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05.

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「よし、小牧。デートしようぜ」

翌朝、季生くんの顔をした佑京くんに、心臓が止まりそうな言葉で起こされた。え。佑京くん、爽やかに何言いました?

デート? デートぉ? そんなのここ十数年、全くしたことないんですけどっ??

「俺、ちょっとシャワー浴びてくるから。出かける準備してて。朝食は途中でとろう?」

寝ぼけ半分、状況が理解できない私の髪を撫でると、佑京くんがバスルームに消えてゆく。

「…デート」

もそもそと起き上がってつぶやいてみる。
ここは佑京くんのお家で佑京くんのベッド。佑京くんの匂いがするお布団にくるまれて眠ってしまった。

絶対眠れないと思っていたのに。爆睡するとか私って何。
だって疲れてたの、
怒涛の展開についていけなくて疲れてたんだって―――っ

布団を握りしめて悶絶する。

佑京くんのスウェット借りちゃったし。シャンプーもボディソープも貸してもらっちゃったし。佑京くんの部屋には女の子を想像させるようなものは見当たらなくて、今、彼女がいないって言うのは嘘じゃないんだろうなと思うけど、着替えとかタオルとかベッド勧めてくれたりとかが凄くスマートで、当たり前に経験値の高さを想像させる。

私は一人で緊張しまくり、コンビニエンスストアの焼肉カルビ弁当の味もよく分からず、トイレもお風呂もなんかこそこそ貸してもらった。ベッド借りるなんてもってのほかだと思ったんだけど、

「多分、俺寝ないから」

佑京くんは一切何にも気にしていないようで、脇に分厚い書類の山を置き、パソコンに齧り付いていて、

「寝れないんなら、また添い寝するけど」

変に意識してお手数をおかけするのも申し訳ないような気がして、お言葉に甘えてしまった。

ワンルームマンションの佑京くんの部屋は、明かりを消しても佑京くんが使っているパソコンの明かりが漏れてきて、キーをクリックする音が聞こえてきて、部屋いっぱいに佑京くんの気配が満ちていて。やっぱりすごく佑京くんを感じてしまう。

もの凄く緊張しているはずなのに、そこここに感じる佑京くんにどこか安心している自分もいて、気が付いたらしっかり眠ってしまっていた。

初めてのお泊り(と言っていいのか?)で爆睡するってどうなの? 佑京くんに作業を任せて一人爆睡ってバカなの? ていうか、寝顔見られた? すっぴん見られた? けど全然全く一ミリも気にされてない??

…佑京くんのバカ。
軽々しくデートとか言わないでほしい。

何もかもが空回りして悶絶が止まらない私の目の前を、バスタオルを被った半裸の佑京くんが横切っていった。

「ちょ、…っ!!」

一気に覚醒して、無駄な大声を上げてしまい、濡れ髪に水を滴らせながら振り返った佑京くんに、

「お前、さっきと変わってねえじゃん。朝弱いの?」 

怪訝な顔をされた上、

「…ってか、お前の彼氏、細すぎじゃねえ? モデルってこんなん? 腹筋割れてるけどさあ、…」

無駄に綺麗な腹筋をちらつかせて近づかれてしまった。

ぎゃああ、目のやり場に困る―――――っ

そりゃあ季生くんとは、お風呂で洗ってもらったりとか、結構濃密なセラピーレッスンの数々を施してもらったりしたわけだけどっ、そうそう簡単に免疫つかないっていうかね、…っっ

「…真っ赤。具合悪いんじゃねえよな?」
「…大丈夫、なので、…服着てくだサイ」

うつむいたまま手で追いやる仕草をすると、

「ふぅん? 風呂も寝るのも一緒なのにな?」

なんかちょっとニヤニヤした佑京くんにのぞき込まれた。

近いです。お兄さん、近いです――――っ

「この羽さあ、伸縮可能なんだな。肌と一体化してほとんど見えないようにもできるし、広げることもできる、…」

顔がトマトになって破裂するんじゃないかという気分になっていると、ふっと佑京くんが背中を向けた。それで我に返って目を上げると、季生くんの身体にある二枚の羽が透明に広がっているのが見えた。確かに。前にうちに来て見せてくれた時よりもだいぶ大きい。

「これってさ、羽化すれば飛べるようになるんじゃないかな」

佑京くんがハタハタと羽を動かして見せるけど、透けそうに薄いそれは弱弱しくて、到底人ひとりの体重を持ち上げられそうにない。

「…羽化?」

「昨日色々調べてて、羽をもつ人間って雨瀬の他にも何人かいることが分かったんだ。今日はその人たちに話を聞きに行く。雨瀬に接触を図ってた鵜飼教授と羽との繋がりも確かめたいし」

なるほど。デートってそれか。

「…ん? どうした?」
「…何でもないデス」

がっかりしてないです。バカは私です。
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