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絶望 (主人公が可哀想な目にあいます)

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シエロさんが部屋を出ていって暫くはぐすぐす泣いていた。
そろそろリズさんにも挨拶しなきゃと思うが、兎さんには会いたくないと思ってしまう。
すると窓の外から楽しそうな笑い声がする。
兎さんは食事を終えてシエロさんと町へ行くみたいだ。
並んで歩く後ろ姿をみてお似合いだなぁとしみじみ思う。
月兎だという兎さんはシエロさんとお揃いの真っ白な耳と尻尾があって、勝ち気そうな黄色の瞳はキラキラと輝いていて、綺麗なシエロさんと並んでいると1枚の絵画を見ているようだった。

名前は教えてくれなかったけど僕も聞きたくなかったから丁度良かった。名前を知ったらずっとずっと覚えていて、思い出す度に辛くなるだろうから。

荷物を持ってリズさんのところへ行く。
リズさんはいつもニカッと笑ってくれて僕に遠慮がなくて本当にお父さんみたくて…
でも今日は泣きそうな笑顔でこっちまでつられて泣きそうになって、でも頑張って笑顔を浮かべたから変な顔になっているのだろう、リズさんがぶはっと吹き出して、また僕もつられて笑ってしまった。

「…息子と離れるのは寂しい。」

「僕もお父さんと離れるのは寂しいです。」

「…息子と料理が出来ないのも寂しい。」

「腕を上げてリズさんに料理を作ってあげられるようになっておきます。」

「…ミナトとアイラがくっついてるのを眺めているのが好きだった。」

「僕もアイラさんとお話したり勉強したりするの好きでした。リズさんとアイラさんがくっついているのを見ているのも幸せな気持ちになれました。」

「…はぁ、元気でな。まあ直ぐにアイラと会いに行くから。ちゃんとお利口に待ってろよ?」

「はい!リズさん、僕、邪魔にしかならないのに嫌な顔をしないで沢山料理を教えてくれてありがとうございました。ちゃんと1人でも練習して、美味しいもの作れるようになりますね。」

そう言うと頭をぐちゃぐちゃに撫でてくれた。

僕は帽子をかぶって荷物を持って庭の先の馬車へ乗り込む。

「シエロ様はゆっくりとお別れができるようにあの方を連れて町へ出ました。シエロ様がお見送りしようものなら癇癪をおこしそうな雰囲気でしたよ…私たちだけで申し訳ありません。」

「シエロさんにはちゃんと挨拶できました。気遣ってくれてありがとうございます。それに、みなさんに見送って貰えて嬉しいです。」

僕は心からの感謝を笑顔で伝える。

「約束、覚えていますか?諦めない事と手紙を書く事。絶対ですからね。」

「はい!もう諦めません。言いたいことも言えるように頑張ります。手紙も直ぐに書きますね?みなさんもシエロさんと兎さんと仲良くしてくださいね?約束ですよ。…それじゃあ、本当にお世話になりました。また会えるときまでさよならです!」

僕は笑顔で手を振った。
泣くのを我慢して作った笑顔だけどみんな同じ顔だった。
涙はもう出なかった。
現実を受け入れるのは辛いけど、前に進もう。大好きな3人を見てそうしたいと思ったんだ。




初めての馬車は思いの外快適だった。
リズさんが持たせてくれたお手製のクッキーを食べながら外を眺めた。知らない綺麗な景色は見ていて飽きなかったし、ぼーっと外を眺めていると何も考えないでいられた。

2つ町を越えて、森の脇道を通るときに御者さんに窓を閉めてくださいと声をかけられた。路地や森などは危ないって注意されたなと僕は窓を閉めて一応カーテンも閉めた。

そのまま暫く進んでいると急に馬車が大きく揺れた。
最後に聞いたのは人の叫び声と馬の甲高い嘶き声。
直後に馬車が傾いてそのまま横転し僕の意識もそこで途切れた。





目覚めたときには知らない部屋にいた。
いや、部屋と言えるのだろうか。
石造りの壁に僕の身長よりも高いところに小さな窓。入ってくる光は明るいのに少ない範囲しか照らさない為に部屋は暗い。
半開きのドアの向こうにはトイレと小さなお風呂が見える。

目覚めた質素なベッドには鎖が付いていた。
目で鎖を追うと僕の足枷までのびていてぞっとした。
そっと手で触るが外れるわけがない。僕はガクガク震える足に力をいれて音を立てないようにベッドから降りた。
鎖は長く部屋の中は歩き回れるがきっと外に繋がっているのであろうドアには鍵がかかっていた。

ベッドに戻ると足を抱えて座った。
小さく固まってないと怖かった。
頭の中で何が起きたのか整理しようとしたけど怖くて。ただただ怖くて震えているだけで何もできなかった。
御者さんは無事だろうか、それだけが心配だった。




静かに踞っていると足音が聞こえた。
ガチャガチャと鍵を開ける音に体が跳ねる。
バンっと乱暴に開けられたドアには色黒の大きな獣人がいた。
大きな尖った角が鋭くて、それが恐怖を増長させる。
小さくなって震えている僕を見るとニイッと唇を歪めて笑い、近づいてくると、後ずさって下を向き目をぎゅっと閉じている僕の髪の毛を掴み、無理やり上を向かせた。
ぶちぶちと髪の毛が抜ける音がする。
そして絶望的な言葉を発した。


「よぉ、俺は闘水牛のイルダ。今日からお前の飼い主様だ。…逆らうなよ。」

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