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未来革新プロジェクトというのは、今から30年ほど前に立ち上げられた国のプロジェクトで、来るべき地球温暖化対策の一環として、将来地上が水に覆われた場合を想定して、水中または空中で生活する可能性を探るものであったという。
羽人はその中で、空中生活の可能性を探るものであり、翼をもつ人間を誕生させることを目的とした研究がすすめられた。当時国のプロジェクト責任者であった南条議員は、昆虫バイオテクノロジーの革新者である令和大学の村井祥三教授の全面協力を得て、人為的に人間に羽を持たせる実験を繰り返し、胎児にある薬を投与することで羽人の誕生を可能にした。
「胎児、…!?」
そもそも冷静には聞けないような話だったけど、人権を無視した内容に怒りが込み上げてくる。
「望まない妊娠や経済的な負担から出産を諦めようとする人に詳細を伝えず協力を仰いだらしい。ひどい話だと僕も思うよ」
南条さんはうなだれたけれど、
「でもそれで実際に羽を持つ人が誕生したんですから、村井先生は偉大だったんですよ」
住川と言うらしい白衣の人は研究成果を誇らしそうに語った。
彼は村井教授の弟子で、鵜飼教授亡き後、研究責任者の一人としてこの施設にいるらしい。
「胎児に薬を投与しても流産や死産を繰り返し、実際に誕生させることは大変難しかった。村井先生は試行錯誤して、ようやく羽人が誕生したのが今から二十数年前です。それでも羽人の生命力は弱く、たいていすぐに亡くなってしまった。十年を超えて生きられたのがNO. 01からNO.07までのたった7人。我々は彼ら7人の成長を必死で見守りましたが、NO.07だけがある日消息不明になってしまった。ですから成長した彼を雑誌の片隅で見つけた時には狂喜乱舞しましたよ」
最初はプロジェクトの詳細を語ることに難色を示していたのに、一転して、住川研究員は研究内容について熱く饒舌に語り始めた。
つまりは、その実験の産物として誕生した羽を持つ人たちが、西野春香さんであり、話を聞かせてくれた人たちであり、季生くん、…てことになるのか。
「村井教授が不慮の事故で亡くなり、実験が凍結されてしまったので、新たに羽人を誕生させることが難しくなってしまった。最初は後継者として鵜飼教授の活躍を期待していたんですけどね、羽化した羽人が死んでしまうことが分かってから、彼は突然手を引くと言い出した」
沈痛な表情を浮かべる南条さんとは対照的に住川研究員は生き生きとしている。自分たちの研究に相当自信があるらしい。
怒りと嫌悪しか感じないけど、ともかくも、佑京くんが追っていた事件と季生くんとの繋がりが見えてきた。
「羽化する前の羽人に将来起こりうる可能性を告げ、それを回避する方法を探るべきだと。しかしそれは国が人体実験に関わっていたことを公表するようなものだ。しかも羽人の寿命は極端に短い。非難は目に見えているから事を大袈裟にせず、秘密裏に羽人を確保し、羽化を遅らせようというのが研究所の一貫した意見だったのに、鵜飼は単独で唯一生存しているNO.07に接触して、全てを暴露してしまった。もはや我々はN0.07の確保に全力を挙げるか、彼の口を封じるかしかなくなった」
なんだかすごく現実離れした話を聞かされているような気がするけど、熱弁する住川研究員とうなだれる南条さんを見ても、自分の身に起きた事柄を振り返ってみても、それが現実だと納得せざるを得なかった。
「このプロジェクトには過激な考えをする人もいて、研究内容を糾弾されるくらいなら証拠を消そうとして、弟くんを危険にさらしているんだ」
南条さんが苦し気に話を引き取る。空き巣や暴走車の事故はその過激派の犯行ということらしい。
「手荒なことをしてゆりのちゃんには本当に申し訳ないけど、弟くんを説得して協力を要請してもらえないかな。彼自身の命がかかってるんだ」
