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6章.さいご色コーズアイラブ

09.

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え、それって、…

「デートっ!?」

思いがけないななせからのお誘いに、顔を上げて伸び上がったら、ななせが半身を翻して私を片腕で抱えた。

「まあ、…」

そのまま私の頭を肩口に押し付けて、

「…そうだな」

髪に指を絡めて弄びながら、低い声で頷く。

マ――ジ――で―――っ!!

突如降ってきた奇跡に浮かれずにはいられない。

「どっ、…どこ行く!?」

前のめりに鼻息が荒くなるのも仕方ない。
ななせとデートですよ。
あの、釣れない・冷たい・素っ気ないの三大タイトルばく進中のななせとっ
え。起きたら夢とかだったらどうしよう。

「…どこでもいいなら、海でも行くか。車借りるから」

マ――ジ――で―――っ!!

鼻息ゴリラな私にもひるまず、ななせが髪に絡めた指で頭を撫でる。

なんかすごい女の子扱いっていうか、急な甘さに悶えるっていうか。
遠足前日の興奮っていうか、先生バナナはおやつに入りますか、みたいな。

盛大な鼻息で架空のバナナを転がしてから気が付いた。
ん? 車?

「…あれ。ななせ免許、…」
「取ったよ」
「いつの間にっ!?」

…いや、そういえば。
前から免許欲しいみたいなこと言ってたような気も。しないでもないような。
でもでも早くない? 早業過ぎんか?

ななせってホント何でもさらっと器用にこなすんだよね、…

「…迎えに行きたかったんだと思う」

うむむ、と感心していると、ななせが私の頭をポンポンして、

「料理再開」

私を抱えていた腕を解いて、砂を吐いたしじみに向き直った。
ななせの温もりが離れてちょっと寂しい。けど。

…迎えに。

『雨の日のお迎えっていうの、やってみたくなった』

ななせはずっとそう思ってくれていたのかな。免許を取ったら、車でお迎えに来てくれるつもりだったのかな。

何だか胸がいっぱいになる。

「よっしゃあ」

気合を入れて薄力粉と片栗粉を混ぜた。勢いが良すぎて粉が舞い立ち、顔が白くなるのも構わず、一心不乱に調理した。

ななせと海岸線をドライブデート。
考えただけでそわそわする。

何着ていこう。どんなメイクにしよう。髪の毛どうしよう。
ワンピース着たいな。海っぽいメイクで。ちょっと髪巻いたり?

就職して、バタバタして、ななせが事故に遭ったり、自分が事件に巻き込まれたりして。ここ最近おしゃれどころじゃなかったけど。

好きな人とデートって、いつでも、いくつになっても、何回やっても、人生最高のイベントじゃないですかね!!

ななせが作ってくれたきのこの炊き込みご飯としじみの味噌汁は文句なしに最高に美味しかった。

「おかわりっ」
「…よく食うな」
「おかわりっっ」
「…へいへい」

どうしたって食が進む。
ななせの手料理最高すぎる。

あ。写真撮っておくんだった!

「…退院おめでと」

ななせが揚げたての切り干し春巻きを摘まみながら、グラスに入れたビールを掲げた。

「ありがとう!」

小さなグラスに注いだビールを合わせて、一気に飲んだら喉ごしがほろ苦爽やかで、すごく幸せな気持ちになった。

こんな風に。ななせと。ずっとそばで。
買い物したりご飯作ったり乾杯したり。
そんな毎日が続いて欲しい。どうか。

「…おい、寝るなよ。風呂は?」
「…ななせと入る―――っ!!」
「…マジか」

このままここに。ずっとそばで。

「…お前、酒、弱すぎねえ?」

どうか。神さま。
こんな普通でかけがえのない、泣きたくなるほど幸せな今日が。
明日も続いていますように。
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