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詰めが甘い

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「ねぇねぇ、エルフさん、シズカは家で留守番中ですか?付いて来てないんですか?」

 しつこい。本当にしつこい。微笑んで、もう話しかけられないようにきつめに締めたつもりだった。…しつこい。

「どうでしょうか。」

「何で教えてくれないの?悲しいです…皆さん、エルフさん、意地悪ですよね!?」

 黙り込む他三名。だよな、関わりたくないよな。
 同じ意地悪という言葉でも、発する人が違うだけでこうも違うのか。
 シズカの、ベッドで唇を噛んで、恥ずかしそうに言う「いじわる」が良い。
 焦らした時の、早く欲しいと中々言えずに呟く「いじわる」も良い。
 糞女の言うことは聞き流して、シズカを思い浮かべながら作業に集中すれば、居心地悪そうにこちらを見つめる。早く居なくなればいいものを。

「私、さっき怪我をした騎士の治癒をしたんです…」

「そうですか。お役目お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね?」

「あの、だから、魔力が…少なくて…皆忙しそうで頼めなくて…」

 本当に気持ち悪い。良くそんなことが言える。

「王子達が居なくとも、沢山の暇そうな騎士達が居りますよ。」

「そんな…!エルフさんは、私が下級騎士と関係を持つとでも?」

 うぜぇ。何でこいつは自分が高い身分だと思うんだ?聖女としても不完全であるくせに、下級では嫌だとか…あー、うぜぇ。

「私は…エルフ様のような方なら…」

 最後まで言わせる気はなかった。そろそろか。

「っ、マイカ!危ないから馬車で待つように言ったではないか!」

 聖女がぐだぐだし始めた時点で王子に手紙を飛ばしていた。それにしてもめんどくせぇ奴ら。

「聖女は魔力がなくて辛いとの事です。王子、早く癒してあげて差し上げては?」

 可哀想に…!何故早く言わないんだ…!と言いながらにやける王子も気持ち悪い。
 騎士団長が横抱きにして、足早に天幕へと走っていく。


 ドッと疲れた。気分的に浄化すれば、ニコラス達から視線を感じる。
 肩に手を置き、数度叩いて戻るニコラス。
 御者の二人は暫く見詰め合っていたが、こちらへ片手を伸ばす。
 何かと、手を出せばコロリと何かが落とされる。

「どんぐり?」

「…………パンの、お礼。」

「半身に?」

「………メルロ。」

 喜ぶのか?そう問えば、頷かれる。
 シズカへのお礼でないのは、俺に気を使ってか。
 とりあえず礼を言って、天幕はそのままこの二人で使えるように結界を張る。

 馬車へ戻って、シズカを抱き締めた。

「リオお疲れさま。大丈夫?…ありがとう。」

「ん。シズカは大丈夫?」

「だいじょうぶ。」

「本当?」

 そう聞けば困ったように笑う。

「ちょっとだけ、リオに話しかけないで!ってマイカに言いに出たくなったよ。」

 可愛い。ヤキモチが可愛い。

「ありがと。あ、これ、御者から。」

「え?どんぐり…ぴかぴかで艶々だねぇ。んと、僕に?」

「いや、メルロに。好きらしい。」

「わぁ、すごい!メルさんにあげてくる!」

 小走りでどんぐり持って走っていくシズカは妖精にしか見えない。

「メルさん。起きてますか?どんぐり貰いました…!要りますか…?」

『ムー!!』

 たたっと籠から飛び降り、シズカの手からどんぐりを持つと、器用に咥えて籠へ戻る。
 食ってる様子はないが、ぐるぐると回っている。

「メルさん大興奮ですね?良かったですね。可愛いです。」

 だから、シズカが可愛い。
 抱き上げて、仮眠を取れるように作ったシズカの部屋へ連れ込んだ。

「わぁ…!リオ、吃驚するよ。…んんッ、あ、」

 唇を啄んで、ぎゅうと抱き締める。

「…ん、りお、どうしたの?僕は、大丈夫だよ。」

「俺が嫌なだけ。もう一度、魔法かけて欲しい。」

 汚された気がする。あと、頭と体の中を通っていった糞女の魔法が気持ち悪い。

「精神操作無効のやつ?」

「そ。魅了かけられて、気持ち悪い。シズカのおかげで全然大丈夫だったんだけど、とにかく気持ち悪い。」

「…えと、じゃあ、ここ座って?」

 ベッドしか座るところがないから、シズカを抱いたまま腰を降ろす。

「目、つぶってください…」

 急に敬語になるのがまた可愛い。
 言われた通りに目蓋を閉じれば、髪を撫でられ、シズカのしなやかな指先が頬へ鼻へ唇へと動く。

「…ん、」

 ゆっくりとした動作で唇が重なった。
 控えめに、シズカの舌が重なっているところをつつくから、僅かに口を開いて受け入れる。
 辿々しく動くその舌を幸せな気持ちで堪能していれば、じわりじわりと暖かくなる。
 きっとほわりと光を放っているんだろうが、今は瞳を閉じているからわからない。

 くちゅ、と音がして離れる気配がしたから、そっとシズカの後頭部へ手を添えて逃げれなくして、食いついた。

「ッん、ちゅ、やあっ、」

 俺の舌を誘うその可愛い小さな舌が可愛かった。
 絡めたいのにおずおずと小鳥のようにつつくだけなのが可愛かった。
 はぁ。シズカも悪い。

「キスしながら魔法かけてくるシズカが可愛すぎるのも、悪い。」

「だって…」

「だって?…待て、何でそんな泣きそうなんだ?嫌だったか?」

 涙目のシズカなんて見たくない。いや、泣いてても可愛いけど。それでも嫌だ。

「ちがう。嫌じゃないの。魅了使うの魔獣って言ってたのに…マイカだったのが怖いの。リオが魔法にかかったらって思ったら、怖いの。りお、かかっても、ちゅうしたら治るって前に言ってたから…」

「あー、悪い。ちゃんと説明しておけば良かったな。不安にさせて、すまない。」

「ううん。勝手に、不安になっちゃっただけなの。僕も、ごめんなさい。」

 シズカが謝ることは何もない。自分の詰めの甘さが嫌になる。

「…りお。」

「ん?どうした?」

「…一応、もう一回ちゅうさせて。」

「何度でもして。かかってないけど、一応何度でもして。」

 この子の可愛さにいつも死にそうになる。

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