上 下
56 / 78
Ⅶ章.青色のスキル【信念】

01.信念の対立  風VS土

しおりを挟む
記憶の断片を映像で見て、ルオなりにアクアの起源について推測していることがある。

アクアは、海洋研究所が人間の水中生活を可能にするために使用した実験体のクラゲだったのではないか。研究開発のために大量のクラゲが使われ、用済みになった死骸は他の不要ごみとともに海に捨てられた。そのやるせなさと悲しみ、恨みが怨念となりごみとクラゲが同化してアクア王が誕生したのではないか。そして、その開発には海老沼さんはもとより、おじいも関わっていたのではないか。

もう一つ、龍神の双子について、ルオ自身もよく分かっていない。
双子は争いの元だから後から生まれたほうを消去するという禁忌についても納得いかないし、密かに人間界に逃がしたのに、面倒ごとが起こったら急に何とかしろと言われても困る。

そりゃあ、困っているドランを見て助けたいと思ったけど。
もしアクアを作ったのが海老沼さんたちなら、アクア化されても自業自得ともいえる、……

それに。

「アクア王が他の生物を奴隷にしていないって本当ですか。みんなを負の感情から解放しているって」

苦しいこと、悲しいこと、嫌なこと、妬ましいこと、ドロドロした感情がなくなったら、犯罪や争いも生まれないかもしれない。

「もちろん本当よ。そなたも龍神ドランに良いように使われただけ。力を失ったドランが龍剣を取り戻そうとそなたを呼びに行ったにすぎぬ。誰も困ってなどおらぬのよ。みな、アクア様の元で幸せに暮らしておる」

ビュウの高笑いが困惑するルオと黙ったままのチイに響いた。うず高く積まれた土の中に笑い声がこだまする。

「そなた、思うたことはないのか。自分だけが苦労して、ドランは高みの見物。ようやく龍剣の力を手に入れてもドランが龍剣を取り戻せばそなたはお払い箱。龍宮に王は二人もいらぬからのう」

もしかして、オレは全くの無駄足を踏まされたのか。

「チューリー、……」

混乱を極めるルオを慰めるようにチューリッピが鳴く。

「ほほほ。そのネズミが何よりの証拠。そやつこそ、あくどい人間が放ったスパイなのよ」
「スパイ!?」

ハツカネズミのチューリッピと顔を見合わせる。誰が誰のスパイだって?

チューリッピはおじいがくれた琥珀のペンダントの化身なのではないかとルオは密かに思っている。

つまり、おじいのスパイってこと? 
出立前、おじいの骨董屋に盗聴器が仕掛けられていたことを思い出した。
黒く潰れた虫のようなものをおじいは冷徹な顔で見ていた。

「お姉さま。ルオを混乱させるのはおやめになって。真相は自分の頭で考えるもの。真実は自分の目で見抜くもの」

動揺して液化した身体がぽつりぽつりと途切れ途切れになり始めたルオを見て、土の妖精チイが声を上げた。

「ふん。目をふさぎ耳をふさいで地中に閉じこもり、何も見ようとしないお前が偉そうに」
「目の前のことに飛びついて大事にしたくないから冷静に見極めようとしたまでです」

いつしか、姉妹の間に対立の火花が散っている。

「何もせぬものの典型的な言い訳よの。高みの見物を決め込んで、ほんにお主はぼんくらドランにそっくりじゃ」
「何も考えずに目の前のものに加担して争いを大きくするのは愚か者の極みです」

緑と黄色、それぞれの妖精の感情が高まるにつれ、びりびりと電気のようなものが地中に走る。

「お主、我を愚弄する気か」
「お姉さまこそ、冷静におなりなさい」

ルオが埋もれている土砂の一粒一粒がびりびりと震え始めた。明らかに精霊姉妹の激情を感じ取っている。この砂は記憶の結晶なんだから、電気ショックを与えるのは良くないんじゃ、……

「おだまり、弱っチイ!」
「荒ぶる風は土を通れませんよ」
「土もろとも吹き飛ばしてくれるわ」
「石化の強力さを御存じないようですね」

地下深くで姉妹の力が激突して弾け飛んだ。風対土の強力な力が激しく飛び交う。

「うわああああ、…―――っ」
「チチュー、…っ」

ルオは液体のまま土砂と共に粉々に砕け、全身がバラバラになるような激しい衝撃を受けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。 いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

私の彼氏はどうやら呪物のようです

蒼琉璃
ホラー
亡くなった祖母の遺品を整理していたら、蔵から怪しい木箱を見つけた依子。 それを開けると、中から出てきたのは顔中に札を貼った奇妙な男性で――――!? 百鬼(なきり)と名乗る呪物と奇妙な同棲生活が始まる。 あやかし×ラブコメホラー(?) 最凶な彼氏、最強なセコム。 ※舞台は昭和五十年前半ですので古い言葉遣いだったり、考えなどは現代と異なります ※雨宮シリーズとリンク ※ハピエン ※Illustrator Suico様

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

BLゲームの脇役に転生した筈なのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろはある日、コンビニに寄った際に不慮の事故で命を落としてしまう。 その朝、目を覚ますとなんと彼が生前ハマっていた学園物BLゲームの脇役に転生!? 脇役なのになんで攻略者達に口説かれてんの!? なんで主人公攻略対象者じゃなくて俺を攻略してこうとすんの!? 彼の運命や如何に。 脇役くんの総受け作品になっております。 地雷の方は回れ右、お願い致します(* . .)’’ 随時更新中。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

処理中です...