Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】

feel.1

04．

彼は。
ネイビーのスクールネクタイをしていた。

『深森ゆのです。このクラスの化学を担当します』

大学生の時、教員免許状を取得するための教育実習で母校を訪れた。

他人と関わるのを避けている自分に、教師が務まるわけがない、と分かっていたのに資格取得に挑戦したことを後悔した。

職員室では浮き、教生仲間とも馴染めず、生徒からは煙たがられる。

それでもなんとか日程をこなして、最終日。
折の合わない指導教官ともやっと離れられると安堵したのに、

誰もいない教室の壁に追い詰められた。

必要以上に近づくのを避けていたから、まるで気づかなかった。

強い刺激臭。焼き尽くす。焦げる。ガソリンのような。灼熱地獄。
紅赤。紅蓮。鮮やかな赤。ラメ。煌びやかな真紅。欲情。興奮。
お湯が沸騰するような。太鼓が響くような。振動音。

指導教官は、欲情していた。
私を性的対象に見て、興奮している。

悲鳴を上げる前に、吐き気が込み上げて、
押さえようとした口は指導教官の厚い手に覆われた。

強い力で壁に押し付けられて、首筋にざらりとした舌の感触がした瞬間、
知覚が飽和点を超えて、目の前が暗くなった。

放課後の教室。黒板消しの影。
空気中に舞うチョークの粉。
部活動に励む声。誰かの靴音。

『ふざけんなっ‼︎』

霞みがかった意識の中で、横蹴りにされた指導教官が無様に倒れ、言い訳がましい捨て台詞を吐きながら、逃げるように教室を出て行くのを見た。

『…大丈夫。俺が守ってやる』

あの時、抱きしめてくれた温かくて力強い、優しい優しい腕は、

もう。
どこにもないのに。

今でもまだ夢に見る。

黎れいくん。

彼は、感情の匂いが視えない。
男らしくて爽やかな彼の匂いしかしない。

初めて、誰かの前で鎧を外した。
彼は全力で私を抱きしめてくれた。

彼だけが私に触れて、彼だけが私の魂を癒した。

制服の半そでシャツ。
ネイビーのスクールネクタイ。
早まる鼓動。虫たちの鳴き声。
白いカーテン。湿った風。
太陽が空に焼き付けた残像。

私を抱きしめてくれた男の子は、
硬く引き締まった肢体と長い手足の中に私を閉じ込めて、
滑らかな指先でそっと涙に触れた。

『ゆの』

甘くかすれた声で私を呼んで、艶やかに濡れた唇で私に触れた。

涙が出るくらい、優しい優しいキスだった。