【完結】さんかく両想い―初めての両想い。始まりは、終わりの始まり。なんかじゃないよね？

1章．迷走トライアングル

12．

「つぼみさん、そこにお座りなさい」

和風美人な母さんが、キッチンから出来立てのお味噌汁を持ってきてくれたので、帰るに帰れず、針山という名のダイニングテーブルに腰を下ろす。前に母さん、隣にオニヤンマ。完全に退路を断たれた。

「やっぱり朝はお味噌汁よね」

綺麗なたたずまいでお味噌汁を啜る美人は、オニヤンマの正式(？)なお母さまで、本日「大っっっ切なお見合い」（母さん談）があったのにもかかわらず、オニヤンマがすっぽかしたため、様子を見にやってきたらしい。さっきまで謝罪対応に追われていたようだけど、なぜか割と機嫌が良い。

「…ですよねー、…」

シャワーをお借りして身支度を整えると、二日酔いはだいぶマシになったけれど、私の服がまだ乾いていないというので、不本意ながらオニヤンマのスウェットを借りて着ている。大きすぎて引きずってたら、オニヤンマが鼻で笑いながら折りたたんでくれたんだけど、どうにもお母さまからの生温かい視線が突き刺さり、何の羞恥プレイだろうという気がしてくる。

お母さまは息子がオニヤンマであるにもかかわらず、「心に決めた恋人」という嘘八百な設定を素直に信じたものらしい。

さすがに気まずいし、まだ頭は痛いし、出来るものなら即帰りたい。

けど。

お母さまがいなくなった隙に、オニヤンマに猛抗議してみたら、

「お前は恩を仇で返すのか？　黙って俺に従ってろ」

オニヤンマがオニヤンマたるところの殺人鬼丸出しの視線を向けられ、あっという間に捻りつぶされた。

路地裏で強請られる社会的弱者の気持ちが分かったような気がする。あれは裏稼業でスナイパーをしている人の目だった。生きてここから出たいなら逆らわない方がいい。

裏稼業スナイパーとそのお母上に挟まれ、逃げ道を失って、やむなくお味噌汁に手を伸ばすと、ふわりと昆布のだしが香った。頂いてみると、白味噌のまろやかさとシジミの旨味が身体の奥まで沁み渡る。

「…美味しい」

素直な感想が口から漏れた。
お腹の中が温まる。優しい味がする。

二日酔いのお腹にも優しいシジミのお味噌汁を余すところなく飲み干すと、お母さまと目が合った。

「…よろしい」

あ。つい我を忘れてがっついてしまった。

「合格ですっ‼」

けど、なんか味噌汁試験に合格した。