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駄目なわけない

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 ベッドへ寝転んで、手を繋いでシズカと沢山語り合った。
 互いの生い立ちをぽつりぽつりと言葉にして吐き出し、繋いだ指先で手の甲を撫で、目が合ったら口づけをして。

「このまま時が止まれば良いのに。」

「ね?」

「…逃げるか。」

「もー、だめだよ。終わったら、帰ろう?」

「…どこに?」

「リオと…僕のお家。」

 あー、可愛さ一億点。


「あの日、召喚された日、何してた?」

「お掃除。」

 汚水かけられてたんだよな。胸糞わりぃ。

「光った?」

「んー、文字が沢山出て来て、すこんって落ちた感じ?」

「へぇ。勝手に召喚したのは不快だけど、シズカに出会えたのは、幸せ。」

「僕も、幸せ。」

 むぎゅむぎゅ抱き合ってどんな話をしていても直ぐに好きだとか、幸せだとかの話になって、微笑みあって。
 話は中々進まないけど心は暖かい。
 明日の朝食のサンドウィッチの具材を考えながらシズカはスヤスヤと寝息をたてる。むにゅむにゅと口を動かしているのは、夢の中でサンドウィッチを食べているのか。
 閉じられた瞳と長い睫。その睫をそっと撫でれば途端に眉間に皺を寄せる。

「ははっ」

 その顔が可愛くて、思わず声に出して笑って、抱き直して眠りについた。



 物音がして意識が浮上する。
 まだ薄暗い…朝方か。
 意識を集中させて、苛立ちと共に舌打ちが自然に出る。あの糞女が。

「んむ、りお…?おきる?」

 一瞬で心が浄化された。可愛い。寝起きから可愛い。

「おはよ。早くに起こして悪い。」

「んーん。なにかあった?」

「糞女がいなくなったっぽい。」

「…、マイカがごめんなさい。」

「あいつとシズカは無関係。謝る事はひとつもない。ちょっと、話聞いてくる。」

「…ん。気をつけて。」

 触れるだけのキスをして、いつもの魔法をかけて貰って、ダラダラと用意をして後ろ髪引かれる思いで部屋を出た。




「っ、エルフ様!早朝から申し訳ありません…!起きたらマイカがいなかったのです…!何か、ご存知ないでしょうか?」

「いえ…たった一人で居なくなったのですか?他に居なくなった者は?」

「…マイカと共に一人、消えています。魔力の多さからマイカに見初められた者です。」

 セックス要員を連れていくとか。もう、好きにさせてやれば良いと思う。魔獣に喰われても、自己責任だろこんなの。

「昨夜、故郷が恋しいと言い出したのです…可哀想に…さめざめと泣いてしまって。」

 いや、召喚したのはお前らだろ。考えが馬鹿過ぎて、何も言えない。可哀想にって…

「帰れる方法は本当にあるのでしょうか?」

「…一応…あります。極秘ですが。」

「聞いても良いですか?」

 聞きたくない。でも、シズカはここに居ると言ってくれたから。聞いておいた方が良いだろう。そんで、こいつ馬鹿だから極秘と言いながらぺらぺらと話す辺りが…継承権返上しないと国が滅びる。

「召喚よりも送り返す方が魔力を食うのはご存知ですよね?」

「えぇ。」

「単純に対価となる魔力があれば良いのです。」

「…というと?」

「魔力量が多い者を生贄にすれば…」

 …糞が。俺に執着していたのもシズカに執着していたのもそれが目的か。

「マイカは聖女ですから、対価となる生贄も中々おりません。魔力量が多いものは貴族に多いですし……私はマイカの事を本気で愛しています。だから…愛しているが故に、マイカの気持ちを尊重しようかと…!」

「…王子の魔力量なら対価となるのでは…?」

 糞みたいな魔力同士釣り合うだろ。

「そんなご冗談を。私は王となるのですよ?死ぬわけにはいきません。…それで、あの魔力だけは多そうだったマイカの召し使いなら丁度良いかと思っていたのですが。」

 この自分に酔っている糞王子をぶっ殺したい。
 こいつは何を言っている?
 どうすれば良い?どんな死に方が良い?

「あぁ、でも、あの昨夜の男を代わりとするなら…あの召し使いは大丈夫です。いりません。エルフ様…!とりあえずマイカを探さなくては…!ッ、ぐあっ、」

 思わず、殴り飛ばした。
 魔法を使わず拳を使うなんて久しぶりだが…汚物に触れるのは気色わりぃな。やっぱ触れないで殺そう。

「あ…あ、この、この…不敬罪で打ち首になりたいのか…!」

「どうぞ?あなたに出来るなら。」

 触れずに首をギリギリと締める。
 誰かに名前を呼ばれている。ニコラスと御者たちか。まぁ、待て。まず殺すから。

 向かってくる騎士たちは、先程の会話を聞いていたのだろう。戸惑っている空気を感じる。
 王族で、継承順位が第一位の癖に命からがら守ってくれる奴もいねぇのか。
 最近セックスばっかだっただろうし誰も付いてこねぇのは納得。糞だし、生贄発言もしたし、糞女の練習台にされた奴もいるだろうし。本当に、皆、馬鹿。



「がっ…ぐ、があっ…」

 苦しそうに首を掻くその顔は涙や鼻水で汚い。気持ち悪い。はやくしよう。

 更に力を入れようとしたところで愛しい香りに包まれた。

「ッ、りお!だめだよ、だめ。離そう?ね?」

「可愛くて、大好きなシズカのおねだりでも、無理。ごめん。」

「うん。ごめん。僕も、ごめん。えと…あの…りお、僕さみしい。」

 寂しいと聞いて思わずシズカを見る。

「ね、ぎゅーして、ちゅーしてくれないとさみしい。さみしくて、死んじゃう。リオが僕の事見てくれないと辛い。この手開いて、僕の頭撫でて?リオの温かい手で僕のほっぺ包んで?可愛いって言って。大好きって言って?…ねぇ、だめ?」




「…………駄目なわけない。」


 どさりと糞が膝をつく音がした。



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