24 / 64
微睡み
しおりを挟む1日だらだらと過ごした。
朝食後に一緒に風呂に入って、風呂から出たら二人でベッドへ寝転んで読書。
馬鹿でかい挿し絵入りの図鑑を並んで一枚一枚捲って、昼はシズカを抱き上げて厨房へ行き、後ろから抱きついていて貰って簡単なものを作った。
結論から言うと、すげぇ楽しかった。
ぐだぐだだらだらと目的なく、何となく思い付いた事をするのも、シズカと一緒ならただ幸せだった。
「やっぱ治癒するか?」
治癒魔法は中々使い手がいないのだが、数少ない使い手でも自分にかけるのは難しい。シズカが自身に使えるか確認するためにもかけてみるように言ったのだが…
「し、しない…!」
「足ぷるぷるじゃないか。もう、俺がやる。」
「しないぃ…!」
何度押し問答したか。ここまで頑ななシズカも珍しくて、だからこそ強行はしなかった。
「身体しんどいだろ?楽になるぞ。」
「だっこ、いや?」
「それはするけど。」
当たり前に、治癒して痛みがなくなっても今日は抱っこ移動だけど。むしろ明日も明後日も、未来永劫抱っこでもいいけど。いや、それがいいけど。
「答えるのはやい。」
「当たり前。」
ふふって笑い合って、俺の手のひらに頬をくっつけてくる。
はぁ、可愛い。
「辛くないか?」
「ん。あのね、ちょっとだけ痛いし、だるいけど、幸せな傷みだから…それも、嬉しい。」
「…ならいい。」
はぁ、シズカが可愛すぎて辛い。
腰を擦りながら幸せな傷みとか…
「明日まで痛かったらちゃんとしような?」
「…はぁい。」
拗ねたように尖らす唇が可愛くて可愛くて。
「誘ってんのか?」
「うぅぅ」
指でその唇を挟めば上目遣い。
「はぁ。誘ってんの?」
「…ちゅ」
俺の指へ可愛い口付け。
「手じゃなくてここにして。」
トントンと唇を叩けば、一生懸命背伸びして、俺の首に腕をかけて引き寄せる。あと数センチというところで…
「…りおがして?」
この子は俺をどうしたいんだ。
「んむッ、ふ、ぁあッ、」
深い深い口付けを送る。
「ふぁ、ちから、はいらない」
「だろうなぁ。ふは、眠そうに目ぇ溶けてる。ちょっと昼寝して、シズカの足腰復活したらメルロの散歩いこ。」
「メルさんとお散歩…たのしみ…メルさんも一緒にお昼寝しましょう?」
『ムムッ』
籠の中の回し車でカラカラと音をたてて走っていたメルロがシズカの手元へ。無意識だろうか、転移させてるし。
メルロはメルロで一瞬戸惑ったものの俺が朝やった時のように不機嫌ではなく、シズカに甘えて、頬を寄せ合って…
シズカが幸せそうにすぴすぴしてるから、許すか。
「…ん、りお、ねよ。…ぎゅ。して、」
「はいはい。」
ぎゅうと強く抱き締めて頭を撫でる。きっと俺の口元はだらしなく笑みを浮かべているだろう。
このままずっと休みならいいのに。
まぁ、暫くは休みだしシズカの持ち物も揃えたい。
街へは…行きたくねぇな。
他国だってどこだって安全とは言い切れない。
絶対はないだろうが…100%安心出来るところ…
里なら行けるか?半身以外興味ないし、結界張ってあるし、俺の様子はヤサを通して面白おかしく伝わっているだろうから、話しかけても来ないだろう。
面白おかしくというか、「あのステラリオが半身見つけてぞっこんで、話しかけでもしたら塵にする勢いだ。」という感じだろうか。
里には一般の者には使いづらいが、魔力さえあれば動く魔道具も多い。エルフの魔道具はごく稀に市場に出れば高値で取引される希少価値があるものなのだ。
そういえば、ただ魔力を溜めるだけの魔力タンクもあったな。
あれ買ってきて、シズカにたまに魔力を流して貰ってその分を買い取るのはどうだろうか。家の事だと賃金としては受け取ってくれねぇし。
魔力を買うか。買ったものはもちろん市場には出さないで、俺のシズカとの思い出ばかりの異空間へ仕舞おう。
俺が死ぬまでにどれだけシズカの魔力が溜まるのか。あ、死ぬ時にそれに包まれて死ぬとか…天国行けそ。
起きたら近々里へ転移してみないか聞いてみよう。髪紐もあったら買おう。揃いが良い。
未来が楽しみでにやけているが、じっとこちらを見つめるメルロと視線が合ったら無表情に戻る。こいつは、もう蹴らないが…じっとりと睨んでいるのか、真ん丸な瞳を細めている。
「お前攻撃する術を覚えねぇ?」
『ムーイー』
「何かないの?一発でスパッと糞の頭落とせるようなもの。」
『ムームー!』
これだけ知能があがっていれば、そのうち魔術とか使えるようにならないか?蹴らなくなったし。
「お前のあの蹴りに風魔法くっつけて一振でスパッと行くのが理想。」
俺が側にいない時…そんな状況は作りたくないが。シズカは性格的に攻撃系は絶対しないだろうし。そんな時にこいつが何かやってくれたら良いんだが。時間稼いでる間に転移出来るだろう。
この子を少しも怖がらせたくないし、少しも危険な目に合わせたくない。
縛って閉じ込めておけたらどんなに楽か。
シズカが可愛すぎて、好き過ぎて。
だからこそ縛り付ける事には踏み切れず。
「はぁ。可愛い寝顔。」
どうか、可愛い可愛いこの子の笑顔が少しも曇ることがありませんように。
寝てるシズカの頭へ腹を付けているメルロに薄い布をかけて、俺も少し眠ろうと、微睡みに溶けていった。
72
お気に入りに追加
3,396
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
【本編完結済】ヤリチンノンケをメス堕ちさせてみた
さかい 濱
BL
ヤリチンの友人は最近セックスに飽きたらしい。じゃあ僕が新しい扉(穴)を開いてあげようかな。
――と、軽い気持ちで手を出したものの……というお話。
受けはヤリチンノンケですが、女性との絡み描写は出てきません。
BLに挑戦するのが初めてなので、タグ等の不足がありましたら教えて頂けると助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる