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iiyori.10

06.

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「振られてないってどういうこと?」
「付き合ってるってこと?」

生徒たちが意外と鋭いところを突いてきて、クラス内がざわついた。

「それは、…っ」

ピュアボーイズ&ガールズたちの、純粋な仔犬のような目が私を見ている。

「つまり、卯月は私の子どもだけど、穂月は私の子どもじゃなくて、…穂月は私の、お、…お、お、…っ」

クラス中から好奇の視線にさらされている。
未だかつて、授業中、こんなに真剣な表情をしている生徒たちを見たことがあっただろうか。いやない。(え、ないの。私の授業の価値って、…)

発言が、注目されている。

大人として。社会人として。教育者として。
常識ある言動を取らなきゃいけない。
生徒たちの見本となるよう、鑑のような行動を、…

「穂月は私のおっ、…と、なので、これから区役所行ってきますっっ!!」

きますっ、きます、きます、…アホみたいに喚いた大声が自分の頭の中でこだました。

なんか、大事なとこ噛んだ。
顔が燃えるように熱い。心臓が潰れそうに痛い。
全力疾走した時よりも息が切れて呼吸が苦しい。

しん、と静まり返った教室に、自分の心臓の音だけが高速で鳴り響く。

あ。なんか冷静になるとつらい。やってしまった感満載。
私、自分は真面目なだけが取り柄のつまんない人間だと思ってたけど、意外とやらかし系なのかもしれない。

クビ、…かもしれない。
何たら条例に違反するかもしれない。保護者から苦情が殺到するかもしれない。軽蔑される。後ろ指をさされる。罵詈雑言を浴びせられる。職を失う。人間失格、…

でも、だけど。

誤魔化したくなかった。
健全な叔母と甥の関係とか、嘘だから。穂月のことが好きだから。
穂月のことが好きで好きで、大事な子どもも授かったから。

『なえ。俺の妻だ』

穂月は最初からちゃんとそう宣言してくれた。

時を超えて会いに来てくれた。
どんな時代でも私を見つけてくれた。

だから、…

パチ、…パチパチ、…
パチパチパチ、パチパチパチっ、…

控えめな拍手は、すぐに勢いを増し、

「なえちゃん、結婚するんだ」「おめでとー」「おめでとー」
「あんなかっこよすぎる奴ゲットするなんてすごいじゃん」
「穂月、最初から夫婦だって言ってたもんな」
「まあ穂月の好みが特殊なのは置いといて」
「アイツ全くなえちゃんしか見てないもんな」

予期せぬ大喝采が起こって、クラス中が興奮の渦に巻き込まれた。

おめでとう、おめでとう、…口々に叫ぶ生徒たちの顔が涙に滲む。
私は愚かな大人で、生徒たちはいつも驚くほど寛大だ。

感極まっていたら、唐突に教室のドアが開いた。
普通に3時間目の授業中で、こんな大騒ぎして迷惑だったと思い、

「うるさくてすみませ、…」

「一人で先走っちゃダメじゃん。結婚会見は二人そろわなきゃ」

とっさに謝ったら、入ってきたのは違うクラスで授業を受けていた鷹峰くんで、卯月を抱っこした穂月を伴っていた。
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