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番外編
ミナト視点 僕たちの大切な赤ちゃん
しおりを挟む目の下の隈が酷い。
僕の顔を見ると「ふぇっ、ふえぇー」と泣いて
僕の姿が見えなくなると「んぎゃー」と泣く毎日。
アイラさんたちの家にいたときは良かったんだ。
ふにゃふにゃで可愛い、僕とアランの赤ちゃん。
僕と一緒で人族の子。
泣き声もか細くて1日の殆どを寝て過ごしていた。
少し泣くとリズさんとアイラさんそしてそこに時折泊まりに来ているアランが混じって取り合うように抱っこして。
僕はその光景を幸せだなーって眺めて。
ゆっくり1ヵ月近く滞在させてもらって自宅へ戻った。
その辺りからいっつも泣いている。
夜も今まではミルクの時間しか起きなかったのに最近では昼間もたいして眠らないのに夜も頻繁に泣いて、それでもなるべくアランの力を借りたくなくて最近はこの子の部屋に籠りきりだ。
寝るときもベビーベッドにもたれ掛かって寝てしまう事が多くて、アランには皆で同じ部屋で寝ようと言われたけれど頷く事が出来ず、困った顔のアランが僕用のベッドを子供部屋に置いてくれた。
意地を張ってしまっているのは理解できる。
1人で出来る。
この子の親は僕だもの。
ちゃんと育てなきゃ。
ちゃんと愛さなきゃ。
アランは仕事しているんだから。
そう思うとアランを寝かせてあげなきゃと頑なに一緒に眠ることを拒んでしまう。
お店が休みの時に来てくれるリズさんとアイラさんがこの子を抱くとにこっと笑顔を見せるようになった。
それはアランにも同じで、もちろん僕とも目が合うとにこにこと手足をバタバタしながら嬉しいと体全体で表現するから可愛くて仕方がないしとても癒される。
それでも泣くのは相変わらずで、少しずつ成長していくたびにそれに比例するように大きくなる泣き声。
我が子はとても可愛い。本当に可愛い。
愛しているのに変わりはないけれど、それでもアランの腕の中で一晩中眠りたいと考えてしまうなんて僕はこの子の親失格だ。
今日も寝かしつけながら一緒に眠ってしまう。
「ふえっ、ふぇっ」と泣くのを我慢するような、今にも泣き出しそうな声が聞こえて少しずつ意識が浮上する。
起きなくちゃ、んぎゃーと泣き出したらまた寝かしつけるの大変だ。と瞼を上げようとするが、眠くて眠くてどうすることも出来ない。
もう諦めて大声で泣くまで2.3分だろうけど寝ちゃおうと眠りに落ちる寸前、大好きな人の匂いと声を聞いた。
「トーア、泣くな。俺じゃ不満か?」
言葉とは違い優しい声。
「ふっ、ふぇッ、」
「…暖かくして散歩でもしてくるか。」
微睡みの中、布団を肩まで掛けられて頬に降ってくるキスを受け入れる。
頭を優しく撫でられると自然に眠りに落ちた。
ハッと目が覚めて物音のしない部屋に少し不安になる。
トーアもアランもいない。時計を見ると寝てしまってから1時間たたないくらいだろうか。
モコモコのルームシューズを履いてキッチンへ降りて水を飲むとホッと息を吐く。
少しだけでも熟睡できて頭がスッキリした。
あの2人は何処にいるのだろう?
