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6章.回道プレイスホーム
03.
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「うまに、うまいな、うまにだけに」
…どうしよう。侑さんが壊れた。
白菜のうま煮を副菜に、ご飯、お味噌汁、根菜と油揚げの炒め煮、トマトチキンソテー、…と夕ご飯が出来上がり、侑さんと一緒に頂いているわけですが、どうにも侑さんがおかしい。
「…あの、侑さん」
「ん?」
邪気のない少年のような瞳に見つめ返されて、そこに映し出された自分にひるむ。戸惑っているふりで傷つけている。否応なく自分のダメさ加減が浮き彫りにされる。私は侑さんを傷つけている。侑さんの優しさに甘えるだけ甘えて、何も返せてない。私がちゃんとしていないから侑さんがこんなことに、…
情けなさに唇を噛みしめると、急に侑さんが爆笑した。
あああ。やっぱり壊れてる―――っ
どうしよう。どうしたら。
「侑さん? あの、あの、大丈夫ですか⁉」
オロオロしながら侑さんの肩に手を伸ばすと、くっくっと笑いをかみ殺しながら侑さんが私の頭を撫でた。
「…お前は」
そのまま頭を引き寄せられて、斜め隣りに座る侑さんの腕の中に抱え込まれた。
「本当に可愛いな」
なっ⁉
反射的に顔が赤くなる、けど。急激ストレートな言葉に照れるよりも先に不安が募った。
なんでこんな展開? やっぱ壊れた? 鬼のオニヤンマが甘い!
狼狽するまま侑さんの腕の中でひたすら瞬きを繰り返していたら、目じりに笑みを残したまま、侑さんがすごく優しい顔で私をのぞき込んだ。
「…ずっとここにいてよ」
優しくて、優し過ぎて、息が止まる。
胸の奥がつかまれて苦しくて切なくて痛い。
そんな顔で見られたら、どうしていいか分からなくなる。
侑さんは私を救ってくれた。私は侑さんに何が出来る?
「そのままでいいから」
そのままで、…いいわけない。
ななせが好き。どうしても。
ななせに会ったらななせしか見えなくなってしまう。
でも、だからこそ、ななせといるのは、怖い。
侑さんの優しさが、思いが、痛いくらい伝わってきて、切なく沁み込んで、有難くて、いたたまれなくて、自分が不甲斐なくて、途方に暮れていたら、
「侑⁉ 侑、いるんでしょう? 入りますよっ」
マンションの玄関口がにわかに騒がしくなった。
唐突な登場。張りのあり過ぎる声。強引な突入。
侑さんの部屋に入る権利を持った数少ない女性。
誰が来たのか瞬時に理解した侑さんと顔を見合わせる。
「…あーあ」
侑さんは私の頭を一度ぎゅうっと抱きしめると静かに席を立った。
「大変、大変よっ‼ 侑、今すぐつぼみさんと結婚なさいっ」
嵐のようにリビングに飛び込んできたのは言わずと知れた御堂母さん。
やっぱりバシッと着物を着こなしているけれど、若干髪が乱れていて焦りの濃さをうかがわせる。
「…母さん。その話は…」
「先手必勝‼ あの人、こっそり、隠し子に会うつもりよ。黙ってみてるわけにいかないわっ‼ つぼみさんは妊娠してるんだから結婚しなきゃダメよ‼」
「は?」
えええ、いつの間に妊娠した⁉
私の姿を認めた母さんは私を指さすと、うんうん頷きながら、本人も知らなかった衝撃の事実を勝手に捏造した。
…どうしよう。侑さんが壊れた。
白菜のうま煮を副菜に、ご飯、お味噌汁、根菜と油揚げの炒め煮、トマトチキンソテー、…と夕ご飯が出来上がり、侑さんと一緒に頂いているわけですが、どうにも侑さんがおかしい。
「…あの、侑さん」
「ん?」
邪気のない少年のような瞳に見つめ返されて、そこに映し出された自分にひるむ。戸惑っているふりで傷つけている。否応なく自分のダメさ加減が浮き彫りにされる。私は侑さんを傷つけている。侑さんの優しさに甘えるだけ甘えて、何も返せてない。私がちゃんとしていないから侑さんがこんなことに、…
情けなさに唇を噛みしめると、急に侑さんが爆笑した。
あああ。やっぱり壊れてる―――っ
どうしよう。どうしたら。
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オロオロしながら侑さんの肩に手を伸ばすと、くっくっと笑いをかみ殺しながら侑さんが私の頭を撫でた。
「…お前は」
そのまま頭を引き寄せられて、斜め隣りに座る侑さんの腕の中に抱え込まれた。
「本当に可愛いな」
なっ⁉
反射的に顔が赤くなる、けど。急激ストレートな言葉に照れるよりも先に不安が募った。
なんでこんな展開? やっぱ壊れた? 鬼のオニヤンマが甘い!
狼狽するまま侑さんの腕の中でひたすら瞬きを繰り返していたら、目じりに笑みを残したまま、侑さんがすごく優しい顔で私をのぞき込んだ。
「…ずっとここにいてよ」
優しくて、優し過ぎて、息が止まる。
胸の奥がつかまれて苦しくて切なくて痛い。
そんな顔で見られたら、どうしていいか分からなくなる。
侑さんは私を救ってくれた。私は侑さんに何が出来る?
「そのままでいいから」
そのままで、…いいわけない。
ななせが好き。どうしても。
ななせに会ったらななせしか見えなくなってしまう。
でも、だからこそ、ななせといるのは、怖い。
侑さんの優しさが、思いが、痛いくらい伝わってきて、切なく沁み込んで、有難くて、いたたまれなくて、自分が不甲斐なくて、途方に暮れていたら、
「侑⁉ 侑、いるんでしょう? 入りますよっ」
マンションの玄関口がにわかに騒がしくなった。
唐突な登場。張りのあり過ぎる声。強引な突入。
侑さんの部屋に入る権利を持った数少ない女性。
誰が来たのか瞬時に理解した侑さんと顔を見合わせる。
「…あーあ」
侑さんは私の頭を一度ぎゅうっと抱きしめると静かに席を立った。
「大変、大変よっ‼ 侑、今すぐつぼみさんと結婚なさいっ」
嵐のようにリビングに飛び込んできたのは言わずと知れた御堂母さん。
やっぱりバシッと着物を着こなしているけれど、若干髪が乱れていて焦りの濃さをうかがわせる。
「…母さん。その話は…」
「先手必勝‼ あの人、こっそり、隠し子に会うつもりよ。黙ってみてるわけにいかないわっ‼ つぼみさんは妊娠してるんだから結婚しなきゃダメよ‼」
「は?」
えええ、いつの間に妊娠した⁉
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