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お昼ごはんのたまごサンド

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無事に階段下のスペースに収まっていた掃除用具を発見してとりあえず箒でざっと掃く。
シエロさんのとこだとずっと靴を履いていたけれど、アランの家は玄関でルームシューズに履き替えているらしく僕の履いている、このモコモコの靴も室内専用だろう。

あとは雑巾掛けもしたいと思うのだが、ラグもあるし水拭きをしていいのかわからないのでアランが帰宅したら聞くことにする。
やることがなくなって、普通の人からしたら早すぎるだろうけど昼食の準備をすることにした。

昼食の準備と言っても僕は料理が壊滅的にダメなので…リズさんに教わったたまごサンドを作ろうと思う。
家にあるものは好きに使って良いと言われているから、卵とマヨネーズ、マスタードを取り出す。

水を小鍋に入れて卵を入れて火にかける。
リズさんに半熟卵を教わった時は、沸騰している鍋に卵を入れなくてはならなくて、少し離れたところからそっと投げ入れたら鍋の底に当たって割れてしまったので今日は固ゆでたまごだ。

沸騰してから10分たつのを待つ。失敗が怖いから目の前で待機しているのだがきっとアランならこの時間に他の料理も作ってしまうのだろう。
アラン喜んでくれるかなぁ、なんて考えるがアランなら間違いなく喜んでくれる。根拠もないのにそう考える自分に吃驚した。
でも、だって、僕のことを抱っこしたがるような変なアランだもんね、と無理やり自分を納得させて、ふと時計を見るともう10分たっていた。

急いで火を止めてミトンを両手に嵌める。ブカブカだが鍋は掴めるだろう。
熱湯や油を使うときはいつもの100倍注意しろ!とリズさんに散々言われてきたので注意しながら小鍋をシンクに移す。
無意識に止めていた息を吐いて水を細く出して卵を冷やす。

大仕事をやりきった感はあるがまだ卵をゆでただけだ。
それから冷えた卵の殻を綺麗に剥く。殻ごと卵を潰してしまいそうでそろそろと時間をかけて全部剥いた。
剥いた卵をボールの中でフォークで潰し、マヨネーズと塩コショウで味付けをしてとりあえずたまごサンドの中身がちゃんとできたことに安堵した。

次はパンにバターとマスタードとマヨネーズを混ぜたものを塗ろうと食パンとパン切りナイフを持ってきて、薄めに切り始めたのだが…薄いところと厚いところにわかれてしまい、切れ端がたくさん出て断面もボロボロ。
パンくずが凄いし、この1枚で止めといた方が良さそうだ。
朝アランはあんなに手早く簡単に切ってくれたのに何故できないのかがわからない。
無理に僕が切るよりアランに綺麗に切ってもらった方が良い。
この失敗したのは僕が食べようと決めて使った器具や食器を片付けた。

結局片付けにも時間がかかってしまい、気がつけば11時半になっていた。ちょっと休憩しようと暖かいお茶を入れて座って一息つく。
アランも、お昼に帰ると言っていたからもうすぐ帰宅するだろう。
お茶を一口飲んで、ふと周りを見渡すと当たり前だが誰もいなくてシーンとしている。
急に背中がツーっと寒くなって心臓がドキドキとしてくる。
怖くなって勢い良く立ち上がると椅子がガタっと音を鳴らして、その音に吃驚して飛び上がる。

おかしいなぁ。大丈夫、大丈夫。と深呼吸して、掃除するのに換気した窓を閉めてまわる。
玄関の鍵もちゃんと施錠してあるか確認した。すると今度は閉めきっている部屋にドキリとした。

自分で鍵を閉めたのに閉まっている空間が怖い。
空気が重く感じて玄関の前で座り込んでしまった。
三角座りをして顔を自分の膝に埋めた。
しばらくそうしているとガチャリと鍵を開ける音がして、反射的に顔をあげそうになるが、もしかしたら、と見るのが怖くて目をぎゅっと閉じる。

ドアを開ける音と共にもう嗅ぎ慣れてしまったアランの落ち着く匂い。
あぁ良かったと思うと同時に抱き上げられていた。
無言で痛いくらいに抱き締められて抱き込まれて。あんなに怖かったのに不思議ともう全然怖くない。アランの胸の中で深呼吸するととても落ち着くことができた。