南条さんが守りたいのは季生くんなのか父親である議員の立場なのかわからないけど、一応なんとなく話の全容はつかめた気がする。
羽人はその中で、空中生活の可能性を探るものであり、翼をもつ人間を誕生させることを目的とした研究がすすめられた。当時国のプロジェクト責任者であった南条議員は、昆虫バイオテクノロジーの革新者である令和大学の村井祥三教授の全面協力を得て、人為的に人間に羽を持たせる実験を繰り返し、胎児にある薬を投与することで羽人の誕生を可能にした。
「胎児、…!?」
そもそも冷静には聞けないような話だったけど、人権を無視した内容に怒りが込み上げてくる。
「望まない妊娠や経済的な負担から出産を諦めようとする人に詳細を伝えず協力を仰いだらしい。ひどい話だと僕も思うよ」
南条さんはうなだれたけれど、
「でもそれで実際に羽を持つ人が誕生したんですから、村井先生は偉大だったんですよ」
住川と言うらしい白衣の人は研究成果を誇らしそうに語った。
彼は村井教授の弟子で、鵜飼教授亡き後、研究責任者の一人としてこの施設にいるらしい。
「胎児に薬を投与しても流産や死産を繰り返し、実際に誕生させることは大変難しかった。村井先生は試行錯誤して、ようやく羽人が誕生したのが今から二十数年前です。それでも羽人の生命力は弱く、たいていすぐに亡くなってしまった。十年を超えて生きられたのがNO. 01からNO.07までのたった7人。我々は彼ら7人の成長を必死で見守りましたが、NO.07だけがある日消息不明になってしまった。ですから成長した彼を雑誌の片隅で見つけた時には狂喜乱舞しましたよ」
最初はプロジェクトの詳細を語ることに難色を示していたのに、一転して、住川研究員は研究内容について熱く饒舌に語り始めた。
つまりは、その実験の産物として誕生した羽を持つ人たちが、西野春香さんであり、話を聞かせてくれた人たちであり、季生くん、…てことになるのか。
「村井教授が不慮の事故で亡くなり、実験が凍結されてしまったので、新たに羽人を誕生させることが難しくなってしまった。最初は後継者として鵜飼教授の活躍を期待していたんですけどね、羽化した羽人が死んでしまうことが分かってから、彼は突然手を引くと言い出した」
沈痛な表情を浮かべる南条さんとは対照的に住川研究員は生き生きとしている。自分たちの研究に相当自信があるらしい。
怒りと嫌悪しか感じないけど、ともかくも、佑京くんが追っていた事件と季生くんとの繋がりが見えてきた。
「羽化する前の羽人に将来起こりうる可能性を告げ、それを回避する方法を探るべきだと。しかしそれは国が人体実験に関わっていたことを公表するようなものだ。しかも羽人の寿命は極端に短い。非難は目に見えているから事を大袈裟にせず、秘密裏に羽人を確保し、羽化を遅らせようというのが研究所の一貫した意見だったのに、鵜飼は単独で唯一生存しているNO.07に接触して、全てを暴露してしまった。もはや我々はN0.07の確保に全力を挙げるか、彼の口を封じるかしかなくなった」
なんだかすごく現実離れした話を聞かされているような気がするけど、熱弁する住川研究員とうなだれる南条さんを見ても、自分の身に起きた事柄を振り返ってみても、それが現実だと納得せざるを得なかった。
「このプロジェクトには過激な考えをする人もいて、研究内容を糾弾されるくらいなら証拠を消そうとして、弟くんを危険にさらしているんだ」
南条さんが苦し気に話を引き取る。空き巣や暴走車の事故はその過激派の犯行ということらしい。
「手荒なことをしてゆりのちゃんには本当に申し訳ないけど、弟くんを説得して協力を要請してもらえないかな。彼自身の命がかかってるんだ」
南条さんが守りたいのは季生くんなのか父親である議員の立場なのかわからないけど、一応なんとなく話の全容はつかめた気がする。
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