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起きて一人は寂しい
しおりを挟む日差しが眩しくて、起きたくないと思いながら重い目蓋を上げる。
昨夜はシズカから皆が寝静まってから防音の部屋でなら良いと言質をとったから、屋敷の方の部屋で遅くまでねちっこく攻め立ててしまった。
可愛くて可愛くて、ついシズカに限界を越えさせてしまった。もう出ないとぽろぽろと涙を流しながら潮吹いて、ふぇぇぇ…!と号泣するのは本当に可愛くて。もう止めようと思っていたのに、最後に射精させて終わりにしようと思っていたのに…まぁ、挿入した。
もしかして、怒ったのか…?と腕の中に暖かいものがない事をわかってはいたが確かめて、ため息を吐く。
最近シズカと眠ると起きれない事が多い。以前は僅かな物音にも敏感だったのにだ。
とりあえずシズカを探して謝ろうと起き上がればベッドサイドのテーブルに置き手紙。
「りおへ
おはよう。めるさんの ごはん おさんぽ いってきます。しんぱい しないでね。しずかより」
これは、手本を見ないで一人で書いたんだろう。書き取りの練習をコツコツとして、ここまで書けるようになるなんて凄い。そんで、簡単な文章が可愛いし、字は一文字ずつ、丁寧に書いたのが伝わってくる。
…仕舞っとこ。目に焼き付けてから、そっと異空間へと仕舞った。
「ここは天国か。」
「そうかもしれん。」
外へと出れば羊とその上のメルロと戯れるシズカ。花びらを沢山降らせてくるくると回る。
そして振り向けばヤサ。
「歩き方が腰が引けてて可哀想でなぁ…治癒をかけてやろうと「は?」…したが、思い出したように自分でかけておった。問題なく出来ていたぞ。」
「ならいい。……俺がいない時に痛がってたら治癒してやってくれ。」
「ぶはは!そもそも原因はお前だろう?ステラリオ。少しは抑えんか。」
「無理。」
本当に無理。小悪魔通り越して魔性だ。普段から可愛いのに、おねだりや泣き言や素直な誘い文句が可愛くないわけがないのだ。…要するに、常に可愛い。昨日の「やだ…やだぁ…りお、りお、も、いや。はやく、きてよぉ」ってぐずぐず泣きながらねだられた俺の身になって欲しい。
いや、俺の身になって欲しくはないな。一生知らなくていい。俺だけ知っていれば良い。
「あ…!リオ、おはようー!」
にっこり笑って駆け寄るシズカを抱き留めて、謝る。
「おはよ。昨日ごめんな?やり過ぎた自覚は、ある。あと、置き手紙も嬉しかった。字がすげぇ上手くなってて驚いた。」
「ううん、僕もごめんね?」
ぽっと頬を赤く染めるのは、昨日の事を思い出したのか。
「文字はね?馬車で時間ある時に頑張る事にしたよ。もっと上手になりたい。」
「ん。偉い。出来なくても全然良いけど、出来たら役立つ事もある。」
「うん。頑張る!」
はぁ。うちの半身は本当に良い子。
「あと最近朝ぐっすりで、起きれない事が多いんだ。悪いんだが、起きたときに一人は寂しいから部屋出るときは出来れば起こして欲しい。」
一緒に起きたらその分一緒に居られる時間が増える。そう伝えればハッとした表情のシズカ。
「もしかしたら…それ、僕のせいかも…この間も…」
「ん?」
「…早起きした時に、ゆっくり寝てね?ってちゅうとかしてる…頭とか、ほっぺとかに…うぁ、勝手にごめんなさい。」
見たい。切実に見たい。とかって何。ちゅうと他に何してるの。寝こけてた自分を呪いたい。
「魔法が発動したのか。それなら納得だな。今度は、起こしてからおはようのちゅーして?」
「うん、でも、疲れてるときは寝て欲しい…」
「シズカは前夜に沢山体を重ねて、愛し合って、起きたら一人って寂しくねぇ?」
「…寂しい。ごめんなさい。これからは起こすから、僕の事も起こしてくれる?」
「ん。怒ってないから謝らないで良い。ありがとう。」
怒ってない。寂しかっただけ。あんまりシズカには言いたくないけど、寂しかっただけ。
「よし、ステラリオの甘えたも終わったしシズカ、一緒にパンを焼くぞ。」
「焼きます…!リオ、また、リオパン焼くね?」
「ヤサうぜぇ。…ん。俺もやる。」
「ぶは!でっけぇのが着いて歩く方がうざいのう。」
そう言いながらもぐりぐりと頭を撫でるヤサをシズカも微笑んで見ていて、腕を払い落として照れ隠しにシズカを抱き上げて走った。
「いやぁぁぁッ、ふは!ふっ、あはは!リオ、はやい…!」
声に出して笑い転げるシズカが可愛すぎて困る。
「はははっ!」
ひとしきり二人で目を見合わせて笑っていれば、ヤジが入る。
「ふざけるなら他所でやれ。」
「ステラリオ様、子供みたいですねぇ。幼い頃は大人みたいだったのに。」
「シズカのおかげだなぁ…」
いつの間にかメルロが入って、コメカミに汗が滲む程走って、笑って。
「ふぁ、はぁ、…ふぅ。パン焼かなきゃ…」
その真面目さにまた笑った。
「出来た。シズパン。」
「ふふっ、可愛い。僕?」
「ん。シズカみたいに上手くないけど。」
シズカのように上手くないし、シズカが沢山のメルロや羊や俺をモチーフにパンを成形する間に俺が作れたのはこのひとつだけ。
こんなに可愛い実物がすぐ隣に居るせいで、こんなわけない、もっと可愛い、と何度も作り直した。なのにお世辞にも可愛いとは言えない出来だ。何でもそつなくこなしてきたつもりだが、パンなんて焼いた事がなかった。
「リオ、ありがとう。」
それでもこんなに喜んでくれるなら、また、一緒にやりたい。
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