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目覚めたら天使の腕の中で寝ていた。
お肌すべすべ。まつ毛長い。整った鼻筋。無防備な唇。
何この眼福。天国ですか。
しかも長い手足に余すところなく抱きしめられている。
密着する硬い胸板。背中に回る腕と絡まる脚。包まれる体温。
こんなミラクルが起こるから私の日常はパッとしないんだなー、などと現実逃避しなければ爆発しそうなほど、天使の威力が凄い。
ていうか自分の状況がつかめない。
なんで天使と寝てるんだっけ??
現実を思い出そうと天使の腕の中で身じろぐと、
「…、リノ」
背中に回る腕の力が強くなった。
寝ぼけているのか、天使の麗しい唇が柔らかく降ってくる。額に顔に耳に首筋に、軽く触れては離れ、触れては離れる。甘やかでくすぐったくて心臓を掴まれる。
「もっかい、…」
掠れ声で囁きながら、ねだるように繰り返す。
え。なんだろ、甘えてる?
なんだか胸の奥がぎゅっとして堪らない気持ちになる。
「…きおくん」
そっとその柔らかい髪に手を伸ばしたら、天使の瞼がピクリと動き、美しすぎる瞳がのぞいた。
「…え?」
澄んだ美しい瞳が大きく見開かれる。
「…ごめん、間違えた」
瞬きを繰り返して我に返ったような天使が、そそくさと私を押し退けてベッドから抜け出す。
「あ、…ううん。全然、ごめん。こっちこそ」
それで私も我に返って現実を認識した。
今、目の前にいる天使は季生くんであって季生くんではない。
中身は警視庁捜査一課の警察官であり唯一の元カレでもある佑京くんで、季生くんを狙っている人たちを探し出すために行動を共にしている。
いやしかし。
なんか、季生くんのことを考えながら寝てしまったから季生くんのように感じてしまったわけだけど、佑京くんは一体誰と間違えたというの、…
なんかもやもやしていたら、
「…お前、いつもこんな、…」
立ち上がった佑京くんが後ろを向いたまま動きを止めて、ぽつりとつぶやいた。
「え、…」
「…や、なんでもない。俺がダメなだけだ」
振り切るようにバスルームに向かった佑京くんの背中が少し寂しげで、思わず呼び止めてしまった。
「佑京くんは全然ダメじゃなくて、…っ」
思いがけない大声に、佑京くんがぎょっとしたように振り向いた。
「…あ、いや、えーと、…ダメなのは私です」
恥ずかしくなってうつむきがちに付け加えた。
「実は私、ずっとあれから男の人がダメで、季生くんはそんな私を見かねて協力してくれてて、…」
どさくさに紛れて何の告白をしているんだ、私は。
こんなの、佑京くんに気を遣わせるだけ、…
と思っていたら、頬を滑らかな手のひらで包まれた。
「…ごめん」
見上げたら涙の膜の向こうで美しく澄んだ瞳が揺れていた。
「俺のせいだな」
苦しげにつぶやく佑京くんの声は、季生くんの声なのに、あの日最後に聞いた声と同じで、儚く溶ける淡雪みたいに掠れて耳元に落ちた。大好きなのに、悲しくて、涙が止まらなくて、…
全力で首を横に振ったら、たまりかねたように涙が零れ落ちてしまった。
もう絶対、佑京くんの前では泣きたくなかったのに。
「…小牧」
佑京くんが頬に添えた手のひらで私の頭を引き寄せて、胸の中に入れてくれた。
「…その協力、俺にもさせて」
優しい腕の中。安心する季生くんの腕。
だけど季生くんじゃなくて。
抱きしめる力が強くなって、心臓の鼓動が肌を通して伝わってくる。
季生くんだけど季生くんじゃない。
佑京くんの腕の中で、あの日に戻ったように泣きじゃくってしまった。
お肌すべすべ。まつ毛長い。整った鼻筋。無防備な唇。
何この眼福。天国ですか。
しかも長い手足に余すところなく抱きしめられている。
密着する硬い胸板。背中に回る腕と絡まる脚。包まれる体温。
こんなミラクルが起こるから私の日常はパッとしないんだなー、などと現実逃避しなければ爆発しそうなほど、天使の威力が凄い。
ていうか自分の状況がつかめない。
なんで天使と寝てるんだっけ??
現実を思い出そうと天使の腕の中で身じろぐと、
「…、リノ」
背中に回る腕の力が強くなった。
寝ぼけているのか、天使の麗しい唇が柔らかく降ってくる。額に顔に耳に首筋に、軽く触れては離れ、触れては離れる。甘やかでくすぐったくて心臓を掴まれる。
「もっかい、…」
掠れ声で囁きながら、ねだるように繰り返す。
え。なんだろ、甘えてる?
なんだか胸の奥がぎゅっとして堪らない気持ちになる。
「…きおくん」
そっとその柔らかい髪に手を伸ばしたら、天使の瞼がピクリと動き、美しすぎる瞳がのぞいた。
「…え?」
澄んだ美しい瞳が大きく見開かれる。
「…ごめん、間違えた」
瞬きを繰り返して我に返ったような天使が、そそくさと私を押し退けてベッドから抜け出す。
「あ、…ううん。全然、ごめん。こっちこそ」
それで私も我に返って現実を認識した。
今、目の前にいる天使は季生くんであって季生くんではない。
中身は警視庁捜査一課の警察官であり唯一の元カレでもある佑京くんで、季生くんを狙っている人たちを探し出すために行動を共にしている。
いやしかし。
なんか、季生くんのことを考えながら寝てしまったから季生くんのように感じてしまったわけだけど、佑京くんは一体誰と間違えたというの、…
なんかもやもやしていたら、
「…お前、いつもこんな、…」
立ち上がった佑京くんが後ろを向いたまま動きを止めて、ぽつりとつぶやいた。
「え、…」
「…や、なんでもない。俺がダメなだけだ」
振り切るようにバスルームに向かった佑京くんの背中が少し寂しげで、思わず呼び止めてしまった。
「佑京くんは全然ダメじゃなくて、…っ」
思いがけない大声に、佑京くんがぎょっとしたように振り向いた。
「…あ、いや、えーと、…ダメなのは私です」
恥ずかしくなってうつむきがちに付け加えた。
「実は私、ずっとあれから男の人がダメで、季生くんはそんな私を見かねて協力してくれてて、…」
どさくさに紛れて何の告白をしているんだ、私は。
こんなの、佑京くんに気を遣わせるだけ、…
と思っていたら、頬を滑らかな手のひらで包まれた。
「…ごめん」
見上げたら涙の膜の向こうで美しく澄んだ瞳が揺れていた。
「俺のせいだな」
苦しげにつぶやく佑京くんの声は、季生くんの声なのに、あの日最後に聞いた声と同じで、儚く溶ける淡雪みたいに掠れて耳元に落ちた。大好きなのに、悲しくて、涙が止まらなくて、…
全力で首を横に振ったら、たまりかねたように涙が零れ落ちてしまった。
もう絶対、佑京くんの前では泣きたくなかったのに。
「…小牧」
佑京くんが頬に添えた手のひらで私の頭を引き寄せて、胸の中に入れてくれた。
「…その協力、俺にもさせて」
優しい腕の中。安心する季生くんの腕。
だけど季生くんじゃなくて。
抱きしめる力が強くなって、心臓の鼓動が肌を通して伝わってくる。
季生くんだけど季生くんじゃない。
佑京くんの腕の中で、あの日に戻ったように泣きじゃくってしまった。
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