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5章.御堂コンツェルン

02.

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大型犬に鼻の頭を舐められたような気配を感じて、

「ぶえっくしょ―――いっっ」

盛大にくしゃみをしながら目を開けると、

「…起きたか」

嫌そうに顔をしかめた鬼のオニヤンマと目が合った。

「お前の朝はいつもくしゃみから始まるのか」

長い毛先がふわふわ気持ちいい大型犬と戯れている夢の余韻に浸りながらむずむずする鼻を持て余していたら、ティッシュペーパーで強引に鼻を拭かれた。体温が離れてゆく。肌寒い。すごく温かいワンコに包まれていたのに、…

まだ頭が働かない。ぼんやり視線を動かしながら、とりあえず、ふわふわのお布団に潜りこむ。絶妙な肌触りに心地よく包まれて再度夢の世界に誘われる。抜群の寝心地に五感が満足する。

ふわふわ。薄くて柔らかいのに温かくてクッション性に優れている。全身が安らぎに満ちていく。何度寝ても新鮮な感動。高級羽毛布団最高。

「…すき」

寝ぼけながら布団に頬ずりすると、いきなり頭をはたかれて急激に目が覚めたた。

「な、…何するんすかっ⁉」

頭をさすりながら恨みがましく隣を見ると、半裸のオニヤンマに若干赤みがかかっていた。

オニヤンマが謎の赤とんぼ化??

困惑を隠し切れずに瞬くとその大きな手で両目を塞がれた。

「お前は、…普通に起きろ。心臓に悪い」

えー、…なんか。何だし。
不本意な気がしないでもなく、隠された長い指の間からこっそりのぞくと、鍛え上げられた背筋が見えて慌てて目を瞑った。

うん、確かに心臓に悪い。

ていうか、…私はまた半裸のオニヤンマと一つベッドで朝を迎えたってことか⁉

衝撃の事実に思い当たって、思わずお布団を引き寄せて鼻まで隠れる。

ななせに何と申し開きを、…

…する、必要はないんだった。
そうだ。私は、結婚するかどうかは置いておくけど、とりあえず退院して、侑さんのマンションに引き取ってもらったんだった。

「シャワー使うか? 朝食先にする?」

シャツを羽織った侑さんがベッドの端に座って斜めに振り返った。

『どこにも行かないから。ここで待ってな』

なんで。
ななせに重なるんだろう。ななせを思い出すんだろう。

唇を噛みしめて思いきり頭を振ったら、

「朝ごはんは今日の幸せの素だぞ?」

侑さんに鼻を摘ままれて、額に手のひらを押し当てられた。

手のひらが熱くて。鼻先をかすめた唇が優しくて。
鼻の奥がツンとしたから焦って思わず、

「…健康オタク」

可愛くない言葉が口を突いて出てしまった。

かくいう私は、食事は健康の源だと思っているし、食を愛しているので、『肉は元気が出る』とか『朝ごはんは幸せの素』とかいう侑さんの価値観は私に寄っている。というか被っている。わけなんだけど。

「…気が合うな?」

侑さんが私の額にコツンと額をぶつけて、絶妙にセクシーな笑みを見せるから、自ずと顔が熱くなる。

どうしてこの人には何もかもバレてるんだろう。
私は侑さんのこと、多分全然わかってないのに。
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