59 / 64
第二章
花束といちご飴
しおりを挟むシズカは里の外へ出る機会が中々ない。まぁ、機会なんてものは作らせてないのだが……
そんなシズカの為に初日は獣人の暮らす国を通ることにした。獣人は人とは違って匂いで判断するし、番だと感じれば一直線。……ただ、脳筋が多い。好ましいと感じたらグイグイ来る。その辺が心配だと告げた時のヤサの顔はお前は何なんだと言いたげであってとても心外であった。
人の国よりはマシそうだが、今のシズカは見た目がエルフ。可愛らしさに麗しさまで追加されて心配でしかない。
人数が多いとそれだけで目立つから、フードを被ったシズカと二人で街の探索と折角だからと買い物に出てきた。
「リオ、あそこでお肉売ってる…あ、いちご飴も…お金は同じ硬貨…?あそこはパン屋さんかな?良い匂い。」
そわそわキョロキョロと辺りを見渡すシズカ。右手でしっかりと俺の左手を握って、空いた左手は俺の外套をキュッと握る。好奇心はあるが不安もあるのだろう。歩きにくくはないだろうか。抱き上げて移動したい。
いつの間にか口角をあげてシズカを見ていたからか、目が合った後に恥ずかしそうに視線を下げる。
「もー、ひとりではしゃいで恥ずかしい。」
「いや、可愛いだけだけど。歩きにくくないか?抱き上げさせてくれる?」
「……だめ。」
「ふは。尖った耳が真っ赤。」
偽物の耳でもちゃんと苺色に染まっているのがフードから僅かに見える。ヤサすげぇな。
「あのね、みんな馬車でお留守番してくれてるでしょう?お土産買って行こうね。」
「ん。シズカの買いたいものを選べば良い。」
自信がないから一緒に選ぼう?と繋いだ手を前後にゆるく揺らすシズカ。正直ただ馬車で留守番している奴らに土産とか意味がわからないが、シズカが可愛く一緒にとか言うから断る理由はない。
「皆何でも喜ぶと思うけど、そう言うなら一緒に選ぶか。」
メルロとマオの土産は直ぐに決まった。メルロには花屋で綺麗な黄色の花を数本注文。シズカにはフードを深く被らせているから顔はわからないだろうが、店主のジジイは俺を見るなりエルフだなんてご利益が~などといって色とりどりの花束を作り出す。いや、それメルロに食われるのだが。貰えるものは貰えば良いかと口出しせずにいれば手を繋いでいるシズカへのプレゼントかと思われたのかリボンまで巻かれて困惑しているのがヒシヒシと伝わってくる。
「お客さん、こーんな色男の恋人がいて良いねぇ。」
急に話しかけられて花束渡されてビクリと体が跳ねたシズカ。繋がれた手をきゅっと握ればホッとした表情。
「んと、恋人ではなくて半身です…!お花ありがとうございます。とても綺麗で良い香りです。」
「ん。お前らみたいな獣人でいう運命の番ってやつ。シズカ、それ持つ。」
最初に恋人という言葉を訂正するのが愛おしくて両手で花束を受け取ったシズカから花束取り上げて手を繋ぎ直した。
「そうなのかい!そりゃ悪かったねぇ。新婚ってやつかい?じゃあこれもサービスだ。」
差し出された真白の一本の花は可憐でシズカによく似合う。それをそっとフードの中の耳に。
「ありがと。」
「ありがとうございます。」
勝手に色々サービスされたけど、その分の料金も支払って花屋の店主へ礼を言ってその場を後にした。
マオへの土産はあいつは何でも食うけど果物が特に好きそうだから、果物を使った飴にした。ここは店番が若い男で俺達をジロジロと見てくるからつい睨む。シズカは飴に夢中だけど。
「やっぱりマオさんは体もおくちも小さいし苺飴かな?」
「あー、だな。じゃあそれ三つで。」
「みっつも?」
マオさんの健康に悪い気がする…と元魔王の健康を気にするのが面白い。
「シズカもこういうの好きだろ?あと、マリアにあげたら揃いのものを食べるのが夢だったとか言いそう。どうだ?」
「ふふ!確かにおばあちゃんはそう言うね。僕の分もありがとう。」
あー、笑ったら可愛い顔を隠していても意味がない。スッと通った鼻筋も小さめで形の良い唇も可愛い要素しかないのに、笑い声までだなんて。
「わ!リオどうしたの?」
眼前の狼獣人の男がシズカの顔を覗こうと屈むものだから腰を引き寄せてフードを少し下へ引く。
「ん?ただの独占欲。」
「なにそれ。」
もう少しフード大きくて良かったな、あーでもこれ以上だと歩き難いか。
「抱き上げて運んでも良い?」
「ふふっ!またそれ?だめです。」
一緒に歩こう?と見つめられたら断れない。
61
お気に入りに追加
3,396
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる