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2章.なりそこねた少女は水龍王に愛でられる

03.舞踏会

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水の国では月に一度、龍宮で舞踏会が開かれる。
誰もが自由に集い、その月の色彩、匂い、温度を感じながら、季節を楽しむ。思い思いの装いで集まり、食の恵みに感謝して旬の料理を味わい、季節の趣ある演奏に耳を傾け、共に歌い、踊り、語らう。

「リーネ、このクリーム味見してみて」
「うん、美味しい」

「リーネ、この飾り付けるの手伝って」
「任せて」

「リーネ、ここの副旋律歌ってみてくれないか」
「るる、るるる~~~」

そのため、城に住むものは舞踏会の準備を総出で行う。
育てた植物で工夫を凝らした料理を作り、着せ替えを楽しめるよう衣装を用意し、共に歌い踊れるよう楽曲を選んで練習する。リヴァイアサンの力をもってすれば全てが一瞬で賄えるのだが、皆それぞれに手仕事で作り上げることを楽しんだ。調理、裁縫、栽培、音楽、洗濯、装飾、…一通り何でも出来るリーネは重宝がられ、忙しく動き回ることになる。

「リーネってばとっても器用ね」
「地上でも働き者だったのだろうな」

地上での記憶はないが、もしもそうならそこでの生活に感謝していた。水の国で暮らす者は皆、リーネが手掛けたものを喜んでくれる。リーネの歌声を愛で、ハーモニーを楽しんでくれる。だからリーネもとても楽しい。舞踏会は準備も片付けも全てが楽しい。思えば、水の国での生活は毎日がとても楽しい。労働は喜びで、生産は恵みで、分け合うたびに豊かになる。目覚めは一日の始まりにワクワクし、眠りはリヴァイアサンと共にあることを感じて幸せになる。

「リーネ、見て見て。このドレス、素敵でしょう」
「私は姉様とティアードに挑戦したの」
「このネックレス、兄様がガラスで細工してくれたのよ」

「わぁ、すごく綺麗」

陽が落ちて舞踏会が始まると、王宮は人で溢れ、一気に賑やかになる。老若男女、どの種族もこの日ばかりは眠らずに一晩中踊り明かす。リーネも共に歌い、飲み、笑った。

「まあ、リヴ様が躍られてるわ」
「なんて優雅で美しい」「あのように楽し気な王は妃を娶ってからだな」

リヴにエスコートされて見よう見まねでダンスを踊り、リヴに連れられて花嫁として多くの来客と語らった。
水の国に住むものは異端のリーネを驚くほどあっさりと受け入れた。リヴァイアサンが大事にするものは誰もが大事にする。地上で暮らしていた人間であれ、水中で生きるものと違いがあれ、リヴァイアサンが決めたことは絶対だ。唯一無二の水龍王に選ばれた花嫁として、皆リーネを敬い祝福した。

「…リヴ、も、もう、…っ」
「小さなお前が私を受け入れ、喜びに喘ぐ姿は毎夜繰り返しても一向に飽きぬな」

リヴァイアサンは夜ごとリーネと睦み合う。それが舞踏会の夜であっても。
リーネが水の国で生きていくために必要だからなのかと思っていたが、そうでもないらしい。

「まだ足りぬ。もっとお前を感じたい」

朝までずっと繋がったままで、睡眠は快感の狭間にある。リヴに抱かれて、溶けるほどに幸せで涙が出る。リヴは触れる全てが心地いい。視線も匂いも肌触りも。絡まり合う舌も奥深くまで注ぎ込まれる熱も。

しかし、夢のような至福の時を過ごすリーネの元に、予期せぬ闖入ちんにゅう者が現れた。
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