上 下
50 / 56
one more. 7

02.

しおりを挟む
突然、建物中が震えるようなけたたましい警報音が鳴り響いた。

「な、…なんだ!?」

素早く南条さんと住川研究員が立ち上がり、窓の外を確認する。スマートフォンを取り出して、どこかに状況確認の電話をかけてもいる。けど、…

「侵入者、侵入者だっ!!」
「捕まえろ、早くっ」

すぐに外が騒がしくなって、たくさんの車のエンジン音やクラクションの音が鳴り響き、ドアの向こうで大勢の人がバタバタと飛び出していく音がした。

「誰か不審者が侵入したらしい。NO. 07ゼロセブンか?」
「こんな白昼堂々、騒ぎを起こしますか? 具合の悪くなったゆりのちゃんを迎えに来るよう言っただけなのに」
「じゃあ、誰だ? まさか警察?」
「え、まさか…!?」

南条さんと住川研究員が顔を見合わせてあたふたしている。

「と、…とにかく状況確認を、…」

顔色を失った南条さんが部屋のドアを開けると、バイクのエンジン音が聞こえてきた。

え、バイク、…?

と思う間もなく。
大勢の人と騒ぎを引き連れて、黒くて美しくスタイリッシュな、とても見覚えのある一台のバイクが、凄まじいスピードでサーカスの曲芸のように階段の手すりを乗り上がってくるのが見えた。

「う、…っ!?」

佑京くん――――――っ!?

衝撃の光景に言葉が出ない。

室内にバイクで侵入!? 階段駆け上がってる!?
元白バイ隊員、なんて派手な登場を――――――っ!?

あっけにとられているのはもちろん私だけでなく、あっという間に距離を詰めて私のいる部屋の前に停まったバイクを、南条さんと住川研究員もぽかんと見守っていた。

「待て、お前、…っ」
「不法侵入罪で逮捕、…っ」

わらわらと、階段の下から廊下の隅から、研究所の人たちが息を切らせて追いかけてくる。

「…じゃあ」

しかしながら佑京くんはそんな騒ぎをものともせず、バイクに乗ったままひょいっと私を抱えて後ろに座らせると、

「迎えに来たから。帰ります」

無駄にさわやかな笑顔を見せてバイクを急旋回させた。

「ゆりの、目瞑って。絶対俺を離すなよ」

なに―――――っ!?

息を整える隙などあるはずもなく。
映画のアクションシーンさながら、バイクは窓を突き破り、ベランダを飛び越え、停車している車を渡って、地上に降り立った。

こわいいいい――――――っ

と、叫ぶ暇もない。
ただもう必死で目の前の背中にしがみつく。風や熱や飛来物や人の叫び声、爆発音が現実離れしたような錯覚さえ覚える。熱いのか冷たいのか飛んでいるのか走っているのかも、もうよく分からない。

「待て、NO. 07ゼロセブンっ!!」
「このままじゃ、お前は死んでしまうんだぞっ!?」

騒ぎの中で、南条さんか住川さんか、ほかにも誰か、たくさん叫んでいるような声が聞こえたけれど、気にする余裕は一ミリもなかった。

止めに入る車をかわして飛び越え、研究施設の広大な駐車場を抜けると、門の前にはサイレンを鳴らしながら何台かのパトカーが到着していた。

「あ、君、…っ」

騒ぎを起こして出てきた元凶のバイクは当然見とがめられたけれど、

「田上っ、後はよろしくっ!!」

佑京くんは一切スピードを緩めず、華麗にパトカーの間をすり抜けて、

「ちょ、…待ちなさいっ」

警察官たちの制止を振り切って自在に走り去った。

緑豊かな山間やまあいの街を。風を切って飛ぶ、自由な鳥のように。
常識もしがらみも運命すら、全て投げうって。

「な―――!? 飛んでるみたいだな―――――っ!?」

子どもみたいに無邪気に揺れる佑京くんの声に、なんだか涙が出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日 *『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』 本編は完結。番外編を不定期で更新。 11/11,11/15,11/19 *『夫の疑問、妻の確信1~3』  10/12 *『いつもあなたの幸せを。』 9/14 *『伝統行事』 8/24 *『ひとりがたり~人生を振り返る~』 お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで *『日常のひとこま』は公開終了しました。 7月31日   *『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。 6/18 *『ある時代の出来事』 6/8   *女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。 *光と影 全1頁。 -本編大まかなあらすじ- *青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。 林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。 そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。 みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。 令和5年11/11更新内容(最終回) *199. (2) *200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6) *エピローグ ロンド~廻る命~ 本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。  ※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。 現在の関連作品 『邪眼の娘』更新 令和6年1/7 『月光に咲く花』(ショートショート) 以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。 『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結) 『繚乱ロンド』の元になった2作品 『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

演じる家族

ことは
ライト文芸
永野未来(ながのみらい)、14歳。 大好きだったおばあちゃんが突然、いや、徐々に消えていった。 だが、彼女は甦った。 未来の双子の姉、春子として。 未来には、おばあちゃんがいない。 それが永野家の、ルールだ。 【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。 https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl

アーコレードへようこそ

松穂
ライト文芸
洋食レストラン『アーコレード(Accolade)』慧徳学園前店のひよっこ店長、水奈瀬葵。  楽しいスタッフや温かいお客様に囲まれて毎日大忙し。  やっと軌道に乗り始めたこの時期、突然のマネージャー交代?  異名サイボーグの新任上司とは?  葵の抱える過去の傷とは?  変化する日常と動き出す人間模様。  二人の間にめでたく恋情は芽生えるのか?  どこか懐かしくて最高に美味しい洋食料理とご一緒に、一読いかがですか。  ※ 完結いたしました。ありがとうございました。

ヲタクな妻は語りたい!!

犬派のノラ猫
ライト文芸
これはヲタクな妻と夫が交わす 普通の日常の物語である!

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...