Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】

feel.2

01．

床から天井まで広がる一面のガラス窓。
都心の街並みが一望できるダイナミックな空間。
色鮮やかなソファ席に洗練された動きで訪れるスタッフ。

高層ホテルの最上階に位置するフレンチレストランのスペシャルランチセット。
季節の新鮮サラダ、香り豊かな冷製スープ、3種のミニパスタ、デザートバイキング、…

平日の昼下がり。
悪夢のような出来事から一転、非日常的な贅沢空間にいる。
大人エリート紳士の榊さんと2人で。

私の肩の刺傷はそれほど深くはなかったらしく、
病院で医師の説明を受け、点滴治療が終わった後、次回通院の予約をして帰っていいことになった。

「じゃあ、…昼ごはんだな」

病院を出た後、意外と強引な榊さんに押し切られて、優雅で雰囲気の良い、一介の研究助手には夢のような素敵空間でランチタイムを過ごしている。

「美味しいっ」

シャキシャキ新鮮で、柔らかくて、温かくて、いい香りで、のどごし軽やか。
さすがの一流クオリティ。

でも。それを抜きにしても。
こんな素敵空間に榊さんと2人でいるということに、密かにボルテージが上がっていることは否めない。

ちらりと目を向けると、斜め隣りに座った榊さんの柔らかい笑みを刻んだ瞳に見つめ返された。

こんな風に。
おしゃれな都会のお店で、スマートに気が利いた男の人と食事をするなんて。

哀しいかな。
こんなデートみたいなこと、初めてかもしれない。

「…不便だな」

鎮痛剤の効果もあり、痛みは全くないけれど、右肩が固定されているせいで、フォークさばきがギクシャクする。

そんな私の姿を見て、つぶやいた榊さんが、

「はい、口開けて」

ものすごくナチュラルに、私に代わって手にしたフォークで料理をすくった。

これは、…

巷で噂のリア充と言われる方々が、食べさせ合ったりする行為ではないでしょうか。

という、不埒な思いが一瞬頭をよぎるも、完全に親切心しか見当たらない榊さんのまなざしに、自分を恥じた。

30歳近くなって、生まれて初めてのデートもどきな状況に浮かれている自分とは違う。

榊さんは、洗練された大人の男の人として、純粋に手を貸してくれただけ。
鈍臭いのでケガをした出来の悪い部下が、ちんたら食べているのが目に余っただけ。

ここは、…

「…ありがとうございます」

慣れた振りでそれとなく頂くのが吉。

有り金全てをどぶに捨てる勢いで目の前のフォークにかぶりついたら、勢い余って口の中を噛んだ。

地味に痛い。

人生がソーシャルディスタンスそのものだった私には、出過ぎた真似でありました…