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5章.御堂コンツェルン
15.
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「それっ、リヴィも行きたいっ‼」
オリビアちゃんがハイハーイっとすらりと長い手を挙げた。
素晴らしい八頭身。爪の先に桜貝のようなクリアピンクのネイルが色づき、指先までパーフェクトに可愛らしい。完璧な女の子。女子が憧れる女の子。
「ナナのファンってことは、Galaxiesを観てくれてるってことで、リヴィのことも分かるから、いいよねっ⁉」
憧れと切なさをもってオリビアちゃんに見とれていたら、オリビアちゃんがななせに擦り寄って当然のように両腕をななせの腕に絡めた。
触らないで。
って言える権利を自ら放棄したのに。
痛い。痛い。胸の奥がキリキリ痛んで目を逸らす。
慣れるなんて出来ない。狂いそう。叫び出しそう。真っ黒な嫉妬に飲み込まれて壊れそう。
「…ダメ。Galaxiesじゃなくて俺に用があるんだと思うから」
痛みに目を逸らした私に気づいたのかどうか、ななせは素っ気なく応えると、オリビアちゃんの腕から腕を引き抜いて、キッチンに食器を片付けに立った。それだけで、泣きたいくらいほっとする。そんな自分が心底嫌になる。
「えええ―――、リヴィが行ったら喜んでくれるかもしれないじゃん。ねえ、お姉さん?」
オリビアちゃんは不満そうに頬を膨らませると、今度は私に近づいてきて、可愛く小首を傾げ、
「リヴィは絶対ナナと離れないから。もう近づかないで」
一瞬真顔になって、ななせには聞こえないように声を尖らせた。
硬い刃物のような切口でスパっと切られる。
「これ以上ナナを傷つけたら許さない」
返す言葉もなかった。
頭から冷水を浴びせられるってこういうことか。
…私なのか。
ななせを傷つけたのは、…
オリビアちゃんの可憐すぎる容貌を呆然と見つめた。
ななせのために出来ることを探して、ななせの将来を守りたくて、そのためなら何だってできると思ったけど。
あの時、ななせはなんて言った?
『… 好きだよ さよなら 』
世界一大切なななせを誰よりも傷つけたのは、…
「お前、無茶ぶり、…」
「してないよ、ねっ、つーちゃん?」
何かを察して戻ってきたらしいななせと、少し慌てたように取り繕うオリビアちゃんに同時に見つめられて、反応に困った。
…私なんだ。
私は世界で一番愚かな人間だ。
「…あ。えーと、…いったん帰ります」
多分、ちょっと、仕切り直した方がいい。
『ななせに何かしたら許さないから』
『ななせに手出したら殺してやるから』
多分、私は、一回、死んだ方がいい。
「は? …おい」
よろよろと立ち上がって出直してこようと敵前逃亡を企てた結果、ななせに捕まった。ななせの長い指が私の腕を柔らかくつかむ。
「お前が帰るとこは、ここだろ」
ななせの甘い声が、私の心を優しく握りしめた。
オリビアちゃんがハイハーイっとすらりと長い手を挙げた。
素晴らしい八頭身。爪の先に桜貝のようなクリアピンクのネイルが色づき、指先までパーフェクトに可愛らしい。完璧な女の子。女子が憧れる女の子。
「ナナのファンってことは、Galaxiesを観てくれてるってことで、リヴィのことも分かるから、いいよねっ⁉」
憧れと切なさをもってオリビアちゃんに見とれていたら、オリビアちゃんがななせに擦り寄って当然のように両腕をななせの腕に絡めた。
触らないで。
って言える権利を自ら放棄したのに。
痛い。痛い。胸の奥がキリキリ痛んで目を逸らす。
慣れるなんて出来ない。狂いそう。叫び出しそう。真っ黒な嫉妬に飲み込まれて壊れそう。
「…ダメ。Galaxiesじゃなくて俺に用があるんだと思うから」
痛みに目を逸らした私に気づいたのかどうか、ななせは素っ気なく応えると、オリビアちゃんの腕から腕を引き抜いて、キッチンに食器を片付けに立った。それだけで、泣きたいくらいほっとする。そんな自分が心底嫌になる。
「えええ―――、リヴィが行ったら喜んでくれるかもしれないじゃん。ねえ、お姉さん?」
オリビアちゃんは不満そうに頬を膨らませると、今度は私に近づいてきて、可愛く小首を傾げ、
「リヴィは絶対ナナと離れないから。もう近づかないで」
一瞬真顔になって、ななせには聞こえないように声を尖らせた。
硬い刃物のような切口でスパっと切られる。
「これ以上ナナを傷つけたら許さない」
返す言葉もなかった。
頭から冷水を浴びせられるってこういうことか。
…私なのか。
ななせを傷つけたのは、…
オリビアちゃんの可憐すぎる容貌を呆然と見つめた。
ななせのために出来ることを探して、ななせの将来を守りたくて、そのためなら何だってできると思ったけど。
あの時、ななせはなんて言った?
『… 好きだよ さよなら 』
世界一大切なななせを誰よりも傷つけたのは、…
「お前、無茶ぶり、…」
「してないよ、ねっ、つーちゃん?」
何かを察して戻ってきたらしいななせと、少し慌てたように取り繕うオリビアちゃんに同時に見つめられて、反応に困った。
…私なんだ。
私は世界で一番愚かな人間だ。
「…あ。えーと、…いったん帰ります」
多分、ちょっと、仕切り直した方がいい。
『ななせに何かしたら許さないから』
『ななせに手出したら殺してやるから』
多分、私は、一回、死んだ方がいい。
「は? …おい」
よろよろと立ち上がって出直してこようと敵前逃亡を企てた結果、ななせに捕まった。ななせの長い指が私の腕を柔らかくつかむ。
「お前が帰るとこは、ここだろ」
ななせの甘い声が、私の心を優しく握りしめた。
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