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feel.5
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美しく妖艶で可愛らしい。
様々なリンゴたちは、作り手の情熱と愛情に溢れていた。
心地よい色と音の洪水。芳香。
『残り香捜査みたいなこと、出来ないかと思って』
感情が込められたものには確かに匂いが残る。
盗まれた「AN」の行方を探すことは、嬉しいことばかりじゃないかもしれないけれど、疎んじていた自分の性質を役に立てることが出来るなら、
悪い話じゃないかもしれない。
『変わり者が隠れる時代は終わったの』
作品に宿る創造主の魂が力をくれた。
すっかり引き込まれながらアート展を見て歩いていると、
『新進気鋭のアートデザイナー 一ノ瀬 黎 rei ichinose の魅力』
他の作品たちとは少し隔てられ、明らかに人が殺到している一角があった。
「…黎くん」
隣を見上げると、黎くんの柔らかい瞳に見つめ返された。
「興味ある? センセ」
つないだままの手。触れそうな距離。
揺れるブレスレット。黎くんの匂い。
「あ、…」
あるに決まってるじゃ――んっ‼
大声で叫びたいくらいだったのに、
「パパ――っ‼」
別の大声と後ろから黎くんに飛びついてきた小柄な物体に阻まれた。
パ、…
「あれ? 斗哉、来てたの」
幼稚園児くらいの男の子が黎くんの足にしがみついて、ずっとつないでくれていた黎くんの手が離れた。
黎くんに抱きあげられた男の子が勝ち誇ったように私を見下ろす。
パパ。
って言いました? 今、あなた。
つぶらな瞳。長いまつ毛。
凛々しい眉。整った鼻筋。
トウヤと呼ばれた男の子と見つめ合う。
…似てる。
少年時代の黎くんに。
多分、小さい頃の黎くんはこんな感じだったんだろうな、と思うほどに。
「ママよりブス。ママよりオバサン」
まじまじと私を値踏みしていた男の子は、愛らしく笑って毒を吐いた。
「おい」
黎くんが斗哉くんを軽く小突くも、
「ぜんぜんカワイくない」
その口は止まらない。
サクサクと何かが胸に刺さるけれど、まあ、仕方がない。
ブスでオバサンなのは、その通りだし。
子どもだし。子ども、…子ども⁉
「ママは?」
「置いてきた――」
無邪気に笑うこの男の子は、黎くんの子どもなの?
黎くん、 子どもがいるの? 結婚してるの?
衝撃的過ぎて理解が追い付かない。
遠い存在なのは分かっていたけれど。
でも、だけど。
独り暮らしっぽかったし、彼女っぽい女の子がいたし、
来てくれたし、抱きしめてくれたし、ブレスくれたし、手つないでくれたし、…
「あ、ママっ」
斗哉くんが黎くんから降りて駆け出す。
遠くから見てもスタイルの良さが際立つ女性が、ギャラリーを静かに横切りながら近づいて、斗哉くんを抱き上げた。
様々なリンゴたちは、作り手の情熱と愛情に溢れていた。
心地よい色と音の洪水。芳香。
『残り香捜査みたいなこと、出来ないかと思って』
感情が込められたものには確かに匂いが残る。
盗まれた「AN」の行方を探すことは、嬉しいことばかりじゃないかもしれないけれど、疎んじていた自分の性質を役に立てることが出来るなら、
悪い話じゃないかもしれない。
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すっかり引き込まれながらアート展を見て歩いていると、
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「…黎くん」
隣を見上げると、黎くんの柔らかい瞳に見つめ返された。
「興味ある? センセ」
つないだままの手。触れそうな距離。
揺れるブレスレット。黎くんの匂い。
「あ、…」
あるに決まってるじゃ――んっ‼
大声で叫びたいくらいだったのに、
「パパ――っ‼」
別の大声と後ろから黎くんに飛びついてきた小柄な物体に阻まれた。
パ、…
「あれ? 斗哉、来てたの」
幼稚園児くらいの男の子が黎くんの足にしがみついて、ずっとつないでくれていた黎くんの手が離れた。
黎くんに抱きあげられた男の子が勝ち誇ったように私を見下ろす。
パパ。
って言いました? 今、あなた。
つぶらな瞳。長いまつ毛。
凛々しい眉。整った鼻筋。
トウヤと呼ばれた男の子と見つめ合う。
…似てる。
少年時代の黎くんに。
多分、小さい頃の黎くんはこんな感じだったんだろうな、と思うほどに。
「ママよりブス。ママよりオバサン」
まじまじと私を値踏みしていた男の子は、愛らしく笑って毒を吐いた。
「おい」
黎くんが斗哉くんを軽く小突くも、
「ぜんぜんカワイくない」
その口は止まらない。
サクサクと何かが胸に刺さるけれど、まあ、仕方がない。
ブスでオバサンなのは、その通りだし。
子どもだし。子ども、…子ども⁉
「ママは?」
「置いてきた――」
無邪気に笑うこの男の子は、黎くんの子どもなの?
黎くん、 子どもがいるの? 結婚してるの?
衝撃的過ぎて理解が追い付かない。
遠い存在なのは分かっていたけれど。
でも、だけど。
独り暮らしっぽかったし、彼女っぽい女の子がいたし、
来てくれたし、抱きしめてくれたし、ブレスくれたし、手つないでくれたし、…
「あ、ママっ」
斗哉くんが黎くんから降りて駆け出す。
遠くから見てもスタイルの良さが際立つ女性が、ギャラリーを静かに横切りながら近づいて、斗哉くんを抱き上げた。
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