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poppin' 3. 蓮多
02.
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東通りに向かって全力で走る。
何でこんなに自分が必死なのか分からない。分からないけど止まれない。文化祭で凛都先輩と木瀬のツーショットを見てから、ずっともやもやしていた。
けど、もうどうでもいい。
「…木瀬っ」
木瀬が無事でいてくれれば。
十字路で住宅街から出てきた自転車とぶつかりそうになり、大通りを横切ってクラクションを鳴らされ、信号が待ちきれなくて歩道橋を駆け上がった。
やっと東通りに辿り着くと、木瀬のバイト現場の夜間灯が目に入った。呼吸を整える間もなく、諍う声が聞こえてきて、揉みあう黒い人影が見えた。
…木瀬っ
頭に血が上り、何も考えられずに、蓮多は夢中で後ろから蹴りかかった。
「木瀬に何すんだよっ‼」
蓮多に蹴り飛ばされた黒いフードはもんどりうって前のめりに道路に倒れ、その向こうで胸倉を掴まれていた木瀬と思われる人物が勢い余って尻もちをつく。
「木瀬、木瀬っ、…無事かっ!?」
尻もちをついた木瀬の両腕を掴んで引き起こすと、…
「ご、ご、ごめんなさい―――っ」
木瀬には似ても似つかないニキビ面の少年に怯えた目で見つめ返された。
「…誰?」
「…え?」
数秒見つめ合った後、少年の腕を離して地面に倒れた黒フードに目をやると、
「…痛い、痛いよ~~~~~っ」
額を地面に擦り付けたまま号泣している。
よく見ると、2人とも若干着崩してはいるものの中学生らしき制服姿で、更に3人ほど怯えた表情で寄り添いながら蓮多をガン見している仲間たちもいる。
どうやら子どもの喧嘩に飛び入りしてしまったようだ。
やばい、詰んだ。
「あー、いや、悪い。ごめんな。ちょっとした誤解で、…」
地面に這いつくばったまま大泣きしている中学生に謝りながら腕を貸し、起こしていると、
「…蓮多? どうした⁉」
後ろから息せき切った声に呼び止められた。
反射的に振り返って、ばっちり目が合う。
木瀬だった。
元気で、ピンピンして、交通整理の作業着姿で、手には誘導灯を握りしめたまま、呆気にとられたように蓮多を見ている。
木瀬が無傷でいることが分かって安堵した瞬間、自分の痴態が浮かび上がる。勝手に木瀬を心配して、無関係な中学生に蹴り掛かり、無駄に騒ぎを大きくしてしまった。こんなカッコ悪いことあるか?
「…別に。お前には、関係な、…」
木瀬から顔を背けると、
「昴、どうしたんだよ、急に飛び出して」
新たな声が聞こえて、このところ蓮多を悩ませ続けている張本人、春日井凛都先輩が現れた。
何で一緒にいるんだよ。
瞬時にもやもやが甦り、同時にこいつにだけは見られたくなかったという敗北感に苛まれた。
何でこんなに自分が必死なのか分からない。分からないけど止まれない。文化祭で凛都先輩と木瀬のツーショットを見てから、ずっともやもやしていた。
けど、もうどうでもいい。
「…木瀬っ」
木瀬が無事でいてくれれば。
十字路で住宅街から出てきた自転車とぶつかりそうになり、大通りを横切ってクラクションを鳴らされ、信号が待ちきれなくて歩道橋を駆け上がった。
やっと東通りに辿り着くと、木瀬のバイト現場の夜間灯が目に入った。呼吸を整える間もなく、諍う声が聞こえてきて、揉みあう黒い人影が見えた。
…木瀬っ
頭に血が上り、何も考えられずに、蓮多は夢中で後ろから蹴りかかった。
「木瀬に何すんだよっ‼」
蓮多に蹴り飛ばされた黒いフードはもんどりうって前のめりに道路に倒れ、その向こうで胸倉を掴まれていた木瀬と思われる人物が勢い余って尻もちをつく。
「木瀬、木瀬っ、…無事かっ!?」
尻もちをついた木瀬の両腕を掴んで引き起こすと、…
「ご、ご、ごめんなさい―――っ」
木瀬には似ても似つかないニキビ面の少年に怯えた目で見つめ返された。
「…誰?」
「…え?」
数秒見つめ合った後、少年の腕を離して地面に倒れた黒フードに目をやると、
「…痛い、痛いよ~~~~~っ」
額を地面に擦り付けたまま号泣している。
よく見ると、2人とも若干着崩してはいるものの中学生らしき制服姿で、更に3人ほど怯えた表情で寄り添いながら蓮多をガン見している仲間たちもいる。
どうやら子どもの喧嘩に飛び入りしてしまったようだ。
やばい、詰んだ。
「あー、いや、悪い。ごめんな。ちょっとした誤解で、…」
地面に這いつくばったまま大泣きしている中学生に謝りながら腕を貸し、起こしていると、
「…蓮多? どうした⁉」
後ろから息せき切った声に呼び止められた。
反射的に振り返って、ばっちり目が合う。
木瀬だった。
元気で、ピンピンして、交通整理の作業着姿で、手には誘導灯を握りしめたまま、呆気にとられたように蓮多を見ている。
木瀬が無傷でいることが分かって安堵した瞬間、自分の痴態が浮かび上がる。勝手に木瀬を心配して、無関係な中学生に蹴り掛かり、無駄に騒ぎを大きくしてしまった。こんなカッコ悪いことあるか?
「…別に。お前には、関係な、…」
木瀬から顔を背けると、
「昴、どうしたんだよ、急に飛び出して」
新たな声が聞こえて、このところ蓮多を悩ませ続けている張本人、春日井凛都先輩が現れた。
何で一緒にいるんだよ。
瞬時にもやもやが甦り、同時にこいつにだけは見られたくなかったという敗北感に苛まれた。
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