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8章.なな色ウエディング
08.
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心地良い車の振動に揺られながら、傍らの温もりに安心して、夢を見た。
『わたし、カレーライス作れるんだ』
『…クソまずい』
口が悪くて無愛想で、私が作った料理を残さず食べてくれるななせが、
『ずっとななせにそばにいて欲しい』
怖がりな私のために、手を繋いで一緒に寝てくれる夢。
ななせがいると安心するの。ななせが元気だと元気になるの。
ななせが笑うと笑顔になれる。
ななせが痛いとわたしも痛いの。悲しそうだと涙が出るの。
ハンカチに包んでポケットに入れて大事にしたいの。
壊れないようになくさないように。
誰にも傷つけられないように。
わたし、元気が出るもの作るから。
この手が今より大きくなって少し疲れてしわしわになっても。
ななせに元気をあげたいの。
だからまた、手をつないで。
この手が今より大きくなって少し疲れてしわしわになっても。
隣で手をつないでいてほしい。
「…ななせ、だいすき」
「うん、俺も好きだよ」
唇に優しい温もりを感じて目を開けたら、まつ毛が触れそうなほど近くにななせの麗しいドアップがあって、息が止まるかと思った。ゆっ、夢の続き、…っ!?
「つぼみ、起きろ。着いたぞ」
な、はずはなく、着いたら起こす任務を担っていたのに、まさかのななせに逆に起こされるという失態を演じてしまった。
「はい、…」
だけでなく、寝ぼけた頭はふわふわと夢見がちで、ななせ、大人になってる。怖いくらいかっこいい。とかお花畑一色で、目の前にあるななせの首に手を回して抱き着いてしまうという、…
「なにお前。可愛いな」
失態に失態を重ねたのにもかかわらず、ななせはふっと笑って耳にキスすると、そのまま私を抱き上げて車から降ろしてくれた。
「つぼみ、起きたか?」
「ん~、なんか寝ぼけてる」
車を降りて荷物を持った侑さんと並んで、私を抱えたままななせが歩き出す。それが余りにもスマートで、や、すみません。もう起きましたっ。大丈夫っす。降ろして下さい。というタイミングを完全に逃した。みみみ、耳が熱い。心臓がサンバルンバで収拾がつかない。
「まあつぼみも激動の一か月だったからな」
「…うん、悪かったと思ってる」
「へえ、…」
潮風が気持ちいい高台で、まばゆい日差しを浴びながら、三角屋根の牧歌的な教会に向かう。明るい空と深い海の青さに木々の緑が映えて、白亜色の建物を神秘的に彩っている。
速やかに歩いていた侑さんが、何かに気づいたように少し言葉を切ったけれど、
「つぼみのウエディングドレス、一ノ瀬さんが特別にデザインした奴なんだって? 見るの楽しみだな」
爽やかな笑顔で和やかに話を続けると、
「…めっちゃクソ可愛い。見せるの勿体ない」
ななせは心を直撃する甘い声でつぶやいて、ぎゅううっと私を抱きしめる腕に力を込めた。
『わたし、カレーライス作れるんだ』
『…クソまずい』
口が悪くて無愛想で、私が作った料理を残さず食べてくれるななせが、
『ずっとななせにそばにいて欲しい』
怖がりな私のために、手を繋いで一緒に寝てくれる夢。
ななせがいると安心するの。ななせが元気だと元気になるの。
ななせが笑うと笑顔になれる。
ななせが痛いとわたしも痛いの。悲しそうだと涙が出るの。
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壊れないようになくさないように。
誰にも傷つけられないように。
わたし、元気が出るもの作るから。
この手が今より大きくなって少し疲れてしわしわになっても。
ななせに元気をあげたいの。
だからまた、手をつないで。
この手が今より大きくなって少し疲れてしわしわになっても。
隣で手をつないでいてほしい。
「…ななせ、だいすき」
「うん、俺も好きだよ」
唇に優しい温もりを感じて目を開けたら、まつ毛が触れそうなほど近くにななせの麗しいドアップがあって、息が止まるかと思った。ゆっ、夢の続き、…っ!?
「つぼみ、起きろ。着いたぞ」
な、はずはなく、着いたら起こす任務を担っていたのに、まさかのななせに逆に起こされるという失態を演じてしまった。
「はい、…」
だけでなく、寝ぼけた頭はふわふわと夢見がちで、ななせ、大人になってる。怖いくらいかっこいい。とかお花畑一色で、目の前にあるななせの首に手を回して抱き着いてしまうという、…
「なにお前。可愛いな」
失態に失態を重ねたのにもかかわらず、ななせはふっと笑って耳にキスすると、そのまま私を抱き上げて車から降ろしてくれた。
「つぼみ、起きたか?」
「ん~、なんか寝ぼけてる」
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