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5章.御堂コンツェルン

06.

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「ななせに何かしたら許さないからっ‼」

引け寄せられて抱え込まれた侑さんの広い胸の中で暴れる。

「…分かってる」

めちゃめちゃに腕を振り回して拳を叩きつけるけど、びくともしない。
硬い胸板。力強い腕。

「ななせに手を出したら殺してやるから、…っっ」

悔しい。悔しい。
広くて安心する胸も、支えてくれた優しい腕も、全部嘘だったくせに。叩いても暴れても揺るがない。全然ダメージを与えられない自分が悔しい。何の力もない自分が悔しい。簡単に信用して心を預けてしまった自分が悔しくて、涙が込み上げてきた。

「分かってるから、…」

私の両腕をつかんで動きを封じると、侑さんが困ったように私を見た。

「泣くな、…」

お前のせいじゃ―――――っっ

という、八つ当たりにも似た感情が込み上げる。

掴まれた手の力が強くて動けない。ぬぐえない涙が勝手に溢れる。
嘘つき。嘘つき。めちゃくちゃに罵って引っぱたいてやりたいのに、そんな困り果てた犬みたいな顔されてもこっちが困る。

「…つぼみ。聞け」
「やだっ」

反射的に首を横に降ったら、零れた涙が地面に落ちた。
それを見て侑さんは痛そうに顔を歪めると、掴んだ両手に力を込めたまま、

ふいに。
唇に唇を押し当てた。

な、…

何すんだ。という文句は、至近距離で囁かれた侑さんの言葉に飲み込まれた。

「…お前が好きだ」

切羽詰まったような低い声が、心臓に落ちる。
その場所だけ、時間が止まった。
半径1メートル。世界から切り取られた2人ぼっちの地表。

瞬いた目から零れ落ちた涙が、時間を再開させた。

「…う、そつき」

声が出ない。唇の形だけが言葉をかたどる。
力が抜けて、降ろした腕から侑さんの手が離れた。

「嘘じゃない」

侑さんの大きな手が頬に触れて、親指の腹が優しく涙をぬぐう。

「…こんなはずじゃなかったんだけどな」

侑さんが、自嘲気味に片頬を上げる。
いつもの、少し皮肉気な、見慣れた侑さんの笑い方。

「最初は、…雨宮ななせが大事にしているオンナだから近づいた。でも、…」

困ったように髪の中に手を差し入れて、ぐちゃぐちゃかき乱す。

「お前があんまり一生懸命アイツだけを想ってるから、だんだん悔しくなって、羨ましくなって。不器用に傷つけられてんの見てたら、守ってやりたくなってきて」

私の頬に触れた侑さんの長い指の背が、そっと涙の跡を撫でた。

「…もう。そんなに泣くな」

砂漠に落ちた一粒の雨のように、

「お前が好きだよ、つぼみ。お前はアイツじゃなきゃダメだって分かってる。それでいいから、アイツの代わりに俺をお前のそばにいさせてくれ」

侑さんの声が乾いた心に一滴沁み込む。
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