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iiyori.08

06.

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『お前が言ったんだ、未来で待ってるって』

多分。
穂月は信じてくれると思う。

それでどうなるかは分からないけど。

「戦が終わったら、穂月様は真っ先にここに戻られるよ。穂月様のご心配ようは並じゃなかったもの」

マキちゃんはようやく起き上がれるようになった私に薬膳粥を作ってくれた。それをひとさじずつ口に入れると、じわじわ温かいものがお腹に広がって、自分が生き返っていくような気がした。マキちゃんのお世話は適切で手厚くて、さすが未来の養護教諭だと思う。

「あたしはさ、正直、穂月様には感情が欠如されてるんだと思ってた。城に上がる前から里でもみんなが恐れてた。何かへまをしたら即刻切り捨てられるって。実際、その通りで、忠臣だろうと肉親だろうと躊躇なく切り捨てて、それはそれは恐ろしかった。でもここにいらしたときの穂月様は、全然違った」

そこでマキちゃんは何かを思い出したらしく、ちょっと顔を赤らめた。

「すごく、…なんか、普通の少年みたいにオロオロしてて、…薬師が大丈夫だと言っても聞かないし、ずっとあんたから離れないし。かいがいしく世話を焼いて、薬湯をく、…口移しで、…っ」

ちょっと待ってっ!!
それを人から聞かされるの、ものすごく恥ずかしいんだけどっ!?

マキちゃんと二人で茹で上げられたタコみたいになってしまった。確実に熱がぶり返している。絶対真っ赤になっている自信がある。

穂月ったら、穂月ったら、…
いや、嬉しいけどもっっ

「だからさ。良かったなと思って。ちゃんと人としての感情を動かせる相手に会えて、幸せなんじゃないかなって」

マキちゃんが凄く優しい顔をして笑った。

開けた襖の向こうに中庭が見える。夕暮れの空が薄明に見える。
しめやかな風に、往来を行く人の声が微かに混じる。
温かくてかけがえない思いが胸の奥に落ちていく。

もしもほんの少しでも。
誰かに喜んでもらったり幸せを感じてもらったりすることが出来たのなら。

私がここにいる意味もあるかもしれない。
そう思っても、いいかな、穂月。


…でも。
それから更に三日が経っても穂月は戻ってこなかった。

すっかり熱も下がり、体力も回復して、マキちゃんと掃除したり洗濯したり、お裁縫を教えてもらったりして、ご飯も美味しく食べられるようになったのに、穂月は帰ってこない。

戦況がどうなっているのかここまでは伝わってこないけど、
陣の谷があるという西の方角が赤黒く染まっていて、なんだか胸騒ぎがする。

志田領内に、志田城主晴信が嫡男・志田穂月が敵軍羽間の総大将・羽間はざま勝光まさみつに捕らえられたという知らせが届いたのは、それから間もなくのことだった。
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