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佑京くんのバイクで都内に戻り、令和大学を訪れた時はすでに辺りは真っ暗だった。
途中、佑京くんがショッピングモールに寄って洋服を買ってくれたからでもある。
「着替え、遅くなってごめんな」
「いや。…いやいやいや。大丈夫、自分で買う」
「ま、いいじゃん? これは雨瀬の払いってことで。こいつ稼いでそうだし」
「ええっ!? それはさすがに、…」
「男は買ってやりたいもんなの。黙って奢られてな」
「ええー、…」
支払いを巡ってもめたけど、結局強引に佑京くんが払ってしまった。しかもなんだかんだ、多分佑京くん本人のお財布で。
ホワイトイエローのシャツワンピ。すっきりしたデザインでオフィスカジュアル使い出来そうと思って、一目ぼれしちゃったんだけど、なんか申し訳ないことをしてしまったかも。でも嬉しいかも。佑京くんごめん、…
佑京くんは、佑京くん個人のものと季生くんのものを両方所持している。事務所の人と連絡を取るときは季生くんのスマートフォンを使い、自宅やバイクの鍵は佑京くんのものを持っていて、情報を検索したり整理したりするのは佑京くんのスマートフォンを使っている。
令和大学の門をくぐるときは、警察手帳を掲げていた。あんまりにも堂々としていて怪しまれなかったけど、職権濫用のような気がする、…
「手帳の写真と今の顔、全然違うじゃん」
「中身は俺なんだから問題ないだろ」
そういうもの?
こっちがこそこそしてしまうけど、さすが元不良は心臓の出来が違う。
「鵜飼教授が亡くなった件でいくつか押収させてもらいます。許可は取ってるんで」
「…はあ、…」
夜の研究室には学生さんが何人かいるだけで、佑京くんの警察手帳に疑問を抱く人はいなかった。ただ、
「…刑事さん、すごくスタイルいいですね。モデルのイオに似てるって言われません?」
さすがに気付く人もいた。
そりゃあ本物だもんね、と思っていると、
「ええ、よく言われます」
あんまり見たことのない社交スマイルで佑京くんが軽くかわしていた。役者や。
「この『空中生活の可能性―翅を持つ人たち―』って、鵜飼教授の本じゃないね?」
学生さんたちと気楽な感じで話しながら佑京くんが問いかけると、
「ああ、それ。村井先生のです。村井祥三。鵜飼先生が敬愛する恩師だそうで、今はもう亡くなっちゃったんですけど、画期的な研究に取り組んで、昆虫バイオテクノロジーのパイオニア的存在と言われている人です」
学生さんもすぐに答えてくれた。
「へえ、パイオニアねえ、…」
佑京くんは感心したような声を出しつつ、さりげなくその村井先生の本をカバンにしまい込んだ。
「刑事さん、そんなカッコいいのになんで警察官になったんですか」
しばらく話して学生さんたちも気を許したのか、受け取りようによっては微妙な質問を投げかけてきた。
「ん? そうだな、…」
ほんの一瞬、佑京くんが切なそうな笑みを見せた。
「…守ってやりたい人がいたから」
なんだか、心が揺れて胸の奥がぎゅっとなる。
「それよりさ、鵜飼教授ってどんな感じの人だった? 最近悩んでる様子とかあった?」
でも佑京くんは、すぐに何でもない顔に戻って、学生さんたちと他の話を始めた。
「え~? そうですね、…僕らにはそういうの全然見せなかったけど、…」
「あー、…でもなんか、画期的な研究成果が人間を幸せにするとは限らない、みたいな、珍しく後ろ向きなこと言ってたような気もしますね」
佑京くんの守ってあげたい人は、佑京くんの好きな人なんだろう。
それが自分だったらいいのに、と思うほど愚かじゃないつもりだ。
だいたい私は欠陥品だし、…
『俺がお前とやって、お前がダメなわけじゃないって証明してやる』
落ち込みそうになると、季生くんが現れて、そっと助けてくれる。
スパルタで優しくて、ありのままの私を受け入れてくれた季生くん。世界はまだこんなにも優しいと教えてくれた。
ねえ、季生くん。
20歳まで生きられないかもしれないとか、嘘だよね、…?
