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5章.御堂コンツェルン
07.
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空が青い。
この空を恐れなく見上げられるのは、侑さんが助けてくれたから。
さっき。侑さんの大きな手が触れた私の頬に、もう火傷の痕は見えない。
裏庭は、中庭ほど色彩豊かな植栽はないけれど、高く伸びた木々が休息の木陰を作り、好奇の視線を遮ってくれる。白を基調とした植栽は、癒しの空間になっていて、患者さんはもとよりスタッフも時折休憩に訪れたりする。侑さんと並んで座ったベンチから見上げると、空から降り注ぐ柔らかな木漏れ日が穏やかに光る。
侑さんが好きとか言うから、すっかり毒気を抜かれて、大人しくベンチに座っていたら、侑さんが徐に口を開いた。
「…雨宮ななせは、俺の弟だ」
「いやいや、ななせは私の、…」
弟だし。という言葉を飲み込んだ。
とっさに意味が分からなくて、対抗意識が頭をもたげたけれど、やっぱり少し困ったような顔で笑う侑さんを見て、急速に理解が追い付いた。
え。侑さん。
ななせの、…血の繋がった本当のお兄さん、…てこと⁉
ななせは、私の父が再婚した相手の連れ子だったわけだけど、当然、ななせにも血の繋がったお父さんがいて、つまり、そのお父さんが侑さんの、…
「異母弟だな。平たく言えば、まあ、俺の父親と、母親以外の女性との間に生まれた子、と言うか」
何と言うことだ。何と言うことだ、…っ‼
衝撃のあまり言葉が出ず、頭が真っ白になる。
頭では、分かっていたけど。どこかにななせの血の繋がったお父さんがいるって。でも、全然実感なかったし、そもそもななせは私のお父さんの子どもだって思ってたから、何ていうか、もうずっと、家族で。家族、だったわけで、…
「俺も最近まで知らなかった。親父も相手の女性が身ごもっていたことを知らなかったらしい。雨宮ななせが世間に顔を出すようになってから偶然知って、密かに調べていて、それが母親にバレて、まあ、喧嘩になって、…」
困惑に固まっている私の頭の上に、侑さんが大きな手をのせた。慰めるように優しく撫でる。
「ごめんな、お前に知らせるのが良いかどうか、分からなかった。アイツも、…ななせも、知らないかもしれないから」
侑さんが申し訳なさそうに言った。
そうか。そういうことか。
『雨宮ななせに関する報告書』
あれは、自分の子ども、…侑さんからしたら自分の弟、のことを調べてた書類だったんだ。ななせは、…本当は、御堂ななせだったんだ。
この空を恐れなく見上げられるのは、侑さんが助けてくれたから。
さっき。侑さんの大きな手が触れた私の頬に、もう火傷の痕は見えない。
裏庭は、中庭ほど色彩豊かな植栽はないけれど、高く伸びた木々が休息の木陰を作り、好奇の視線を遮ってくれる。白を基調とした植栽は、癒しの空間になっていて、患者さんはもとよりスタッフも時折休憩に訪れたりする。侑さんと並んで座ったベンチから見上げると、空から降り注ぐ柔らかな木漏れ日が穏やかに光る。
侑さんが好きとか言うから、すっかり毒気を抜かれて、大人しくベンチに座っていたら、侑さんが徐に口を開いた。
「…雨宮ななせは、俺の弟だ」
「いやいや、ななせは私の、…」
弟だし。という言葉を飲み込んだ。
とっさに意味が分からなくて、対抗意識が頭をもたげたけれど、やっぱり少し困ったような顔で笑う侑さんを見て、急速に理解が追い付いた。
え。侑さん。
ななせの、…血の繋がった本当のお兄さん、…てこと⁉
ななせは、私の父が再婚した相手の連れ子だったわけだけど、当然、ななせにも血の繋がったお父さんがいて、つまり、そのお父さんが侑さんの、…
「異母弟だな。平たく言えば、まあ、俺の父親と、母親以外の女性との間に生まれた子、と言うか」
何と言うことだ。何と言うことだ、…っ‼
衝撃のあまり言葉が出ず、頭が真っ白になる。
頭では、分かっていたけど。どこかにななせの血の繋がったお父さんがいるって。でも、全然実感なかったし、そもそもななせは私のお父さんの子どもだって思ってたから、何ていうか、もうずっと、家族で。家族、だったわけで、…
「俺も最近まで知らなかった。親父も相手の女性が身ごもっていたことを知らなかったらしい。雨宮ななせが世間に顔を出すようになってから偶然知って、密かに調べていて、それが母親にバレて、まあ、喧嘩になって、…」
困惑に固まっている私の頭の上に、侑さんが大きな手をのせた。慰めるように優しく撫でる。
「ごめんな、お前に知らせるのが良いかどうか、分からなかった。アイツも、…ななせも、知らないかもしれないから」
侑さんが申し訳なさそうに言った。
そうか。そういうことか。
『雨宮ななせに関する報告書』
あれは、自分の子ども、…侑さんからしたら自分の弟、のことを調べてた書類だったんだ。ななせは、…本当は、御堂ななせだったんだ。
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