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poppin' 1 蓮多

04.

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木瀬がなぜそんなにもバイト三昧なのかは、観察行為1週間目にして判明した。

「おかえり、昴。あら、お友だち?」
「親友の星丸蓮多ですっ」
「…ただのストーカー」

木瀬の交通誘導警備員のアルバイトが終わるのを待ち、コンビニで買ったアイスバーを1つ渡して、互いに咥えながら歩いて帰ると、木瀬のアパートから顔をのぞかせた母親らしき女性に家に招き入れられた。

「今夜は鍋なの。暑いのにごめんなさいね」
「…いや、こいつにやる必要ないから」

痩せて小柄で吹けば飛んでしまいそうな木瀬の母親は、蓮多を強引に食卓に着かせた。木瀬のアパートは1Kで、玄関に直結しているキッチンにはテーブルがなく、奥の部屋に置かれた折りたたみ式の簡易テーブルで真夏の鍋をつつくことになった。

「うお、この白菜めっちゃ味染みてんな」
「たくさん食べてね」
「いいから、母さんはもう休んでろよ」
「嫌! せっかく昴がお友だち連れて来てくれたんだもの」

木瀬家の鍋は、出汁のきいた野菜鍋で、もやしの割合が高く白菜の甘さが際立っていた。

木瀬は友だちを家に連れてくることがないらしく、母親は終始嬉しそうに木瀬の学校での様子を蓮多に聞いた。いけ好かない1位ヤロウです、というのを遠回しに、勉強、スポーツ、部活、委員会、何でも完璧にこなし女子にも人気です、と言うと、母親は目を細めて何度も頷いた。それがあんまり感じ入っているように見えたので、つい、

「木瀬には、いい刺激をたくさんもらってます」

余計な一言まで付け加えてしまった。

「蓮多くん、また来てね。絶対来てね!」

木瀬の母親に両手で手を掴まれて、何度も何度も念を押された。母親の手は折れそうに細く骨と脈が浮いていた。「はい」としっかりその手を握り返した。

が。

「…もう来るなよ」

母親に強制的に送りに出された木瀬と並んで歩く夜道。静かな住宅街を何となく押し黙ったまま歩いていると、街灯の光が届かない暗がりで、後ろから木瀬が呟いた。

切って捨てるような言い方にムッとして振り向いた蓮多に、

「分かっただろ? 俺はお前とは住む世界が違う。お前と遊んでるほど暇じゃないんだよ」

余り感情の起伏を表さない木瀬が、ぞっとするほど暗い声で言い放った。そのまま木瀬は背中を向けて、

「一人で帰れ」

蓮多に何も言う隙を与えず、大股で歩き去ってしまった。

待てよ、木瀬。俺はそんなつもりじゃ、…

木瀬を追いかけたかったのに、蓮多の足は動かなかった。

そうだ。俺はあいつを負かしたかったんだ。それ以外、どんなつもりがあるって言うんだ?
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