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8章.なな色ウエディング
10.
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フラワーシャワーに彩られながら、ななせと手をつないでチャペルガーデンに入った。一面に広がる青い海を見渡すことのできる緑豊かなガーデンで、写真を撮ったり、散歩したり、ティーパーティーを催したり、くつろぎのひと時を過ごす。
「…満面の笑みで見てるでしょうね」
「そうね、あの人たちには感謝しかないわ」
海が見えるこの丘の麓に、私の父とななせの生みのお母さんが眠っている。入籍した時にも挨拶に行ったけれど、今日もこの後お参りに行く予定だ。
ななせは、離婚した父が再婚した相手の連れ子で、10歳の時に事故で両親を亡くして母の養子になった。ななせを養子にした母も複雑な心境だったと思うけど、ななせの実のお父さんである穂積さんと結婚していた御堂母さんも、ななせのお母さんやななせの存在に心を乱されていた。
でも今は、そんな二人が肩を並べて一緒に海を眺めている。
「人を好きになるってシンプルで貴いわよね。人生って複雑だけど、ただ好きなだけで、その気持ちだけで生きていけたら幸せよねえ」
「あら。この結婚を祝福してるんだもの。私たち、もうとっくにそう生きてるわよ、さゆゆ」
「み、…みぃちゃ~~~んっ」
ひっしと抱き合う中年女性二人。実母と姑の仲は良好のようです。
「つぼみ、これ美味しい」
ティーパーティーでは、紅茶もコーヒーも用意してくれていて、スコーン、サンドイッチ、ペイストリーがのせられた英国アフタヌーンティー風の三段トレイもある。ななせがそこからスコーンを取り分けて私の口に突っ込んだ。
「なにふ、…ふっ、…おいしいっ!!」
焼き立ての芳ばしさ。芳醇なバターの香り。サクサクした噛み応え。すっととろけるような喉ごし。ガーデンパーティー最高かよ。
「お前、全然食べてなくね? 大食いなのに」
ななせが自分も頬張りながら気遣うように小首を傾げた。
まあそれは、今日の今日までいろいろあってバッタバタで、今日は今日で感動し過ぎて何も喉を通らなかったっていうかね、…
と思いながら、ななせとスコーンを味わう幸せを噛みしめた。
霧雨に霞む英国で。
格調高そうなホテルの本格アフタヌーンティに触れる機会があったけれど、全然美味しく食べられなかった。私はななせがいないと全然ダメで。ななせだけが私を私らしくいさせてくれる。ななせが好き。私にはそれしかない。
「…おかわりっ」
調子に乗って大口を開けたら、
「はいはい」
すごく優しい顔をしたななせが、また取り分けて食べさせてくれた。無限の幸せが降り積もる。
この瞬間は過去からの贈り物で、未来へのプレゼント。
もう立ち直れないと思うほど悲しいこともたくさんあったけど、それがあって今がある。全部を合わせてななせをもっと好きになった。これから先もやっぱりいろいろあるんだろうけど、それも全部未来に贈る力になるんじゃないかと思う。
「…大好き」
大きすぎる気持ちはうまく言葉に出来なくて、結局それしか出てこない。
「現金な奴」
ななせは、なんだか少し照れたみたいに笑って、優しくキスしてくれた。
「…父さんと母さんが俺を置いていった時、恨んだりもしたんだけど。でも今は俺を守ってくれたこと、感謝してる」
思いを馳せるように、晴れやかに澄んだ青く蒼く碧い海を見やってから、ななせが愛しさだけを瞳に浮かべて、私を見つめる。
「つぼみ、俺を諦めないでくれてありがとう。俺、もう大丈夫だと思う」
頬を撫でるななせの指が、滑らかで心地よくて好き過ぎて潤む。
…うん。うん。…もう大丈夫。
好きが溢れていっぱいいっぱいで、
…大丈夫? って、何が?
幸せの花が咲き乱れている頭は正直あまり回転していない。
「…そっか。まあ、ななせは、ウニが大好きってことかな?」
私の代わりに全てを心得たような侑さんが優しく笑うと、
「ウニは、…世界で一番可愛い動物だと思ってる」
滑らかな手で私の頬を包んで、ななせがもう一度、甘くて優しいキスをしてくれた。
「…満面の笑みで見てるでしょうね」
「そうね、あの人たちには感謝しかないわ」
海が見えるこの丘の麓に、私の父とななせの生みのお母さんが眠っている。入籍した時にも挨拶に行ったけれど、今日もこの後お参りに行く予定だ。
ななせは、離婚した父が再婚した相手の連れ子で、10歳の時に事故で両親を亡くして母の養子になった。ななせを養子にした母も複雑な心境だったと思うけど、ななせの実のお父さんである穂積さんと結婚していた御堂母さんも、ななせのお母さんやななせの存在に心を乱されていた。
でも今は、そんな二人が肩を並べて一緒に海を眺めている。
「人を好きになるってシンプルで貴いわよね。人生って複雑だけど、ただ好きなだけで、その気持ちだけで生きていけたら幸せよねえ」
「あら。この結婚を祝福してるんだもの。私たち、もうとっくにそう生きてるわよ、さゆゆ」
「み、…みぃちゃ~~~んっ」
ひっしと抱き合う中年女性二人。実母と姑の仲は良好のようです。
「つぼみ、これ美味しい」
ティーパーティーでは、紅茶もコーヒーも用意してくれていて、スコーン、サンドイッチ、ペイストリーがのせられた英国アフタヌーンティー風の三段トレイもある。ななせがそこからスコーンを取り分けて私の口に突っ込んだ。
「なにふ、…ふっ、…おいしいっ!!」
焼き立ての芳ばしさ。芳醇なバターの香り。サクサクした噛み応え。すっととろけるような喉ごし。ガーデンパーティー最高かよ。
「お前、全然食べてなくね? 大食いなのに」
ななせが自分も頬張りながら気遣うように小首を傾げた。
まあそれは、今日の今日までいろいろあってバッタバタで、今日は今日で感動し過ぎて何も喉を通らなかったっていうかね、…
と思いながら、ななせとスコーンを味わう幸せを噛みしめた。
霧雨に霞む英国で。
格調高そうなホテルの本格アフタヌーンティに触れる機会があったけれど、全然美味しく食べられなかった。私はななせがいないと全然ダメで。ななせだけが私を私らしくいさせてくれる。ななせが好き。私にはそれしかない。
「…おかわりっ」
調子に乗って大口を開けたら、
「はいはい」
すごく優しい顔をしたななせが、また取り分けて食べさせてくれた。無限の幸せが降り積もる。
この瞬間は過去からの贈り物で、未来へのプレゼント。
もう立ち直れないと思うほど悲しいこともたくさんあったけど、それがあって今がある。全部を合わせてななせをもっと好きになった。これから先もやっぱりいろいろあるんだろうけど、それも全部未来に贈る力になるんじゃないかと思う。
「…大好き」
大きすぎる気持ちはうまく言葉に出来なくて、結局それしか出てこない。
「現金な奴」
ななせは、なんだか少し照れたみたいに笑って、優しくキスしてくれた。
「…父さんと母さんが俺を置いていった時、恨んだりもしたんだけど。でも今は俺を守ってくれたこと、感謝してる」
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