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祈りとは

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「落ち着いたか?」
   『ムイムイムイッ』

 かぶせてくるメルロがうぜぇ。 

「うん、落ち着いたよ。ありがとう。」

 メルさんもありがとうございます、とメルロの首をかく。

「俺も。」

「ん?」

「俺も撫でて、ちゅーして、抱き締めて。」

「…りお」

「はは。顔真っ赤。」

 何をしたってシズカは可愛い。可愛いが…無理を言い過ぎたか。

「んじゃ、そろそろ帰るか。花はここに入れとけば枯れないから。」

 籠に時間停止の魔法をかけて手を差し出せばそのままぐいと引き寄せられる。

「リオ、よしよし。」

 背伸びして、頭を撫でて

「…ちょっとしゃがんで?…んッ」

 唇に押し付けるような不慣れなキスをして

「…ぎゅ」

 ぺたりと頬を俺の胸につけて抱き締める。

「…はぁ。1億点。むしろそれ以上。」

 あまり表情に出ないたちで良かった。
 きっとだらしなく崩れてしまうから。
 シズカの可愛さはとどまるところを知らないのが怖い。天井を突き抜けている。むしろ天井がない。












 出かける準備をして、シズカを残して部屋を出る。
 シズカは勝手に出ることはしないだろう。あるとすれば外からの接触だ。物理的な鍵をかけ、強力な結界も張る。
 俺に課せられた仕事のひとつに"祈り"というものがある。言葉通り祈るのだ。神への感謝と信仰と引き換えに、豊穣や健康や魔除けまで。神もいい加減うんざりだろう。
 まぁ俺は基本、魔獣駆除メインだからサクッと祈ってパッと現地に赴いてガッと魔法をぶっ放して駆除。神に祈り?シズカは魔法の才能がある。祈りと言うより願った事がそのまま魔法となるのだろう。神への祈りだけで全てが解決できるのなら、そいつが神だ。
 だから俺の祈りはパフォーマンス。自分でやった方が確実に速い。


 この時間は俺だけの筈なのに。
 エルフ大好きな神官たちがオロオロとしているのはあの新しい神官長が聖女を入れてしまったからか。

「エルフさんっこんにちは!この時間にお祈りなんて偶然ですね?」

 偶然も何も、ここで治癒魔法を使いまくって善人アピールだろ。面倒くせぇ女。
 やはりと言うか、なんと言うか髪にはでかいエメラルドがごろごろとついた髪飾り。

「あ、これですか?綺麗だなって見てただけなのにロイドがプレゼントしてくれて…分不相応だからって言ったんですけど…」



 ふわりと微笑んで気にせずに膝をついて祈る。
 あぁ、神様。人の国の神には今まで何もしてこなかったが、これからは真面目に祈ろう。だから…こいつらうぜぇ。消してくれ。

 雑音はどうでも良い。さて、そろそろ行くかと立ち上がれば魔法を見ろと言ってくる糞女。
 後ろの王子にもいい加減飽きてきた。本当に使えない。
 横を通り抜けようとした時にかかった声に思わず足を止めた。


「エルフ様、こんにちは。ご機嫌如何でしょうか。聖女様、私も拝見してもよろしいですか?」

 それに嬉しそうに肯定する聖女。第一王子は嫌な顔。更にライバル増えんのか?第二王子はマシだったはずだが。

「エルフ様、一緒に魔法を見せて頂きましょう?」

 周りの視線もあり、一度頷けば直ぐに数人の怪我人が運び込まれる。
 聖女は一瞬ではないにしろ、訓練でついたという下級騎士の腕の切り傷、頬の火傷を治した。

 汗ばみ、呼吸を乱す聖女へ早く魔力の供給をしなくては、と第一王子は聖女を抱き上げて運ぶ。「エルフさんっ、どうでしたか?」と声を上げていたが聞こえないフリをした。
 バタバタと祈りの間からうるさいのが消え、神に感謝しつつ、何か訳があるだろう第二王子と場所を移して、防音を施した。

「エルフ様、どう思われますか?」

「どうって何がです?」

「聖女の魔法です。」

「そうですね…まだ治癒魔法を覚えたばかりでしょうし、見た感じ外傷を治せるのがやっとでしょう。これから、出来ることが増えていくのではないですか?」

 考え込むマトモだと思われる第二王子。あんなのが兄で可哀想だな。

「あれだけ魔力の供給を受けて、あれだけ騎士たちを傷つけて、治せるのは外傷だけ。それも痕が残るものもいます。犯罪者を使った魔法の練習後は兄上たちと部屋に籠って出てこない。…エルフ様…それに…」

 なるほど。上手くなったら騎士に施すけど、そこまでは犯罪者で練習しまくってんのか。それでアレとかないな。

「私は幼い頃から聖女や女神の伝説や文献が好きです。私が読んだものには、聖女の祈りの魔法は淡く光って幻想的だとありました。あの聖女の…マイカさんの魔法は…至って普通の魔法に見えます。治癒魔法自体が珍しいので何とも言えませんが…エルフ様、一緒に召喚された彼は、魔法が使えますか?」

「あの子はかなり戸惑っていて、やっと食事や睡眠がきちんと取れるようになったばかりで。魔法は教えられる状況にありませんね…」

 馬鹿は嫌いだが、下手に頭のキレる奴も好きじゃない。空気が変わったのに気づいたのか、窺うようにこちらを見るが関係ない。

「…最後にひとつだけ、良いですか?」

「なんでしょう?」

「もし、私が王位を継いだら…エルフ様は彼と一緒にこの国に残って頂けますか?」

 この王子には、もう微笑みはいらないだろう。

「私は任期が終了次第、この国を出るでしょう。ですので、任期中に貴方が王になれば期間内はここにいます。…申し訳ありませんが御家騒動はご勝手になさってくださればよろしいかと。」

「…そうですか。」

「こちらからも最後にひとつだけよろしいですか?」

 不安げにみつめるその瞳はまだ幼い頃のようだ。

「私とあの子、どちらか一人だけ残せるとしたらどちらを残しますか?」

 聡明な彼はきっと気づいているのだろう。

「……そんなの、そんなの貴方に決まっているじゃないですか。王族として、エルフ様と何もできない只の人間では考えるまでもありません。」

「そうですか。良い答えですね?」



 空気を読めるものは好ましい。











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