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iiyori.08
09.
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「思いが弱~~~いっ!!」
スパルタ酒豪の怒声が響く。
志田城下穂月別邸。時は真夜中。
三姫から幽体離脱ならぬ実体浮遊の実践指導を受けている。
「もっとっ、もそっと、魂を振り絞るようにっ!! 会いたくて会いたくて会いたい思いを詰め込まぬかっっ」
鷹朋さんにお酌をさせながら酒瓶を振り回す三姫は、すでに酒瓶を三本空けていて、酔いっぷりもマイペースぶりも絶好調。穂月様秘蔵とマキちゃんが持ってきたお酒を非常にお気に召したらしい。
「穂月様に一目なりとも会いたいという切なさが足りぬっ!! 恋に恋焦がれる濃度が薄いんじゃ、石ころがっっ」
そんな無茶な、…
恋に恋い焦がれるって何??
三姫の無茶ぶり指導を受けているのは、敵軍に単身乗り込んで和平交渉に挑む穂月の力になりたいから。何の身分も能力もない私だけど、唯一、未来から魂だけで飛んできたという特殊性がある。これを活かして三姫みたいに便利な浮遊術をマスターできたら、穂月の元にも晴信のとこにも飛んでいけるし、もう一人、対峙して白黒つけたい相手もいる。
「せっかく妾が素晴らしい教授を繰り広げておるというに、そなたには切実さが足りぬ。ほれ、もっと回らぬか。ほれ、回れ回れ、あ、ほれ、回れ」
三姫に囃し立てられてその場で回ってみる。
普通に目が回り、ふらふらする私を見世物に、三姫は楽しそうに呑んでいる。もはや遊ばれているだけな気もしなくもないが、他に出来ることがない。
「ほれほれ、回れ。回れ回れ回れぞよ」
三姫には、聞きたいことがある。
それはもちろん、『穂月様の感触』ってどういう意味ですかってことで、あの夜這いに行った日、穂月と何があったのか、知りたいような、知りたくないような、気がする。
「穂月様の一大事とあらば、伝授してやらぬこともない」
と、私の依頼をあっさり引き受けてくれた三姫。いつになく協力的で、機嫌が良いのも気にかかる。
まあ、三姫は穂月の正妻なわけだから、何かあっても仕方ないというか、ない方がおかしいというか。しかもあの時三姫は私の振りをしていたわけだから、穂月は前の晩、私にしたみたいに、…
キイイイイイイ、…――――――
耳の上で風が鳴る。高速回転する駒みたいに止まれなくなる。目が回って周りの様子が霞んでいく。胸が痛い。苦しくて痛い。胃がキリキリする。
頭でどんなに理解しようと、心はまるで追いつかない。ツンと鼻の奥が痛くなって、唇をかみしめると、驚いたように私を見る鷹朋さんの顔が、新しい酒瓶を運んできたマキちゃんの顔が、風景に溶けて色を失って、遠く離れていった。
目が回る回る回る。
頭から脳みそだけがひねり出されるようなぐるぐるする気配があって、強く目を瞑った。びゅうびゅう身体に風を感じる。吹き飛ばされないようお腹に力を入れて目を開けると、
「わ、…っ」
闇夜に浮いていた。
足元の、はるか下の方に木々に囲まれたお屋敷が見える。小高い丘の上に立つ志田城が、そこから続く整備された街並みが、離陸する飛行機から見下ろしているかのように、とても小さく見えた。
スパルタ酒豪の怒声が響く。
志田城下穂月別邸。時は真夜中。
三姫から幽体離脱ならぬ実体浮遊の実践指導を受けている。
「もっとっ、もそっと、魂を振り絞るようにっ!! 会いたくて会いたくて会いたい思いを詰め込まぬかっっ」
鷹朋さんにお酌をさせながら酒瓶を振り回す三姫は、すでに酒瓶を三本空けていて、酔いっぷりもマイペースぶりも絶好調。穂月様秘蔵とマキちゃんが持ってきたお酒を非常にお気に召したらしい。
「穂月様に一目なりとも会いたいという切なさが足りぬっ!! 恋に恋焦がれる濃度が薄いんじゃ、石ころがっっ」
そんな無茶な、…
恋に恋い焦がれるって何??
三姫の無茶ぶり指導を受けているのは、敵軍に単身乗り込んで和平交渉に挑む穂月の力になりたいから。何の身分も能力もない私だけど、唯一、未来から魂だけで飛んできたという特殊性がある。これを活かして三姫みたいに便利な浮遊術をマスターできたら、穂月の元にも晴信のとこにも飛んでいけるし、もう一人、対峙して白黒つけたい相手もいる。
「せっかく妾が素晴らしい教授を繰り広げておるというに、そなたには切実さが足りぬ。ほれ、もっと回らぬか。ほれ、回れ回れ、あ、ほれ、回れ」
三姫に囃し立てられてその場で回ってみる。
普通に目が回り、ふらふらする私を見世物に、三姫は楽しそうに呑んでいる。もはや遊ばれているだけな気もしなくもないが、他に出来ることがない。
「ほれほれ、回れ。回れ回れ回れぞよ」
三姫には、聞きたいことがある。
それはもちろん、『穂月様の感触』ってどういう意味ですかってことで、あの夜這いに行った日、穂月と何があったのか、知りたいような、知りたくないような、気がする。
「穂月様の一大事とあらば、伝授してやらぬこともない」
と、私の依頼をあっさり引き受けてくれた三姫。いつになく協力的で、機嫌が良いのも気にかかる。
まあ、三姫は穂月の正妻なわけだから、何かあっても仕方ないというか、ない方がおかしいというか。しかもあの時三姫は私の振りをしていたわけだから、穂月は前の晩、私にしたみたいに、…
キイイイイイイ、…――――――
耳の上で風が鳴る。高速回転する駒みたいに止まれなくなる。目が回って周りの様子が霞んでいく。胸が痛い。苦しくて痛い。胃がキリキリする。
頭でどんなに理解しようと、心はまるで追いつかない。ツンと鼻の奥が痛くなって、唇をかみしめると、驚いたように私を見る鷹朋さんの顔が、新しい酒瓶を運んできたマキちゃんの顔が、風景に溶けて色を失って、遠く離れていった。
目が回る回る回る。
頭から脳みそだけがひねり出されるようなぐるぐるする気配があって、強く目を瞑った。びゅうびゅう身体に風を感じる。吹き飛ばされないようお腹に力を入れて目を開けると、
「わ、…っ」
闇夜に浮いていた。
足元の、はるか下の方に木々に囲まれたお屋敷が見える。小高い丘の上に立つ志田城が、そこから続く整備された街並みが、離陸する飛行機から見下ろしているかのように、とても小さく見えた。
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