1 / 36
異世界へ
しおりを挟む━━━━━━ もう、嫌だ。
お前ら全員死んでしまえ
消えていなくなれ
何度願ったのだろう。
あぁ神様、もしも存在するのなら僕を助けて。
あいつらを全員消してください。
それが出来ないのであれば 愛 が欲しい。
たったひとつだけで良いから
あたたかい愛が欲しい。
毎晩神様にお願いして
毎朝絶望して
学校へ行って
また絶望して
自分では何も行動を起こせなくてビクビクと怯えて自分の殻に閉じ籠って
逃げる事さえ
自ら命を絶つことさえ
出来ないくせに人のことを消してくれと信じてもいない神に乞う僕の願いなんて聞き入られることはない。
今日も朝から憂鬱だ。
2階にある自分の部屋からリビングへ行くために階段を降りる。
和やかな会話が聞こえてくる。
週末の予定かな?
僕が扉を開くと途切れる会話、腫れ物に触るような態度。
優しい両親
可愛い妹
家族になりきれない血の繋がらない僕
父の前妻の連れ子。
他と少しだけ違う家族の形。
愛があれば血の繋がりなんて関係ないらしい。
じゃあ愛も血の繋がりもない場合はどうすれば家族になれるのだろうか。
学校へ来ても気分は晴れない。
同じグループの奴らに酷いことを言われてもパシりにされてもへらへら笑って乗り切る。
本当は気を使わずひとりで過ごしたい。
でもひとりは嫌だ。
ひとりは怖い。
たまにリーダー格の奴にストレス発散に殴られる。
痛くて辛くて、そして悔しい。
もしも僕にやり返す勇気があれば何か変わるのか。
そんな勇気もでないのに心の中では相手を罵倒する臆病者。
あぁ、今日も死ねなかった
そう思いながら生きるための食事をひとりでもそもそと食べるのだ。
矛盾しているのに嫌気が差す。
そして1日が終わる。
明日も明後日も同じ1日の繰り返し。
眠る前に明日が来なければいいのにと強く願う。
そして朝がきてやはり絶望するのだ。
━━━━━━━━━━━━
とても優しい夢を見ていた気がする…
ふわふわと髪をとく手つきにうっとりとしながら、こんなに穏やかな気持ちはいつぶりだろうと考える。
あぁ起きたくない
起きたらまた学校か…
最近暴力を振るわれる事が増えてきた。
言葉の暴力はもう今さら傷つかないし聞き流せばいいだけ。
でも身体的な暴力は嫌だ。
痛いのも嫌だし制服が汚れていても傷があっても見て見ぬふりの名前だけの家族からの視線も嫌だ。
そこまで考えて、ふと思考が停止する。
あれ?僕寝ていた?
確か今日も朝から嫌だ嫌だと思いながら登校していていつも通る公園から真っ白な子猫が飛び出してきて
普段なら気にもしない僕だけど小さいあの子が気になって…それでふらふらと追いかけて…路地裏に入って…
…そっか。そこで急に地面がなくなるような感覚がして気づいたらここに落ちていて理解しがたいその状況にそのまま気を失ったんだ。
じゃあまだそこにいるのか
それにしても何も考えられなくなる程に髪にかかる手が心地いい。
人に優しく触れられるのなんて、初めてだ。
このままふわふわと微睡んでいたいけど意を決して薄く目を開けてみるがあまりの眩しさにぎゅっと目を閉じてしまう。
すると髪をとく手が離れてしまい起きて損をした気分になる。
「ふふ、起きた?眩しかったかな?…もう大丈夫だから目を開けていいよ。」
優しい声。
気配でこの人が影になってくれたのがわかる。
もう一度そうっと目を開けると逆光でほとんど見えない。
しばらくぼーっと見つめていると段々と目が慣れてくる。
そこにいたのは綺麗な顔をした真っ白な三角の耳がある男の人。
「……っ」
思わず息を飲んだ。
僕は夢を見ているのだろうか、それとも現実?ただのコスプレ?
え?というかここどこ?
頭が覚醒してくるがぐるぐるぐるぐると色々な事が頭の中を巡り、僕はまた意識を手放した。
次に目が覚めた時、知らない部屋のベッドに寝ていた。
「知らない天井…」
ありきたり過ぎるよと心の中で呟く。
「おっ!起きたみたいだね。なかなか起きないから心配していたんだよ。」
「…っ!!」
誰もいないと思って呟いたのに吃驚してしまって体が強張ってしまうと外で髪をといてくれていたあの優しげな人が少しだけ困ったような顔をして此方を覗き込んでいた。
「ごめん、驚かすつもりはなかったんだけれど…具合はどう?やっと起きたと思ったのにまたすぐに気を失ったから焦ったよ。家もわからないし持ち物もない。君は人族だよね?あの場所で1人で寝かせとくのは危ないからとりあえず私の家に連れてきたんだ。勝手にごめんね?」
話しかけてくれているのに、返事をしないといけないのに、彼の男の人なのに綺麗な微笑みにぽけっと見とれて言葉がでない。それにやはりケモ耳とふさふさの尻尾が気になってチラチラと見てしまう。
「ん?まだ具合悪い?大丈夫?」
心配そうな顔で問いかけてくれて我にかえる。
「あのっ!大丈夫です。具合悪くないです。えっと、助けてくださったんですよね?ご迷惑おかけしてすみません、ありがとうございます。」
体を起こしてベッドに座っている状態で申し訳ないがペコリと頭を下げる。
「それで、あの、僕気がついたらあそこにいて、自分でも何が何だかわからなくて、たぶん僕が住んでたところと違くて、あと、あと!」
もう何が言いたいのかわからなくて纏まらなくて涙で目元が潤んでくる。
すると背中がスルスルと撫でられる。
「うん。大丈夫、大丈夫。ゆっくりで良いよ。そうだ!お茶でも飲みながら話しようか。お客様が来てるからって料理人が張り切ってクッキー焼いてたんだ。一緒に食べようよ。ね?」
堪えていたのに耐えきれないよ。
「っふぇぇ…」
僕は優しい言葉と気づかいに胸が熱くなって涙をとめることができなかった。
32
お気に入りに追加
912
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
運命を知らないアルファ
riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。
運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!?
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
ひとりじめ
たがわリウ
BL
平凡な会社員の早川は、狼の獣人である部長と特別な関係にあった。
獣人と人間が共に働き、特別な関係を持つ制度がある会社に勤める早川は、ある日、同僚の獣人に迫られる。それを助けてくれたのは社員から尊敬されている部長、ゼンだった。
自分の匂いが移れば他の獣人に迫られることはないと言う部長は、ある提案を早川に持ちかける。その提案を受け入れた早川は、部長の部屋に通う特別な関係となり──。
体の関係から始まったふたりがお互いに独占欲を抱き、恋人になる話です。
狼獣人(上司)×人間(部下)
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞奨励賞、読んでくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる