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夜のピクニック
しおりを挟むとりあえず厨房に降りてきて、夜は屋敷の外の別邸に帰るマリアとニコラスをついでに見送る。
「あらあらお夜食?私も一緒に作ろうかしらぁ。孫とお料理が夢だったのよお。子供すらいないけど。シズカちゃん、何作るの?」
「えと、んーと…考え中で…」
『ムイムイ』
シズカに話しかけながら階段下に飾ってある花瓶から花弁を取ってメルロへ与える手際の良さに脱帽する。
「そうなの?じゃあおばあちゃんも一緒に考えちゃおうかしら!」
「いやいい。早く帰れ。」
「まぁ、ステラリオ様ったらやきもちかしら?」
「俺がいる時は俺がシズカに構いたいから、俺がいない時の昼とかにシズカに構ってやって。シズカが自分から降りてきた時限定。そんで今日は早く帰れ。」
「、あの!明日のお昼、一緒に…」
「っお誘いありがとうシズカちゃん!一緒に作りましょう…!」
途中で誘うことを不安に思ってしまったのか、語尾がどんどん小さくなるが食い気味な返答に嬉しそうにコクコクと首を縦に振る。
「シズカ、首取れる。んじゃマリアとついでにニコラスまた明日なー。」
ぐいと軽く押しやるとクスクスと笑いながら大判なスカーフを被るマリアと頷くだけのニコラス。
「それじゃあ、おやすみなさい!」
扉が閉まればシンと静まり返る。
「んじゃ、作るか。」
「うん。明日、おばあちゃんとのお料理も、嬉しい。…夜食、夜食って夕食の後の食事だよね?」
「寝るのが遅い時に食べる軽い食事って感じ?食ったことない?」
「ん。」
まぁ、この細さじゃないか。
「一緒に作ろ。具沢山のトマトスープとかどうだ?」
「…凄い!」
「あ、マシュマロも焚き火で炙って食お。」
「マシュマロ焼くの?」
「たぶんシズカは好きだと思う。」
楽しみ、と呟くシズカが野菜の下処理をしている間に籠に菓子や飲み物、敷物を詰める。
何でも魔法で出せるのに。そのまま転移させたって良いのに。敢えての籠に詰めるのはそちらの方がシズカが喜ぶかと思ったから。何故か籠やら持ちたがるし。持ってるのは可愛いし。
出来上がったスープも魔道具である保温ポットに入れ、重い籠を抱えて森へ転移した。
「うわぁ」
「綺麗だな。」
月明かりに照らされた色とりどりの花たち。
何も無いところに簡易テントを一緒に張って、荷物を中へ仕舞い、一応結界を張ってから夜光草を探す事にした。
「メルさん食いしん坊さんですね。可愛いです。」
両手に花持ってわっしゃわっしゃ食べてるところのどこが可愛いのか。シズカが両手に肉持って食べてたら可愛いが…メルロは目の前の無限の花に野生の顔に戻ってるぞ。
「メルさんメルさん。月見草、探しませんか?光る草?お花?見たいです。」
『ムイッ!』
タスタスと花畑を駆けて、立ち止まりシズカに登り、また花畑を駆ける。
時折俺の足を踏むのも忘れない。こいつ絶対オスだな。
シズカは逃げてしまうのでは、と暫く不安そうにメルロを見つめていたが、それに気づいたメルロがシズカの肩にマメに戻るようになったから、確かに知能は高いのだろう。
花畑を抜けて、木々ばかりの獣道へ入るとメルロはシズカの肩へ陣取り、ムイムイ言ってシズカに道案内。
「もしかしてメルロの言葉がわかるのか?」
真面目な声でそう聞くと、ふは!と噴き出すシズカ。
「そんなわけないよ。もう、リオったら、おかしっ、ふふっ。」
「結構真剣に聞いたんだが。歩くのに迷いがねぇ。」
「えぇ、そうかなぁ…言葉はわからないけど、何となくこっちって言われてる気がする?というか、足が動くというか…」
うーん…と悩みつつ歩くシズカ。夜光草は聖なる植物だったか…?これは聖女に土産に渡さないとな。…絶対嫌だな。聖なる植物が反応しないで焦る糞共の顔はもの凄く見たいが、関わりを持つ事は面倒だ。シズカと二人で楽しもう。
『ムイムイムイムイッ!』
「わ!メルさん大興奮…」
飛び降りて、走るそこはそこだけ開けた草原。
草と白い花が沢山。月明かりで白が浮かび上がってとても…
「綺麗…」
「だな。光ってないけど。」
緑色に光ってはいない。ただ、とても綺麗だ。
「ふふ。メルさん沢山食べてる。かわい。」
頬を膨らませてモグモグとしている姿は確かに。それ見て微笑んでいるシズカの100分の1程は可愛いだろう。…少なくとも聖女よりは可愛い。
「僕もメルさんがおうちで食べれるように、この月見草摘みますね?お花も草も両方食べれていいですね?」
そう言ってぷつりと茎を折れば途端にぽわりと緑色に光る。
「わ!りお!光った…綺麗…」
「花の光に照らされたシズカが綺麗。」
「…リオ。」
呆れたようなシズカの声に苦笑い。正直光る花とかどうでも良い。まぁ、綺麗だとは思うが、メルロの好物でしかないし。
「もー、もっとびっくりすると思ったのに。」
「シズカは可愛いのに夜光草の光で神秘的に綺麗で凄く驚いた。」
「もぅ、そうじゃなくて…ね、リオも摘んでみて?」
そう言われて足元の夜光草を摘めばシズカ程じゃないにしてもほのかに光る。
「わぁ。綺麗なリオが更に綺麗。」
そう言われて流し目でふわりと微笑めばシズカの頬が赤面する。
この見た目で損はすることはあっても得することなどあまりなかった。面倒くさい奴らに付きまとわれる原因でしかなかった。
それでも、シズカが綺麗だと言ってくれるなら、持てるものの隅々まで利用する。
持て余していた膨大な魔力はシズカと出会ってからの為のものだったと改めて理解した。
「シズカ、これ根を掘って持ち帰って育ててみないか?増えたらメルロも喜ぶ。」
「本当?やってみたい。」
「メルロに知能がついたら毎度毎度俺に蹴りを入れるなって教え込んで。」
「え、メルさん、そんなに何回もリオのこと蹴ってるの?メッだよ?」
『ムーイー』
てしてしとシズカの頭に自分の頭を擦り付けて機嫌ととっているが、シズカの"メッ"に心を撃ち抜かれた俺はどうしたらいい。
「シズカ…ちょっと俺のこともメッてしてみて。」
「………りおのへんたい。…メッだよ?」
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