探しに行こうかとドアへ向かうが踏みとどまる。
うーん。アランに甘えちゃおう。
1人だけの時間。少し淋しいけど少し嬉しい。
久しぶりにアランのベッドに入って胸いっぱいにアランの香りを吸い込んだ。
「…いいにおい。」
やっぱりアランの香りは眠くなる。
次に起きたときアランの腕の中にいた。
目の前がアランの厚い胸板で、寝てたら申し訳ないと思いながらもぐりぐりと頭を押し付けて腕を背中に回してぎゅうーっとしてしまう。
こうやってアランに思い切り触れるのも久しぶりな気がする。
僕はずっとトーアの事しか考えてなかった。
そう考えると涙が滲んできて、誤魔化すように抱きつく力を強めた。
そっと頭に触れる大きな手。
頭を撫でられる度にポロポロと溢れる涙を止められずにいるとアランが静かに問いかける。
「ミナト、辛いか?」
辛い、のかな?ううん。辛くないよ。大変だけど眠いけど辛くない。凄く凄く愛しいと思う。
そう言いたいのに言葉にならなくてひっくひっく泣きながら首を振るしかできない。
それでもアランにはちゃんと伝わったようで優しく笑っているんだろうと思えるような声音で続ける。
「トーアはミナトが好きすぎて甘え泣きが凄いな。」
「俺の腕はやはり硬いのか抱くと嫌そうな顔をするぞ。」
「それでも我が子は可愛いな。」
「ミナトと俺の子だ。俺にも面倒見させて欲しい。」
「もっと頼って欲しい。」
「好きだ。」
「ミナト、愛してる。」
チュッとリップ音をたてて頭や顔にキスをしながら優しい言葉をかけられて、今度は首を縦に振る。
仕上げとばかりに深く深くキスされてそのままゆっくりと意識を手放した。
わぁ、久しぶりに朝まで寝てしまった。
それに朝食の良い匂いがここまで漂っている。
焦ってパタパタとキッチンへ向かえば笑顔のアランに迎えられる。
ベビーベッドに寝ているトーアを覗くと目があって、ニコッと笑ってくれて思わず抱き上げる。
こんなに直ぐに抱っこしてしまうから甘えん坊になるのだろう。
わかっているけれど、可愛いくてついつい直ぐに抱っこして頬擦りをしてしまう。
アランに促されテーブルに座ると差し出されるマカロニ入りのトマトスープ。
それと同時にアランがトーアを僕の腕の中から掬い上げる。
仄かに酸味があって美味しいスープを食べ終わる頃家のチャイムが鳴った。
僕はこんなに朝早くに誰だろう?と不思議に思ったけれどアランは誰だか知っているようでドアを開ける。
入ってきたのはアランのご両親。
「ミナトちゃんおはよう!」
むぎゅっとハグをしておはようと言ってくれる穏やかなお義母さん。
無言だけど大きな手で頭を撫でてくれるアランとそっくりなお義父さん。
聞けばお義母さんが可愛いベビーカーを見つけて我慢出来ずに買ってしまったらしく、トーアとピクニックに行きたいとのこと。
この後アイラさんたちを迎えに行きがてらみんなでお出かけしてくる予定なのだそうだ。
生まれてからずっと離れずにいるからトーアだけ預けるのは心配でちらりとアランを見上げると「みんなで行くか?」と聞いてくれる。
それに対してお義母さんたちも嫌がるそぶりなどせずに明るく返してくれる。
「ミナトちゃんとも出掛けられたら倍嬉しいわ。」
でもこのお出掛けはきっと普段トーアから離れられない僕の為に計画してくれたのだろう。
鈍い僕でもそれくらいわかる。
「…甘えさせてもらって、トーアをお願いしてもいいですか?」
おずおずと申し出ればみんな優しく笑って頷いてくれた。
ご機嫌にベビーカーに乗ったトーアたちを見えなくなるまで見送って、大きく伸びをする。
心配だけれどアランのご両親とアイラさんたちまでいるから大丈夫、かな?
やっぱりちょっと心配だ。
家の中を意味もなくうろうろしてしまう僕をアランが笑って抱き寄せる。
アランの心音を聴くと落ち着いてきて目をつぶる。
普段の寝不足がたたって眠くなってくる。
「風呂、入るか?」
「え?お風呂?朝からなんで?」
「隈がひどいぞ。このまま抱き締められて昼寝するか、このまま頭が空っぽになるまで愛されて強制的に昼寝するかだ。」
ニヤリと笑われて下腹部がきゅんとする。
そういえばいつからアランとシテいないだろうか。
悩みだす僕にアランが意外そうな顔をする。
「抱き締められて昼寝を即答するかと思ったが。悩んでくれているのか?」
そう言われると僕だけなのかと気恥ずかしい。それでも素直に伝えてみることにする。
「んと、あの、空っぽになるまで愛されてからぎゅっとしてもらってお昼寝したい、な。」
「わっ!アラン、急に抱き上げないでっ、それにお風呂は?そっちは寝室だよ!」
頭が空っぽになるどころかアソコも空っぽになってもう何も出ないのに攻められて攻められて意識が飛んで強制的にお昼寝しました。
心も体も沢山満たされて、愛されて、ふわふわと気持ちいい。
右手にアラン。左手にトーア。
僕は不器用だからこれ以上は何も望まない。
知らない世界で手に入れた僕の家族。
大切な大切な宝物。
ずっとずーっと愛してます。
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