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feel.6

04.

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そろそろとスマホを取り出して画面を見ると、

『calling "re"』

無駄に高鳴る心臓が痛い。
ごまかしようのない期待と罪悪感。

別に、電話をしてはいけない、ということはないはず。

誰に対する言い訳なのか分からないまま、指で画面をスライドした。

「今日、会える?」

少しかすれて、どこか気だるげで、耳に甘く響く声。
私に黎くんからのお誘いを断れるわけがない。

「…うん」

別に、会ってはいけない、ということはないはず。

完璧美人の澪さんと、愛らしい斗哉くんと、優しい榊さんの顔が浮かび、

「…お先に失礼します」

通路の向こうから、わざわざ少し近寄って挑むように声をかけていった美南さんの険しい横顔が見え、

「じゃあ、迎えに行く」

聞こえた黎くんの声に泣きたくなった。

黎くんは結婚している。
黎くんを想ってはいけない。

「…うん」

どうしたらいいんだろう。
自分がクズ過ぎる。

黎くんからの連絡が、泣きたいくらい嬉しい。

「急用? 分かった。後で電話するね」

榊さんに先に帰ると告げると、あっさりと承諾されて、かえって罪悪感が増した。
榊さん、急用が何か分かっているような気がする。

練習しようって言ってくれたのに。
ソウルメイトとまで言ってくれたのに。

榊さんの感情が視えないことも、もどかしい。

『それ。捨てといて。離婚が成立したんだ』

自意識過剰だけど。

それって、私のせい、…だよね。



「お疲れ」

研究センター近くの創作料理のお店で黎くんと待ち合わせた。

手足が長くて、身長が高くて、均整の取れた身体で、
暗がりにたたずんでいても人目を惹く甘い顔立ちで、

私を見つけた黎くんが微笑みを投げてくれる。

ダメだ。

会ってはいけない、ということはあった。
私に邪な気持ちがある以上、これは罪だ。

この震えるくらいかっこいい人が私を待っていてくれる奇跡が嬉しい。

こんなに嬉しいなんて、裏切り行為だ。

「…ゆのって、飲めるの?」

黎くんが当たり前みたいに私の手を取り、和のテイストが漂う隠れ家風のお店に誘う。

常識もモラルもなくなる。

黎くんの手の感触が嬉しい。
名前を呼んでくれることが嬉しい。

多分、地獄に落ちる。
AN摂取者に狙われたのは、報いなのかもしれない。
次は助からないかもしれない。

それでも。

この手を離したくない。なんて。

「事故を起こした2人だけど、2人とも中里大学病院と関係がある。…ゆのの大学だよね?」

カウンター席で、すぐ隣に黎くんの気配を感じながら、契約農家で作られたという新鮮野菜料理の数々を頂いた。

「森江修二は精神疾患の治療で中里大学病院に通院中。榎本治信はつい最近まで中里大学病院で病院バスドライバーとして雇われていた」

黎くんが誘ってくれたのは、事故について話すためで、それ以上でも以下でもない。

しっかりしろ、ゆの。
ネジの外れた頭を戒めた。
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