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お仕事したいです

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部屋着を脱いでアランが用意してくれていた外用の服を着ようとクローゼットを開ける。

…どれくらい働いたらアランにお金を返せるのかと不安になるくらいクローゼットには沢山の服がある。
アランは返さなくていいと言うけど、そうはいかないだろう。
面接は高校の入試の面接しか経験がないけれど、やはりきちんとした服が好まれるだろうか。

少し悩んで薄い青色の襟つきのシャツに細身の黒のズボンを穿く。
高校の制服のワイシャツみたいにサラッとしていないけれどしっかりとしているのに柔らかい生地でできていて、驚くことにサイズも丁度良かった。

トントン、と控えめなノックの音が聞こえて返事をするとアランが入ってくる。

「面接の服って良くわからなくて…可笑しくないですか?」

「可笑しくない。空色のシャツがミナトに良く似合っている。」

はにかみながらそう言われ本当に似合っていると言ってくれているのがわかり嬉しくなる。

「ありがとうございます。とても着心地が良くてサイズもぴったりで吃驚しちゃいました。」

それは良かったと言いながら靴を差し出される。

「新品だから家の中でも大丈夫だ。サイズが合うか履いてみてくれ。」

つま先が丸みのあるフォルムの焦げ茶色のレザーシューズ。
服も着心地が良くて、値段も張るのではないかと思っていたのに上品な靴まで用意してくれていて用意の良さに言葉に詰まる。

「…気に入らなかったか?」

「っ、ううん!凄く素敵です!でも服もこんなに沢山用意して頂いたのに、高価そうな靴まで頂いてしまって良いんですか?僕、ちゃんとアランにお返しができるか不安になっちゃって。」

「気にするな。何度も言っているが俺がミナトに色々着せたくて勝手に買い込んだのだから返さなくても良いんだ。」

でも…と申し訳無さが募る。

「では少しずつ返してくれるか?金はいらないんだ。家事を手伝ってくれたり、一緒に過ごしてくれたりすれば良い。一緒に寝るのも抱き上げるのもお返しだと思ってくれ。」

優しくてちょっと強引で。きっとアランはもう引いてくれないだろうから有り難く受け入れてコツコツお金を貯めていつか返そうと心に決めた。

「抱っこは恥ずかしいから高くつきますよ。」

僕がふざけてそう言うと

「高いならその分また靴でも買ってくるか」

なんて言うから焦ってしまい、アランに冗談だと笑われた。


ベッドに腰かけた僕にアランが床に直接座って靴を履かせてくれる。
そんな事させられないと言う僕にこれもお返しだと思えと器用に靴紐を弛めるとそっと足に触れ、履かせてくれる。
硬い靴かと思ったけれど予想に反して柔らかくて履き心地が良くてその場で何度か足踏みをする。

「大丈夫そうか?」

「はい!服もですけど靴もぴったりでとても歩きやすいです。アラン、本当にありがとうございます。」

アランは髪の毛をくしゃくしゃっと撫でる。

「そろそろ行くか。」

僕は途端に緊張してしまい、それが顔にでてしまう。

「緊張するような場所ではないぞ。」

何故かまた抱き上げられる。

「もうアランいきなりは怖いですよ!歩きたいです。」

「玄関までだ。靴を脱いだり履いたり面倒だろう?」

しれっとそう言ってくるが別にそんなに面倒じゃない…という僕の呟きは空気に溶けていった。



玄関で降ろしてもらい、靴を履き替えているアランを横目にそうっとドアを開ける。顔だけ出して外を見るとここは外れの方だそうだが流石王都、といったところだ。
そこまで人が込み合っているわけではないが色々な種族の獣人や色々なお店がある。

あの人大きい…あの人の尻尾ふさふさ…
キョロキョロとしていると少し遠いところにいる癖毛っぽい赤茶の髪を後ろに流している人と目があった。
その人は目を見開いた後、笑顔で走り寄ってくる。

軽く走っているようなフォームだが凄く速くて、もうここまで来そうで無意識にアランの後ろに隠れてアランのシャツの裾を掴んでしまう。

「おぉー!こんにちは人族ちゃん!具合はもういいの?」

話しかけられて吃驚しているとバシッ!という音といってぇー!という大きな声。

「お前はどうしてそう騒がしいんだ。ミナトが驚いてしまうだろうが!」

アランが少し声を荒げる。後ろからそっと覗くと向こうも僕を見ていて視線が合う。この人、アランとイルダを引き離して連れていった人だ。
お礼もしなきゃだしこれくらいで怖がっていたら働けない!と自分を鼓舞する。
僕がアランの服から手を離して隣へ出ると直ぐに手を繋いでくれてドキドキしていた心臓が落ち着いてくる。

「あの、初めまして。アランに面倒をみてもらっているミナトです。先日はありがとうございました。」

ペコリとお辞儀をするとアランが頭を撫でてきて、その瞳が良く言えたなと言っていて、気恥ずかしい。

「いいえ!ギルマスに助けてもらって良かったねえ。オレはエリヤ。獅子族だよ。エリちゃんて呼んで!」

オレはみーちゃんて呼ぶね!と楽しそうにニコニコ笑っている。
ライオンさんか、凄いなぁと感心してしまう。

「エリヤはさっき話した食堂で人を募集していると教えてくれた奴だ。馬鹿だが仕事はできるから信用しても大丈夫だからな。だが、エリちゃんとは呼ばなくても良い。」

真面目な顔でアランがエリちゃんなんて言うのが面白くて、くすくすと笑ってしまう。

「みーちゃんかっわい!ギルドに行くの?一緒にいこ?」

そう言って手を差し出してくるエリヤさん。僕はその手をみて、アランをみて、アランと手を繋いだ。
ちぇーと言って唇をとがらせているエリヤさんが可愛くて。

「エリちゃんは今からお仕事ですか?」

僕に抱き着こうして、アランに蹴られながらも楽しそうな様子をみて、思わず吹き出してケラケラと笑ってしまった。
そんな僕をアランはやっぱり優しく見ていて。

「ミナトが楽しそうだと俺まで嬉しくなる。笑い声が聴けて嬉しい。」

手の甲で頬っぺたを撫でられているのをエリちゃんは固まって口を開けてみていた。
その漫画みたいな顔にまた笑ってしまう。

「初めてお前に心から感謝している。」

エリちゃんは真剣な顔でギルマスが優しい。明日は雪かな、と呟いた。

「アランはいつも優しいですよ?」

そう言うと、聞いているのかいないのかフラフラと小走りで、先に行ってるっすー。雪ふりそー。と行ってしまった。
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