「アラン、ごめんなさい。急に怖くなって家の窓全部閉めたのに、そうしたら逆に怖くて堪らなくなっちゃって…ごめんなさい。」

「1人にして悪かった。まだ怖いよな、俺が悪かった。だからミナトは謝らないでくれ。」

「アランは何も悪くないです!僕が弱いだけ。でもアランが帰ってきたら凄く落ち着けて不思議と大丈夫になったんですよ?」

まるで自分が強くなったみたいです!と笑顔を向けるとアランも少し笑ってくれた。

それから僕を椅子へ降ろしてキッチンを覗き込む。

「何か作ってくれてたのか?」

「お昼にたまごサンドを作っておこうとしたんですけど、パンが上手く切れなくて…こんなになっちゃいました。」

キッチンへ歩いて行き僕が切ったボロボロのパンの乗ったお皿を指差すとくつくつと後ろから笑い声が聞こえる。

「こうやって切るんだ。」

後ろから、ナイフを掴んだ僕の手を、大きなアランの手が包み込む。
アランにすっぽり囲われてアランの動かすままに手を動かすと上手くパンが切れていた。
アランが1人で切ったものほど上手くないけどちゃんと繋がっているし断面も綺麗だ。

何枚か一緒に薄く切って最後の1枚を任された。残り少なくなったパンは切りにくいけれどアランに教わった通りに慎重に切る。
お世辞にも上手ではなくて厚みもあるけれどアランが褒めてくれたから良しとしよう。

アランと切ったパンでたまごサンドをどうにか仕上げて並べると食卓にはトマトベースのスープも並んでいた。

「あっ、アラン。その最初のボロボロのパンは僕が食べますね。」

こんなものをアランに食べさせるわけにはいかない。

「これはミナトの初めて切ったパンだろう?俺が食いたいんだ。嫌か?」

「嫌じゃないですけど、こっちの綺麗な方のが良いと思います。」

「嫌じゃないなら頂くな。ありがとう。」

笑顔で押しきられて、もう何も言えなかった。



他愛のない話をしながら食事をして、食後のお茶を飲んで大分時間がたっていることに気がついた。

「アラン、お昼休みは何時までですか?時間大丈夫ですか?」

僕は焦ってアランに問いかける。

「実は出勤したはいいが、目に見えてそわそわしてしまって部下に帰宅するように言われたんだ。だから、午後は自宅で少し書類仕事をする程度だ。」

置いてきたミナトが心配で気になってな…
と少しはにかむアランから目が離せない。

「それでだな、これからミナトをこの家に1人置いて仕事へ行くのは嫌なんだ。でも何もしなくて良いからと連れていかれるのはミナトも気にするだろう?」

それは確かに気にしてしまうだろう。
忙しいアランの邪魔にしかならないだろうし…

「僕のために気を使わせてしまってすみません。今日は怖くなっちゃったけど、もう大丈夫だと思います。」

だから心配しないでと、本当はまだ少し心配だけどアランの邪魔をしないように強がってしまう。

「俺が無理なんだ。ミナトが1人だと思うと気になるし家で待ってくれていると思うと仕事しないで直ぐに帰りたくなってしまう。」

アランは椅子を降りて近づいてくるとまた僕を抱いてソファーに移動する。

「今日は帰れと言った部下に聞いたんだが、ギルド内の食堂でホールスタッフを募集しているらしい。わざわざギルドの中の食堂で飯を食う奴等は大体が常連で、変な奴は来ないし行かせない。だから、もしミナトが良ければ働いてみないか?」

「…え?僕が?ええ?働いてみたいです!でも、僕は恥ずかしながら働いたことがなくて…あまり上手くできないかもです。」

「誰だって最初は失敗するさ。俺の出勤に合わせての出勤にして貰えれば、俺も安心して仕事に打ち込めるし何より嬉しい。それに1人だけだが人族も働いているんだ。」

「人族!それは会ってみたいしお話してみたいです。」

お仕事も失敗ばかりするかもしれないけど働いてみたいともう一度告げると、頭を撫でられて少し休んだら一応面接してもらおうと言うアランに肯定の返事をした。
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