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病院の屋上で佑京くんと並んで青空を見上げている。
どこまでも透き通って広がる青い青い空。雲一つなく、羽の欠片はどこにも見えない。
今日は佑京くんが退院できる日で、退院前に屋上に設えられている庭園に上がってみた。ぬるい風が吹き抜ける中を、何人かの人たちが散歩している。みんな心に何か痛みを抱えている。ここから見下ろす数えきれないほどの建物の中で、ごくありふれたように見える日常を、みんなそれぞれに悲しみや苦しみや憤りを抱えて、それでも必死で生きている。
普通に平凡につまらないとさえ感じられる今日が、かけがえのないものだと、気づいたり気づかなかったりしながら。どんなに幸せそうに見える人だって、見えないものを抱えているから。
優しく生きたいと思う。
天使の羽を持つ季生くんは、その後も、どこにも見つからなかった。
警察でも全勢力を上げて捜しているようだけど、痕跡はどこにもない。一部世間では、海に落ちて行方が分からなくなったのではないかと言われているけど、私は飛んでいるんだと思う。季生くんの羽は抜け落ちることなく、飛び続けているんだと思う。
『いいよ。任せな。…俺の羽は、お前と飛ぶためにあるから』
季生くんは私を救いに来てくれた。
自己否定にとらわれて動けなくなっていた私を、呪縛から解放するために。
最後に。天使の羽を持って。
『ゆりの、目瞑って。絶対俺を離すなよ』
季生くんと佑京くんが本当に入れ替わっていたのかどうか、正直よく分からない。
『な―――!? 飛んでるみたいだな―――――っ!?』
絶対に佑京くんだったと思うこともあるし、季生くんだったんじゃないかと思うこともある。
でも。
あの日、海辺の貸別荘で、身体をつなげて幸せを教えてくれたのは、
『な? お前はダメじゃないんだよ』
私を自己嫌悪の淵から救ってくれたのは、やっぱり季生くんだったと思う。
「そろそろ行くか?」
隣に立っている佑京くんが差し出してくれた手のひらに、手を重ねた。
大きくて、温かくて、優しい。触れ合う温もりが嬉しい。この手は少しも怖くない。
この手をまた取れるようになったのは、季生くんが大丈夫だって教えてくれたから。佑京くんになって、私に触ってくれたから。
あ、…
つないだ手が、組み替えられた。指と指とが交互に絡まり合って、離れないようにしっかりと繋ぎ直される。
「怖い?」
「ううん」
怖くない。
季生くんが教えてくれたから、もう一度自分と人を信じられる。
「良かった」
佑京くんがもう片方の手で私の頭を引き寄せると、こめかみに軽く口づけた。
驚いて思わず固まってしまった私に、佑京くんが困ったような笑みを見せる。
「まあ、徐々に? お前が嫌なことは絶対にしないから」
「…うん」
私の頭に寄せた手で、そのまま髪を撫でてくれた。
「…大丈夫。嫌とかじゃない」
多分また顔は赤くなってしまってるけど、本当に驚いただけで嫌とかではことをちゃんと伝えたくて、うつむきがちに呟いた。
「そうか」
佑京くんは優しく言って、ポンポン頭を撫でてくれた。
「じゃ、帰ろう」
佑京くんに手を引かれて屋上庭園を後にする。
最後に振り仰いだ空には、いつの間にか薄い雲がたなびいていて、綺麗な羽の形をしていた。
どこまでも透き通って広がる青い青い空。雲一つなく、羽の欠片はどこにも見えない。
今日は佑京くんが退院できる日で、退院前に屋上に設えられている庭園に上がってみた。ぬるい風が吹き抜ける中を、何人かの人たちが散歩している。みんな心に何か痛みを抱えている。ここから見下ろす数えきれないほどの建物の中で、ごくありふれたように見える日常を、みんなそれぞれに悲しみや苦しみや憤りを抱えて、それでも必死で生きている。
普通に平凡につまらないとさえ感じられる今日が、かけがえのないものだと、気づいたり気づかなかったりしながら。どんなに幸せそうに見える人だって、見えないものを抱えているから。
優しく生きたいと思う。
天使の羽を持つ季生くんは、その後も、どこにも見つからなかった。
警察でも全勢力を上げて捜しているようだけど、痕跡はどこにもない。一部世間では、海に落ちて行方が分からなくなったのではないかと言われているけど、私は飛んでいるんだと思う。季生くんの羽は抜け落ちることなく、飛び続けているんだと思う。
『いいよ。任せな。…俺の羽は、お前と飛ぶためにあるから』
季生くんは私を救いに来てくれた。
自己否定にとらわれて動けなくなっていた私を、呪縛から解放するために。
最後に。天使の羽を持って。
『ゆりの、目瞑って。絶対俺を離すなよ』
季生くんと佑京くんが本当に入れ替わっていたのかどうか、正直よく分からない。
『な―――!? 飛んでるみたいだな―――――っ!?』
絶対に佑京くんだったと思うこともあるし、季生くんだったんじゃないかと思うこともある。
でも。
あの日、海辺の貸別荘で、身体をつなげて幸せを教えてくれたのは、
『な? お前はダメじゃないんだよ』
私を自己嫌悪の淵から救ってくれたのは、やっぱり季生くんだったと思う。
「そろそろ行くか?」
隣に立っている佑京くんが差し出してくれた手のひらに、手を重ねた。
大きくて、温かくて、優しい。触れ合う温もりが嬉しい。この手は少しも怖くない。
この手をまた取れるようになったのは、季生くんが大丈夫だって教えてくれたから。佑京くんになって、私に触ってくれたから。
あ、…
つないだ手が、組み替えられた。指と指とが交互に絡まり合って、離れないようにしっかりと繋ぎ直される。
「怖い?」
「ううん」
怖くない。
季生くんが教えてくれたから、もう一度自分と人を信じられる。
「良かった」
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驚いて思わず固まってしまった私に、佑京くんが困ったような笑みを見せる。
「まあ、徐々に? お前が嫌なことは絶対にしないから」
「…うん」
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「…大丈夫。嫌とかじゃない」
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「そうか」
佑京くんは優しく言って、ポンポン頭を撫でてくれた。
「じゃ、帰ろう」
佑京くんに手を引かれて屋上庭園を後にする。
最後に振り仰いだ空には、いつの間にか薄い雲がたなびいていて、綺麗な羽の形をしていた。
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