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「…小牧?」

病室のベッドで、上半身を起き上がらせて座る佑京くんは、病室に入った私を認めると、ふと心配そうに眉を寄せた。

「どうした?」

瞬間、分かってしまって、涙が溢れ出した。

佑京くんだ。

『…俺といる?』
高校生の時、一人ぼっちの生活を送る私に手を差し伸べてくれた。
強くて優しい佑京くん。

「小牧?」

突然立ちすくんで泣きだした私に、一緒に来た田上さんや病室にいた看護師さんがぎょっとしたのが分かったけど、止められない。佑京くんが目を覚ましてくれた。それはすごく、すごく嬉しい。

だけど、同時に。
そこに季生くんがいないことが分かって、この気持ちをどうしたらいいのか分からない。

季生くんが、いない。
もうどこにもいない。

本当に、飛んで行ってしまった。

『ゆりの、ありがとう』

私に会いに来てくれて、

『もう、大丈夫だな』

私を救ってくれて、

『もう一度、キスしたかったんだ』

私の天使は本当に天使になって、行ってしまった。

季生くん、季生くん、そんなのやだよ。
私だって季生くんに、もっと何かしたかった。
いつも私に寄り添って、世界の端っこで二人ぼっちでも一緒に居てくれた季生くんに、私だって何かしたい。もっと何か。季生くんのために。何か、何でも、…

「…小牧。触っていいか?」

号泣する私を持て余したのか、ベッドを下りてきてくれた佑京くんが、ためらいがちに私に手を伸ばす。

昏睡状態から目を覚ましたばかりのけが人に気を遣わせるなんてダメだと頭では分かっているけど、どうにも制御できず、佑京くんにしがみついて手放しで泣いた。大声で、顔がぐちゃぐちゃで、周りの迷惑も顧みず、泣き叫んだ。

季生くん。季生くん。
なんで。なんでもう、季生くんがどこにもいないの、…――――



佑京くんは私が泣き止むまでずっと抱えていてくれた。

そのまま、看護師さんや田上さんといくつかやり取りをして、他に人がいなくなってから、私の話を聞いてくれた。

結論から言うと、佑京くんは昏睡状態の間、季生くんと入れ替わっていたことを、全く覚えていなかった。

「佑京くんのお家でコーヒー淹れてくれたのは?」
「え、…俺んち??」

「バイクで研究所に乗り込んで一緒に逃走したの」
「マジか!」

「このシャツワンピ、見覚えない?」
「…ない、けど、…すごく似合ってる」

佑京くんは私の話にとても驚いていたけれど、疑ったりする感じではなく、純粋に感心しているような感じだった。

「バイクは持ってるし、白バイ隊員だったのも事実だ。そんな大胆な脱出劇するかは分からないけど、お前が、…」

私の言った一つ一つを噛みしめながら考えているようで、そっと胸元のティアドロップ形のネックレスに指で触れた。

「ずっと雨瀬を好きなままでいいから。許されるなら、またお前に触りたい」

それから真っすぐに私を見て、

「ずっと、今も。お前が好きだ」
『ずっと、今も。お前が好きだ』

海辺のコテージで季生くんの目で、季生くんの声で言ってくれたのと、同じことを言ってくれた。
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