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朝ごはん
しおりを挟むこの世界に来てから眠るのが怖くなくなった。
今までは1日の終わりはほっとして、同時に朝が来るのが怖かった。
寝てしまうとすぐに朝になってしまうから。朝になるとまたからっぽな1日が始まってしまうから。
今はこんなにも明日が待ち遠しい。楽しみでわくわくとして、小さな子供の時にも感じなかった感情を持つことができた。
眠れないかも、なんて思っていたけれど毎日が充実しているからか日付が変わる前には眠りに落ちていた。
早く明日にならないかなぁなんて思いながら。
翌朝、いつものようにアイラさんに起こされるまでもなく随分と早く目覚めた僕は、顔を洗って身支度を整えて部屋を出た。
いつもより早い時間だが、リズさんなら確実にもう厨房にいるだろう。
そっと中を覗くとリズさんもこちらを見ていて吃驚してしまう。
「おー、ミナト今日は早いな!」
誰か来たと思ったらお前だったか!とニカっと笑うリズさんはワイルドなナイスミドル系で敬語で話されるのに慣れない僕に敬語は苦手だと言って普通に接してくれる優しい人。
「リズさん、おはようございます!今日はシエロさんに初めて町に連れていってもらってピクニックする予定なんです。楽しみすぎて早起きしちゃって…邪魔しないので見ていてもいいですか?」
本当はお手伝いしたいけれど僕は料理ができないから邪魔にしかならないだろう。日本ではキッチンは専業主婦の義母の場所で料理なんて出来なかったので、家庭科の調理実習くらいでしか経験がない。
「見ててもいいけど暇じゃないか?一緒にやるか?」
「暇じゃないし色々な材料が合わさってひとつの料理になるのは見ていて楽しいです。僕がお手伝いしたら美味しいリズさんの料理が美味しくなくなっちゃうから大人しく見てます…!」
そう僕が言うとリズさんはとても優しい顔をする。
「ミナトが手伝ってくれたらいつもより美味しくなるよ。」
そう言ってくれて、朝食作りをお手伝いすることになった。
「さて、じゃあ芋の皮を剥いてくれるか?…あーやっぱ今のなし!包丁の持ち方がおかしい。芋じゃなくて指が切れるぞ!これは今度じっくりみっちり教えてやるからな。卵は割れるか?」
卵は調理実習で割ったことがあるしできるはずだ。
結局僕が卵を5個割って崩れて入ってしまった卵の殻を取り除く間にリズさんはじゃがいも、人参、玉ねぎの皮を剥いて、形の揃った1センチ角に切り、火を通して味付けをした。
リズさんがひとりで作る方が明らかに早いのに、僕の割った卵を見て全部ちゃんと割れたなって頭をぐりぐりと撫でられて…つい、へらっとにやけてしまう。
そして、細かくなっているチーズの入った入れ物を渡されて合図したらパラパラするように言われ、リズさんの隣で待機する。
フライパンを熱して溶いた卵を3分の1程流し入れる。
軽く揺すりながらリズさんが作っていた具材を入れるとほいっとフライパンごとこちらに向けてくるので急いで手に持っていたチーズを入れる。リズさんの手際が良くて、パラパラしてと言われてたのに焦って、チーズを手で掴んで投げるように入れてしまった。
「ぶふっ!」
笑いを堪えながらも手際よくトントンとフライパンの柄を叩き綺麗な形を作る。
具沢山チーズオムレツの完成だ。
「リズさん、凄い。綺麗。美味しそうです!」
「ミナトが手伝ってくれたからなー。ほらあと2つ焼くぞ。」
「あと2つですか?全部で3つ?」
「ミナトとシエロ様とあとひとつはアイラにも食わせていいか?凄く喜ぶと思う。」
「もちろんです!リズさんの分は良いんですか?」
「俺はもう朝食は済ませたけどミナトが一生懸命手伝ってくれたオムレツだからなぁ、アイラと一緒に食う。」
残り2つのオムレツを作りいつの間にか作っていたらしいスープと、焼きたてのパンも盛り付けているとアイラさんが小走りで近づいてくる。
「リズ!あなたはミナト様に何をさせているんですか!?」
アイラさんは怒っているが、僕はリズさんがセッティングしてくれた朝食たちをみてそれどころではない。
「アイラさん、おはようございます!僕リズさんのお手伝いしたんです!卵割ってチーズ入れたんですよ!これです!」
オムレツを指差してアイラさんに報告する。
「……ミナト様が楽しかったのなら良かったです。」
苦笑いぎみに頭をポンポンとしてくれた。
アイラさんの分もあるという事を伝えると一瞬ふにゃっと笑ってくれて、でもすぐにいつものキリリとした顔になった。
「なんだか自分の子供に料理教えてるみたいで楽しかったよ。またやろうな?」
リズさんが笑顔でそう言ってくれる。
「僕も楽しかったです。また教えて下さい!リズさんがお父さんですか?じゃあアイラさんがお母さんですね!」
真面目に答えるとアイラさんはまた一瞬表情を崩したが僕を椅子に座らせ、「お茶を入れてきます。」と出ていってしまった。
リズさんはそんな僕たちをみて満足そうに笑っていた。
「おはよう。良い香りだね。」
シエロさんは今日も朝から綺麗な笑顔を浮かべて椅子に座る。
「シエロさん、おはようございます。今朝のオムレツは僕もお手伝いしたんです!と言っても手際悪く卵を割ってチーズを入れただけなのでほとんどリズさんの邪魔にしかなってなかったんですけどね?」
でも楽しかったです!と笑いながら伝えるとシエロさんも笑顔を返してくれる。
「ミナが朝から厨房にいたのは気づいていたけど私が行って見ていたらミナもリズも緊張してしまうかと思ってね、我慢していたんだよ。…あぁ、リズのオムレツはいつも美味しいけど今日のオムレツは一段と美味しいね。チーズが沢山入っているのが良い。作ってくれてありがとう。」
リズさんの言葉にお手伝いして良かったと心から思った。
この家の人たちは本当にみんな優しい。
今度はちゃんとお芋の皮剥きができるように練習しようと心の中で意気込んだ。
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