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4章.きき色デイリーライフ
03.
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「あのね、ななせ。全然違うからね。イギリスの人はその場に居合わせただけでキスしてないし、日本の人も偶然会った会社の人だし」
しかしながら。
私にとっては世間にどう思われるかよりも、ななせにどう思われるかの方がはるかに深刻なわけで。
別々のタクシーで帰宅した久しぶりの自宅マンションで、黙り込んだままのななせにご機嫌伺いをしてみる、が。
「…そんなこと聞いてねえ。夕飯どうするかな、って思っただけで、お前が誰とイチャついてようと俺には関係ない」
取りつく島もなく突っぱねられた。
ななせのご機嫌は、目下、最悪の最悪を更新中である。
まあ、口をきいてくれただけマシかもしれない。
でも、「関係ない」はぐっさり刺さる。再起不能。打ちのめされる。
関係ない。どうでもいい。
好きの反対は嫌いじゃなくて無関心。
私とななせの関係は、仕方なく保留になっている婚姻関係と、養子と実子の家族関係。ご主人様とペット。寝る人と枕。腹ペコとウニ、…
そんなの全部ななせの一存で、簡単になくなってしまう。
ななせにとっては事の真相なんて本当に関係ないのかもしれない。
私が誰とどうなろうと。どうでもいいのかも。侑さんに磨かれろってけしかけてきたくらいだし。
ななせが不機嫌なのは、私の軽率な行動によって自分が騒動に巻き込まれたからで、音楽以外の別の要因で騒がれることになってしまったからで、もしかしたら私がさっさと離婚に応じないからなのかも、…
「…で。どっちなんだよ」
ずどーんと、地底の奥深く、ドン底まで落ち込んでいたら、苦々しさを隠そうともしないななせの声が聞こえた。
「…どっち?」
不機嫌極まりなくリビングのソファに身を投げ出しているななせの前に、為す術もなく正座で控えていた私は、全然ピンとこなくて間抜け面で見返してしまった。
どっち、とは。
もしかして、夕飯のメニュー? 夕飯どうするかって言ってたし?
オムライスかハヤシライスかどっち、みたいな??
…え、どっちだろう??
目の前で、般若の形相をしたななせがブチ切れる音が聞こえた。
「右か左かっ!! どっちにキスされたかって聞いてんだよっ!!」
え、えええ、え――…、っと??
ななせの怒りの凄まじさに、頭が全然回らない。
「…えーっと、右? いや、左?? あ、やっぱ右だったかな??」
キス? って何だっけ? というレベルの思考回路しか働かない。
けど、ななせがめちゃくちゃ怒ってるから早く答えなきゃと焦って、答えてみたけどなんか外した。
「こんのクソ馬鹿っっ」
ブチ切れななせにソファに引き上げられて、右頬に吸い付かれ、左頬に噛みつかれた。
「い、…たい、…??」
痛いというか、そんな痛くないけど、びっくりというか。何というか、ちょっと訳が分からない。
「お前、一体自分をなんだと思ってんだ、このウニ丼っ!!」
え、…えーと、ウニの顔した人間のつもりだったり??
「お前はちゃんと俺の枕としての自覚を持て!!」
あそっか、ウニの顔した枕だったわ、…
なんて。
思考回路が崩壊寸前なのは、ななせに痛いくらい抱きしめられているからで。
ぎゅうぎゅうに私を抱きしめるななせが、ちょっと震えてるような気がする。ななせが怒ってるのは、ヤキモチめいたものなんじゃないかと錯覚してしまう。
「…ななせ。ごめんね」
比較してみたら、ななせの方が100倍ひどいような気もするけど。
お気に入りのおもちゃを取られて癇癪を起してる子どもみたいな気もするけど。
「枕としての役目を果たすよ。今日も一緒に寝よう?」
そっとななせの背中に両腕を回した。
愛の重さとか大きさとかは計れない。
私ばっかりななせを好きなような気がするけど。
「…夕飯、ハヤシライスにするなら寝てやってもいい」
あ、そっちだったんだ。
「うん、…」
計り知れないものを比べることに意味はない。
しかしながら。
私にとっては世間にどう思われるかよりも、ななせにどう思われるかの方がはるかに深刻なわけで。
別々のタクシーで帰宅した久しぶりの自宅マンションで、黙り込んだままのななせにご機嫌伺いをしてみる、が。
「…そんなこと聞いてねえ。夕飯どうするかな、って思っただけで、お前が誰とイチャついてようと俺には関係ない」
取りつく島もなく突っぱねられた。
ななせのご機嫌は、目下、最悪の最悪を更新中である。
まあ、口をきいてくれただけマシかもしれない。
でも、「関係ない」はぐっさり刺さる。再起不能。打ちのめされる。
関係ない。どうでもいい。
好きの反対は嫌いじゃなくて無関心。
私とななせの関係は、仕方なく保留になっている婚姻関係と、養子と実子の家族関係。ご主人様とペット。寝る人と枕。腹ペコとウニ、…
そんなの全部ななせの一存で、簡単になくなってしまう。
ななせにとっては事の真相なんて本当に関係ないのかもしれない。
私が誰とどうなろうと。どうでもいいのかも。侑さんに磨かれろってけしかけてきたくらいだし。
ななせが不機嫌なのは、私の軽率な行動によって自分が騒動に巻き込まれたからで、音楽以外の別の要因で騒がれることになってしまったからで、もしかしたら私がさっさと離婚に応じないからなのかも、…
「…で。どっちなんだよ」
ずどーんと、地底の奥深く、ドン底まで落ち込んでいたら、苦々しさを隠そうともしないななせの声が聞こえた。
「…どっち?」
不機嫌極まりなくリビングのソファに身を投げ出しているななせの前に、為す術もなく正座で控えていた私は、全然ピンとこなくて間抜け面で見返してしまった。
どっち、とは。
もしかして、夕飯のメニュー? 夕飯どうするかって言ってたし?
オムライスかハヤシライスかどっち、みたいな??
…え、どっちだろう??
目の前で、般若の形相をしたななせがブチ切れる音が聞こえた。
「右か左かっ!! どっちにキスされたかって聞いてんだよっ!!」
え、えええ、え――…、っと??
ななせの怒りの凄まじさに、頭が全然回らない。
「…えーっと、右? いや、左?? あ、やっぱ右だったかな??」
キス? って何だっけ? というレベルの思考回路しか働かない。
けど、ななせがめちゃくちゃ怒ってるから早く答えなきゃと焦って、答えてみたけどなんか外した。
「こんのクソ馬鹿っっ」
ブチ切れななせにソファに引き上げられて、右頬に吸い付かれ、左頬に噛みつかれた。
「い、…たい、…??」
痛いというか、そんな痛くないけど、びっくりというか。何というか、ちょっと訳が分からない。
「お前、一体自分をなんだと思ってんだ、このウニ丼っ!!」
え、…えーと、ウニの顔した人間のつもりだったり??
「お前はちゃんと俺の枕としての自覚を持て!!」
あそっか、ウニの顔した枕だったわ、…
なんて。
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私ばっかりななせを好きなような気がするけど。
「…夕飯、ハヤシライスにするなら寝てやってもいい」
あ、そっちだったんだ。
「うん、…」
計り知れないものを比べることに意味はない。
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