のコテージとかで食事中もお風呂ももちろん夜もずっとアイキにハメてたいな。」
「ドン引きです…」

 やっぱりこいつまじで頭おかしい。

「そういや俺、財布に金入ってないかも。泊まるとこ代金いくらくらい?コンビニよっていい?」

 夏休みに父ちゃんの店でバイトした分があるからまぁ、足りるだろう。

「いいよ。初デートくらい奢らせて?」
「ばか。奢るの域こえすぎ。ちゃんと払う。」

 変態ストーカーは金銭感覚もおかしい。
 自宅でデータ入力などのバイトをして、その金をFXで増やす。
 頭がいいからか才能があるからか、じわじわと増えているらしい。こわ。
 それでも何かあったら不安だとデータ入力のバイトはやめずにコツコツと元金を増やしている。良くわからんが怖いやつである。

「良い格好させて?それかここは奢られて、社会人になってから返してよ。」
「は?何でわざわざ。今まだバイト代あるし金ある時に払う。」
「んー、だって、そういう約束があれば大人になっても繋がってられるでしょ?」
「変態ストーカーが何言ってんの?」
「今は二年だから余裕あるけど、これからどう考えても別の道に進む事になるよ。本当に本当に嫌だけど。」
「コウヤは近くの国立進学でしょ?家は隣だしそんなに離れないよ。」

 学校が離れるくらいじゃ今とそんなに変わらないだろう。今も校舎は違うし、昼休みに会わなくなるくらいで登下校は一緒に出来る。何をそんなに不安がってるんだこいつは。

「今、ちょっと気になる大学があって。将来ずっとアイキといるためには妥協したところじゃなくて少しでも学べるものが多い方がいいかなって。でも、そしたら家出ないとで、考えただけで頭おかしくなりそう。」

 ヘラリと笑って話すコウヤに直ぐには返事が出来なかった。
 心の奥にずしんと、何かが重くのし掛かる。

「…大丈夫だ。お前は元々頭おかしい。」
「褒めてる?」
「褒めてねーわ!…あのさ、俺の事ばっかじゃなくてちゃんと自分の事考えろよ。」
「俺からアイキとったら、何も残らないよ?引きこもりニートになって、ずっと株やってると思う。」

  あーもう、ばか!

「変態が残るわ!んじゃ、とりあえず小腹減ったからそこのコンビニから明日帰るまでお前の奢りな。細かく金額メモしとくからな!」
「…アイキ、ありがと。」
「ん。」
「あとね、しおりちゃんと読んでね?食べ歩きもしたいから朝ごはん食べないで来てるの。コンビニは寄りません。まずは駅前のごま団子買ってこ。」

 コンビニくらい寄らせろよ!くそ!
 でもごま団子は好きだ。





 駅近くまで来て人の多さに少し腰が引ける。男同士で手を繋ぐのってどうなの?と今更ながら考えていると駅前の点心の店の目の前だった。
 最寄りの駅とあって、たまに来るここでごま団子をコウヤが二つ買う。その時に自然と離れた手をコウヤは繋ぎ直さなかった。

「人前だからね。二人の時はまた繋ごうね?」

 本当にこいつは、変態以外は凄く凄く良いやつなのだ。
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