43 / 46
番外編②【星雨】
01.
しおりを挟む
洞窟の居城の果てには、白き人狼しかたどり着けないと言われている地下迷宮がある。地下水が湧き出す迷宮の湖に、青く透明な鉱石が出来る。かの昔、空から落ちた星が湖の底に溜まり、鉱石となったと言われている。
ロウはここ数日その地下迷路に籠り、鉱石を掘って過ごしている。
…多分。
「え、ボスがいなくなる?」
「ユイを置いて? そりゃ一つしか考えられないな」
ロウは公務や視察で留守にする時以外、ほぼ四六時中ユイとくっついている。寝ても覚めても。食事もお風呂も。そのロウが、ここ数日姿を消すことがある。大抵真夜中。散々陸み合ってユイが眠りに落ちている間。そして明け方、何事もなかったかのように戻ってくると、柔らかくて心地よい純白の毛でユイを包む。
「ロウ、…どこ、…?」
「うん。ここにいる。まだ寝ていろ」
どこにいるか問いかけても、大抵甘い舌に翻弄されてうやむやになる。戻ってきたロウからは、澄んだ星屑のような匂いがする。
「地下迷宮だろうな。代々白き人狼は、時が来ると迷宮に籠ると言われている」
「婚姻の儀式の一貫らしいぞ」
ロウの不在について、側近であるヴィルとシュンに尋ねると、そんな答えが返ってきた。彼らはいついかなる時でもボスと共にあることを信条としているので、ロウの挙動については誰よりも詳しい。
「婚姻の儀式、…?」
「お前のことをボス唯一の番にしただろ」
「それを内外に示す必要があるんだよ」
…なるほど。
灰色人狼のボスには課せられた使命が多い。
ロウは群れの最高責任者で、人狼にとって唯一無二の特別な存在である。人間のユイには計り知れないが、白き人狼として生まれた時から多くの責務を背負っている。
ロウの任務について、口出ししようとは思わない。ただ、ユイにもできることがあるといいなとは思う。そして、このところ気になっていることがある。
真夜中に戻ってきた時のロウは、神経を張り詰めさせているような気がする。ユイを求める手や舌が性急で、いつもより激しく、あらゆる個所を甘噛みされる。
「ユイ、…――――」
耳たぶ。うなじ。胸の頂き。足指、太もも、敏感な芯。
勿論全く痛くはなく、むしろ甘く官能的な刺激に満たされる。
人狼の牙や爪は人間に対して催淫効果がある。彼らは人間を襲うが、凌辱の瞬間、人間はただひたすらに極上のエクスタシーを感じている。白き人狼たるロウの牙や爪は特に強力な媚薬となる。特有の鎮静浄化作用もあるため、一切の苦痛を感じずに狂おしいほどの快楽だけを注ぎ込まれる。
何かロウに切羽詰まった事情でもあるのだろうか。
ロウはいつも一人で解決してしまうが、出来ることならユイも役に立ちたい。
明け方の営みの後、ロウは人狼が黒狼と揉めていると言う辺境の地へ赴いた。心地よい気だるさに包まれたまま目覚めたユイは、湯あみし、着替えて、髪を結わえる。ロウの噛み痕はほとんど残っていない。ロウの唾液が人間の細胞を回復させるから。それでも五感に優れた人狼たちにはユイに刻まれたロウの跡がどんなに色濃く残っているかよく分かるらしい。
「よろしいですわね、ユイ様は」
「ロウ様の寵愛を一身に受けて」
今やユイのお世話係となったカルナとナツナが朝食を運んできた。番候補としての任を果たせなかったという侘しさ。人間かつ妹でありながらロウに選ばれたユイに対する嫉妬心。彼女たちの胸中は複雑だろうが、ユイを凍湖に沈めてしまったことを深く反省し、今では誠意を持ってユイに接してくれる。
ロウはここ数日その地下迷路に籠り、鉱石を掘って過ごしている。
…多分。
「え、ボスがいなくなる?」
「ユイを置いて? そりゃ一つしか考えられないな」
ロウは公務や視察で留守にする時以外、ほぼ四六時中ユイとくっついている。寝ても覚めても。食事もお風呂も。そのロウが、ここ数日姿を消すことがある。大抵真夜中。散々陸み合ってユイが眠りに落ちている間。そして明け方、何事もなかったかのように戻ってくると、柔らかくて心地よい純白の毛でユイを包む。
「ロウ、…どこ、…?」
「うん。ここにいる。まだ寝ていろ」
どこにいるか問いかけても、大抵甘い舌に翻弄されてうやむやになる。戻ってきたロウからは、澄んだ星屑のような匂いがする。
「地下迷宮だろうな。代々白き人狼は、時が来ると迷宮に籠ると言われている」
「婚姻の儀式の一貫らしいぞ」
ロウの不在について、側近であるヴィルとシュンに尋ねると、そんな答えが返ってきた。彼らはいついかなる時でもボスと共にあることを信条としているので、ロウの挙動については誰よりも詳しい。
「婚姻の儀式、…?」
「お前のことをボス唯一の番にしただろ」
「それを内外に示す必要があるんだよ」
…なるほど。
灰色人狼のボスには課せられた使命が多い。
ロウは群れの最高責任者で、人狼にとって唯一無二の特別な存在である。人間のユイには計り知れないが、白き人狼として生まれた時から多くの責務を背負っている。
ロウの任務について、口出ししようとは思わない。ただ、ユイにもできることがあるといいなとは思う。そして、このところ気になっていることがある。
真夜中に戻ってきた時のロウは、神経を張り詰めさせているような気がする。ユイを求める手や舌が性急で、いつもより激しく、あらゆる個所を甘噛みされる。
「ユイ、…――――」
耳たぶ。うなじ。胸の頂き。足指、太もも、敏感な芯。
勿論全く痛くはなく、むしろ甘く官能的な刺激に満たされる。
人狼の牙や爪は人間に対して催淫効果がある。彼らは人間を襲うが、凌辱の瞬間、人間はただひたすらに極上のエクスタシーを感じている。白き人狼たるロウの牙や爪は特に強力な媚薬となる。特有の鎮静浄化作用もあるため、一切の苦痛を感じずに狂おしいほどの快楽だけを注ぎ込まれる。
何かロウに切羽詰まった事情でもあるのだろうか。
ロウはいつも一人で解決してしまうが、出来ることならユイも役に立ちたい。
明け方の営みの後、ロウは人狼が黒狼と揉めていると言う辺境の地へ赴いた。心地よい気だるさに包まれたまま目覚めたユイは、湯あみし、着替えて、髪を結わえる。ロウの噛み痕はほとんど残っていない。ロウの唾液が人間の細胞を回復させるから。それでも五感に優れた人狼たちにはユイに刻まれたロウの跡がどんなに色濃く残っているかよく分かるらしい。
「よろしいですわね、ユイ様は」
「ロウ様の寵愛を一身に受けて」
今やユイのお世話係となったカルナとナツナが朝食を運んできた。番候補としての任を果たせなかったという侘しさ。人間かつ妹でありながらロウに選ばれたユイに対する嫉妬心。彼女たちの胸中は複雑だろうが、ユイを凍湖に沈めてしまったことを深く反省し、今では誠意を持ってユイに接してくれる。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる