5 / 56
one more. 1
04.
しおりを挟む
「…なんかこれ、小せえ」
十数年も経ってから、極上イケメンに成長した姿でいきなり現れて、文句言わないで欲しい。
ともかくも季生くんに何か着せなければと、家にある中で最大サイズのスウェットを渡してみたけど、長い手足が余りに余ってつんつるてんになっている。
地味に可愛いかもしれない。
「一個くらいないの? 男物。元カレの忘れ物とか、…」
言ってから季生くんは私を上から下まで二度見して、ため息を吐いた。
「…ないな。長らく男いなそう」
前言撤回。可愛くない。長らく枯れてて悪かったね!?
「むしろ今までいたことないとか?」
季生くんが秘蔵のカップ焼きそばをふうふう冷ましながら口に入れる。
お腹空いた、などと宣う自由人な季生くんのために食料を漁ったけど、めっきり料理をしないキッチンにはろくなものがなく、カップ焼きそばにお湯を注いで向かい合わせで啜っている。
禁断の美味しさである。
「いなくて季生くんに迷惑かけましたか!?」
三十路もとっくに過ぎたというのに、子どもじみた挑発に乗ってしまうのは、それが地雷だからだ。
小牧ゆりの。32歳。社会人。独身。処女。
ううおおお―――、しょ、じょおおお―――っ
32歳まで処女だったら天使になれるらしい、とかそういうのなかったっけ。いや、だからこそ今、目の前に、天使のような顔をした季生くんが降りて来たのか?
「いや、まあ、…」
一気に頬張ってあっという間に焼きそばを食べ終えてしまった季生くんは、カップを洗って「プラゴミどこ?」「あ、そこの水色の容器」律義に分別して捨てると、
「…好都合だけど」
なぜか私の後ろに座った。
「な、…なに?」
無意識に身体がピクリと震える。
何が好都合?
背後から降り注ぐ凄まじいイケメンオーラに卒倒しそうになるんですけど!?
どうにも落ち着かない私に後ろから腕を回して、
「枯れ切ったゆりのに潤いを与えたら、俺のお願い聞いてくれるかなぁって」
交差した手で私を引き寄せると、季生くんは私の耳元に甘えた声で囁いた。
枯れ切ったなどと失礼なことを言われているのに気にする余裕はまるでなく、
無理―――っ、お願い以前に心臓が止まる! 発作っ、心臓発作起こすううう!!
季生くんのバックハグに息も絶え絶えになってしまう。イケメンのバックハグの威力たるや。
「…あのさ、ゆりの?」
「ふえ、…っ」
髪に手を差し入れられて、年甲斐もなくアホみたいな声が出る。後ろからのぞき込まれて心臓が爆発する。
「しばらく俺をここに匿ってくんない?」
季生くんの澄み切った美しい瞳に陶酔したような私が映っていた。
季生くんは、自分が最高級のイケメンに分類されることを知っている。
自分の使い方を分かっている。こうすれば、女の子が断れないって、年増の処女なんてイチコロだって分かってやってる。
それが分かるのに。分かるのに、…っっ
「…うん、…いい、よ」
断れない私のあんぽんた―――んっ! チョロ助! お局! 枯れ木も山の賑わいいい―――っっ
「ありがと、ゆりの。大好き」
頬に季生くんの柔らかな唇を感じて、世界一軽い大好きなのに、ズンバを踊り出す脳みそも、幸福感に満ちていく身体も、我ながら救いようがないと思った。
十数年も経ってから、極上イケメンに成長した姿でいきなり現れて、文句言わないで欲しい。
ともかくも季生くんに何か着せなければと、家にある中で最大サイズのスウェットを渡してみたけど、長い手足が余りに余ってつんつるてんになっている。
地味に可愛いかもしれない。
「一個くらいないの? 男物。元カレの忘れ物とか、…」
言ってから季生くんは私を上から下まで二度見して、ため息を吐いた。
「…ないな。長らく男いなそう」
前言撤回。可愛くない。長らく枯れてて悪かったね!?
「むしろ今までいたことないとか?」
季生くんが秘蔵のカップ焼きそばをふうふう冷ましながら口に入れる。
お腹空いた、などと宣う自由人な季生くんのために食料を漁ったけど、めっきり料理をしないキッチンにはろくなものがなく、カップ焼きそばにお湯を注いで向かい合わせで啜っている。
禁断の美味しさである。
「いなくて季生くんに迷惑かけましたか!?」
三十路もとっくに過ぎたというのに、子どもじみた挑発に乗ってしまうのは、それが地雷だからだ。
小牧ゆりの。32歳。社会人。独身。処女。
ううおおお―――、しょ、じょおおお―――っ
32歳まで処女だったら天使になれるらしい、とかそういうのなかったっけ。いや、だからこそ今、目の前に、天使のような顔をした季生くんが降りて来たのか?
「いや、まあ、…」
一気に頬張ってあっという間に焼きそばを食べ終えてしまった季生くんは、カップを洗って「プラゴミどこ?」「あ、そこの水色の容器」律義に分別して捨てると、
「…好都合だけど」
なぜか私の後ろに座った。
「な、…なに?」
無意識に身体がピクリと震える。
何が好都合?
背後から降り注ぐ凄まじいイケメンオーラに卒倒しそうになるんですけど!?
どうにも落ち着かない私に後ろから腕を回して、
「枯れ切ったゆりのに潤いを与えたら、俺のお願い聞いてくれるかなぁって」
交差した手で私を引き寄せると、季生くんは私の耳元に甘えた声で囁いた。
枯れ切ったなどと失礼なことを言われているのに気にする余裕はまるでなく、
無理―――っ、お願い以前に心臓が止まる! 発作っ、心臓発作起こすううう!!
季生くんのバックハグに息も絶え絶えになってしまう。イケメンのバックハグの威力たるや。
「…あのさ、ゆりの?」
「ふえ、…っ」
髪に手を差し入れられて、年甲斐もなくアホみたいな声が出る。後ろからのぞき込まれて心臓が爆発する。
「しばらく俺をここに匿ってくんない?」
季生くんの澄み切った美しい瞳に陶酔したような私が映っていた。
季生くんは、自分が最高級のイケメンに分類されることを知っている。
自分の使い方を分かっている。こうすれば、女の子が断れないって、年増の処女なんてイチコロだって分かってやってる。
それが分かるのに。分かるのに、…っっ
「…うん、…いい、よ」
断れない私のあんぽんた―――んっ! チョロ助! お局! 枯れ木も山の賑わいいい―――っっ
「ありがと、ゆりの。大好き」
頬に季生くんの柔らかな唇を感じて、世界一軽い大好きなのに、ズンバを踊り出す脳みそも、幸福感に満ちていく身体も、我ながら救いようがないと思った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる