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feel.12
03.
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病院を出た時はとっくに真夜中を過ぎていた。
辺りは寝静まっていて、月がきれいで風が心地いい。
ずっと抱えていた想いを口にしたら、心が軽くなった。
黎くんはまだ安静にしていなければならないということで入院することになり、
私は、澪さんのお言葉に甘えてマンションにお邪魔させていただくことになった。
帰宅途中で眠ってしまった斗哉くんをベッドに寝かせる澪さんの姿は、愛情深い母親そのもので、見ているだけで感慨深いものがある。
それを見届けて、瑛多くんは自分の家に帰っていった。
ずっとずっと昔。
私がまだ小さかった頃。
眠りに就くまで母が手をつないでいてくれたことを思い出した。
すっかり忘れていたけれど、私にも幸せな記憶の断片があった。
最初に壁を作ったのは、親ではなく自分だったのかもしれない。
私も誰かに愛情を向けられたことがあったのかもしれない。
伝えなきゃ伝わらない。
守ってばかりじゃ、たどり着けない。
『俺、一生ゆののそばにいるから』
…一生。 って言った。 黎くん。
一生って、え、一生⁇
急にほてりを感じ始めて妙に暑くなる。
帰りがけに買ったペットボトルの水を一息に飲み干した。
その場の勢いかもしれないし、言葉の綾かもしれない。
でも。
誰かに受け入れてもらえるって、思いが通じるって、
こんなにも、こんなにも、幸せなことなんだな。
失くすことばかりを恐れて勇気を出さなければ、
この幸せを知ることはなかった。
「ゆの先生が誤解したの、私のせいですね」
澪さんがお風呂やら着替えやらの用意をしてくれながら、自嘲混じりに言った。
「斗哉は父親がいないんです。相手は誰にも言えなかった。親には泣かれて、それでも産むならって絶縁されました。黎だけが味方になってくれたんです。父親になってやるって、…」
澪さんの寂し気な表情が胸に刺さる。
誰にも言えない相手に恋をするって、多分、ものすごく辛い。
凛として咲き誇る純白のカサブランカ。
傷ついて苦しんでもがいて、それでも尚、こんなにも美しい。
もしかしたら、だからこそ、美しいのかもしれない。
「斗哉、黎の小さい頃によく似ていて。可愛がって、守ってくれました。だから斗哉は、あまり寂しい思いをしていないと思います」
澪さんが優しい微笑みを見せた。
斗哉くんは黎くんの甥御さんになるわけだから、まあ似ているのも頷ける。
そうか、『パパ』ってそういうことだったのか。
「でも、黎、本当は怒ってたんだと思います。私にも相手にも世間にも。未婚で育てる苦労も、世間の厳しい風当たりも、全部知っているから。だから、先生が結婚されている人と付き合ってるって思って、あんな、…怒ったっていうか、心配したっていうか、…」
澪さんの言わんとすることが、すごくよく分かった。
辺りは寝静まっていて、月がきれいで風が心地いい。
ずっと抱えていた想いを口にしたら、心が軽くなった。
黎くんはまだ安静にしていなければならないということで入院することになり、
私は、澪さんのお言葉に甘えてマンションにお邪魔させていただくことになった。
帰宅途中で眠ってしまった斗哉くんをベッドに寝かせる澪さんの姿は、愛情深い母親そのもので、見ているだけで感慨深いものがある。
それを見届けて、瑛多くんは自分の家に帰っていった。
ずっとずっと昔。
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眠りに就くまで母が手をつないでいてくれたことを思い出した。
すっかり忘れていたけれど、私にも幸せな記憶の断片があった。
最初に壁を作ったのは、親ではなく自分だったのかもしれない。
私も誰かに愛情を向けられたことがあったのかもしれない。
伝えなきゃ伝わらない。
守ってばかりじゃ、たどり着けない。
『俺、一生ゆののそばにいるから』
…一生。 って言った。 黎くん。
一生って、え、一生⁇
急にほてりを感じ始めて妙に暑くなる。
帰りがけに買ったペットボトルの水を一息に飲み干した。
その場の勢いかもしれないし、言葉の綾かもしれない。
でも。
誰かに受け入れてもらえるって、思いが通じるって、
こんなにも、こんなにも、幸せなことなんだな。
失くすことばかりを恐れて勇気を出さなければ、
この幸せを知ることはなかった。
「ゆの先生が誤解したの、私のせいですね」
澪さんがお風呂やら着替えやらの用意をしてくれながら、自嘲混じりに言った。
「斗哉は父親がいないんです。相手は誰にも言えなかった。親には泣かれて、それでも産むならって絶縁されました。黎だけが味方になってくれたんです。父親になってやるって、…」
澪さんの寂し気な表情が胸に刺さる。
誰にも言えない相手に恋をするって、多分、ものすごく辛い。
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傷ついて苦しんでもがいて、それでも尚、こんなにも美しい。
もしかしたら、だからこそ、美しいのかもしれない。
「斗哉、黎の小さい頃によく似ていて。可愛がって、守ってくれました。だから斗哉は、あまり寂しい思いをしていないと思います」
澪さんが優しい微笑みを見せた。
斗哉くんは黎くんの甥御さんになるわけだから、まあ似ているのも頷ける。
そうか、『パパ』ってそういうことだったのか。
「でも、黎、本当は怒ってたんだと思います。私にも相手にも世間にも。未婚で育てる苦労も、世間の厳しい風当たりも、全部知っているから。だから、先生が結婚されている人と付き合ってるって思って、あんな、…怒ったっていうか、心配したっていうか、…」
澪さんの言わんとすることが、すごくよく分かった。
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