途中、佑京くんがショッピングモールに寄って洋服を買ってくれたからでもある。
「着替え、遅くなってごめんな」
「いや。…いやいやいや。大丈夫、自分で買う」
「ま、いいじゃん? これは雨瀬の払いってことで。こいつ稼いでそうだし」
「ええっ!? それはさすがに、…」
「男は買ってやりたいもんなの。黙って奢られてな」
「ええー、…」
支払いを巡ってもめたけど、結局強引に佑京くんが払ってしまった。しかもなんだかんだ、多分佑京くん本人のお財布で。
ホワイトイエローのシャツワンピ。すっきりしたデザインでオフィスカジュアル使い出来そうと思って、一目ぼれしちゃったんだけど、なんか申し訳ないことをしてしまったかも。でも嬉しいかも。佑京くんごめん、…
佑京くんは、佑京くん個人のものと季生くんのものを両方所持している。事務所の人と連絡を取るときは季生くんのスマートフォンを使い、自宅やバイクの鍵は佑京くんのものを持っていて、情報を検索したり整理したりするのは佑京くんのスマートフォンを使っている。
令和大学の門をくぐるときは、警察手帳を掲げていた。あんまりにも堂々としていて怪しまれなかったけど、職権濫用のような気がする、…
「手帳の写真と今の顔、全然違うじゃん」
「中身は俺なんだから問題ないだろ」
そういうもの?
こっちがこそこそしてしまうけど、さすが元不良は心臓の出来が違う。
「鵜飼教授が亡くなった件でいくつか押収させてもらいます。許可は取ってるんで」
「…はあ、…」
夜の研究室には学生さんが何人かいるだけで、佑京くんの警察手帳に疑問を抱く人はいなかった。ただ、
「…刑事さん、すごくスタイルいいですね。モデルのイオに似てるって言われません?」
さすがに気付く人もいた。
そりゃあ本物だもんね、と思っていると、
「ええ、よく言われます」
あんまり見たことのない社交スマイルで佑京くんが軽くかわしていた。役者や。
「この『空中生活の可能性―翅を持つ人たち―』って、鵜飼教授の本じゃないね?」
学生さんたちと気楽な感じで話しながら佑京くんが問いかけると、
「ああ、それ。村井先生のです。村井祥三。鵜飼先生が敬愛する恩師だそうで、今はもう亡くなっちゃったんですけど、画期的な研究に取り組んで、昆虫バイオテクノロジーのパイオニア的存在と言われている人です」
学生さんもすぐに答えてくれた。
「へえ、パイオニアねえ、…」
佑京くんは感心したような声を出しつつ、さりげなくその村井先生の本をカバンにしまい込んだ。
「刑事さん、そんなカッコいいのになんで警察官になったんですか」
しばらく話して学生さんたちも気を許したのか、受け取りようによっては微妙な質問を投げかけてきた。
「ん? そうだな、…」
ほんの一瞬、佑京くんが切なそうな笑みを見せた。
「…守ってやりたい人がいたから」
なんだか、心が揺れて胸の奥がぎゅっとなる。
「それよりさ、鵜飼教授ってどんな感じの人だった? 最近悩んでる様子とかあった?」
でも佑京くんは、すぐに何でもない顔に戻って、学生さんたちと他の話を始めた。
「え~? そうですね、…僕らにはそういうの全然見せなかったけど、…」
「あー、…でもなんか、画期的な研究成果が人間を幸せにするとは限らない、みたいな、珍しく後ろ向きなこと言ってたような気もしますね」
佑京くんの守ってあげたい人は、佑京くんの好きな人なんだろう。
それが自分だったらいいのに、と思うほど愚かじゃないつもりだ。
だいたい私は欠陥品だし、…
『俺がお前とやって、お前がダメなわけじゃないって証明してやる』
落ち込みそうになると、季生くんが現れて、そっと助けてくれる。
スパルタで優しくて、ありのままの私を受け入れてくれた季生くん。世界はまだこんなにも優しいと教えてくれた。
ねえ、季生くん。
20歳まで生きられないかもしれないとか、嘘だよね、…?
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